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イングランド(英国)の子どもコミッショナー、「家族」についての調査を開始

 3月下旬の記事の末尾で
〈イングランド子どもコミッショナーは今後、地域改善(Levelling Up)・住宅・コミュニティ担当閣外大臣と平等担当大臣の委嘱を受け、英国における現代の家族生活についての独立レビューも実施することになっています〉
 と書きましたが、そのための調査が4月27日に始まりました。コミッショナーのレイチェル・デ・スーザ(Dame Rachel de Souza)さんはFacebookで次のように述べています。

 本日、政府のために行なう、家族についての6か月間の独立レビューを開始します。あらゆる形態の家族は、うまく機能しているときは子どもの将来の成功と幸福の基盤となり、そうではないときはあまりにも多くの問題の増幅装置になることがあります。
https://www.childrenscommissioner.gov.uk/family/family-review/
 家族とは何か、家族は何を提供しているのかについて理解することが私の関心事です。この問題については、誰が家族であるべきか、その人々はどのように行動すべきかに関する決まりきった見方が、あまりにもしばしばのさばってきました。
 私は、子どもと親、さらにはより幅広い家族構成員の話を聴くことで、現在ではどのような要素が家族という単位をよいものにするのか、子どもたちはどのような対応が自分たちにとって一番うまくいくと答えるのか、知ることに関心を持っています。
 また、自分にとっては家族がうまく機能していないという人たちから話を聴くこと、そして、自分自身には何の責任もないのに多くの人々が理解しているものと同じ家族単位を持たず、それでもなお「家族」がいる子どもたちの、忘れられることが多すぎる声に耳を傾けることにも、関心があります。
(後略)

 また、今回のレビューに関する特設ページでは、次のような構想が示されています。

 レビューでは、コミュニティおよび公的サービス機関・ボランティアサービス機関から提供されている支援について子どもたちと家族がどのような見方をしているのか理解するため、質的・量的研究を活用していきます。個人の集合体ではなく単位としての家族のニーズを公的サービス機関が理解しているかどうか、探求します。また、家族のなかの子どもたちのニーズが家族へのサービス提供において理解されているかどうかを把握し、公的サービス機関による家族のニーズの理解のあり方を向上させることによって子どもたちのアウトカムを向上させることがどのように可能になるかを調べることにも努めます。

 このような構想に基づき、エビデンスに基づく情報提供の呼びかけ(Call for Evidence)が開始されました。

 同時に、6歳以上の子どもを対象とする簡単なアンケートも始まっています。その内容は次のとおりです。

 子どもコミッショナーは、子どもたちと家族の声をぜひ聴きたいと思っています!
 コミッショナーは、あなたが家族についてどんなふうに考えていて、家族生活についてどんなふうに感じているかを知りたいと考えています。
 いくつかの質問については、答えの候補のなかから選んでもらいます。そのほかの質問では、あなたが考えていることをあなた自身の言葉で書くようにお願いしています。
 これはテストではないことを忘れないようにしてください。正解も間違いもありません、ただ正直に答えてください!
 この下では、あなたの年齢とジェンダーについて尋ねています。次のページでは、あなたにとって家族とはどんなものかということについて、2つの質問をします。
 かならず答えてもらわないといけないのが星印(*)がついた質問だけですが、答えてもらったことは全部秘密にされます。
(中略)
あなたは次のどれかに当てはまりますか? 当てはまるものにチェックしてください。
 □ ケアリーバー
 □ 教員
 □ ソーシャルワーカー
 □ 親
 □ どれでもない
 □ 言いたくない
(平野注/今後、家族向け・専門家向けのアンケートも実施していく予定になっており、そのための質問事項が誤って含まれているのだと考えられます。特設ページでは、今回の質問は「子どもたち(6歳以上)」向けのものであることが明記されています)

「家族」という言葉を聞いて最初に思い浮かぶ3つの言葉は何ですか?*
1番(記入欄)*
2番(記入欄)*
3番(記入欄)*

あなたにとって家族とはどんなものか、あなた自身の言葉で教えてください。家族関係、思い出、家族の肯定的・否定的側面などが考えられます。
(記入欄)

 レビューの実施期間は半年間なので、今年末から来年初頭にかけて結果が発表されると思います。何か注目すべき動きがあれば、またお知らせします。

なお今回のレビューの委嘱は、英国内の不平等を調査するために設置された人種・民族的格差委員会(Commission on Race and Ethnic Disparities)の勧告を踏まえたものです。同委員会の報告書(2021年3月)では24項目の勧告が行なわれていますが、勧告19として〈「家族支援」レビューの実施〉が挙げられていました。これは、家族が直面している基本的問題が格差の重要な助長要因になっているという認識に基づく勧告です。

 もっともこの報告書に対しては、「地理的条件、家族の影響、社会経済的背景、文化および宗教のほうが、レイシズムの存在よりもライフチャンスに重要な影響を及ぼしている」と述べて人種差別を過小評価し、英国における制度的レイシズム(institutional racism)の存在も否定しているなどとして、アフリカ系の人々に関する国連専門家作業部会からも厳しい批判が出されています。レビューの過程で人種・民族差別の問題がどのように扱われるかについても、注意して見ていく必要があります。

【追記】(2022年6月29日)
 第2回目の意見募集が始まりました。今回は0~4歳の子どもを育てている親が対象です。子どもに家族の絵を描いてもらい、その絵の写真を送ることも呼びかけています。ちなみに、6歳以上の子どもを対象としたアンケートには3,700件の回答が寄せられたそうです。

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平野裕二
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