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イングランド子どもコミッショナー、子どもの社会的養護改革についての報告書を発表

 イングランド(英国)で子どもコミッショナーを務めるレイチェル・デ・スーザ(Dame Rachel de Souza)さんは、1月26日、『子どもの社会的養護――改革の中心に子どもたちの声を』Children's Social Care - putting children's voices at the heart of reform)と題する報告書を発表しました。

 同コミッショナーが昨年実施した大規模調査「ザ・ビッグ・アスク」(The Big Ask)にはイングランド全域の子ども55万7,077人から回答がありましたが、そのうち約6千人は養護下にある子ども、約1万3千人は困窮している子ども(children in need)でした。同調査に基づく政策提言(PDF)では、とくに次の4点について対応をとる必要性が指摘されています。

1)子どもにとっての安定性の向上
2)養護下にある子どもが学校でうまくやっていけるようにするための援助
3)メンタルヘルス面での支援へのアクセス向上
4)養護を離れる子どもたちのための、よりよいセーフティネットの確立

 今回の報告書は、子どもコミッショナー事務所が日常的に行なっているチルドレンズホームへの訪問、自治体に設けられている「養護下の子ども評議会」(children in care council)への関与、そして同事務所が設けている相談電話「ヘルプ・アット・ハンド」(Help at Hand)に寄せられた子どもたちの声などをもとに、今後必要とされる改革のあり方をさらに詳しく述べたものです。現在進められている「イングランドにおける子どもの社会的養護の独立レビュー」An independent review of children's social care in England)の参考に供することが意図されています。

 報告書ではまず、5人の子どもの社会的養護経験について5ページにわたって取り上げ、子どもたちの現実を踏まえて改革の必要性を強調しています。そして、「はじめに」に続く第1部「支援サービスに望むこととして子ども・若者が語ってくれたこと」では、子どもと家族の双方がもっとも必要としていることとして、次の4つを挙げています(p.11、太字は原文ママ)。

1.耳を傾けられ、対応されること。子どもと家族は、支援を「自分たちに対して」与えられるものではなく自分たちとともに進められるものとして経験するべきであり、サービスは、子どもと家族のニーズに、個別ばらばらにではなく一体的に対応するべきであり、計画は、あらゆるレベルで協働的プロセスであるべきである。
2.信頼できる安定した関係を持つこと。このことは、制度に関わっていく手がかりとなる、少なくとも1人との肯定的で信頼できる関係を意味する。制度とのやりとりはこのような関係を軸として構築されるべきであり、制度からこのような関係が生まれてくると期待するべきではない。
3.愛され、支えられ、安定していると感じること。子どもたちは、将来の計画を立て、安定した居場所を持つことができると感じられなければならないし、そのうえで関係を保つことができなければならない。すなわち、ケアを受けている子どもおよびケアを離れる子どものための長期的計画ということである。家族は、子どもたちが必要としているときに寄り添えるようにするためのサービスに頼れるということを知らなければならない。
4.実際的な援助や支援にアクセスできること。子どもまたは家族にかけられる期待は、常に、そのような期待を満たせるようにするための援助とマッチしていなければならない。支援は、それが必要とされている時点で、ニーズがさらに大きくなる前に提供されるべきである。このことは、子どものための支援にも、家族が子どもの脆弱性の原因である場合には家族のための支援にも、当てはまる。

 その後、それぞれの項目について、目標(Ambition)が掲げられ、その解決のための具体的方策が提案されています。たとえば「目標1:すべての子どもが耳を傾けられ、対応されるようにする」では、子ども自身が自信を持って自分の長期的養護計画を作れるようにし、その実行について確信を持てるようにすることの必要性が最初に掲げられています。そのために、子ども自身の長期的希望を支えることに焦点を当てた養護計画の作成において子どもが真の主体性(agency)を発揮できるよう、子どものエンパワーメントが図られなければならないと強調されています。

「目標2:すべての子どもが信頼できる安定した関係を持てるようにする」では、とくにソーシャルワーカーと子ども/家族との前向きな関係を促進する必要性が指摘されています。そのための措置として提言されているのは、1)担当ケース数の削減と書類作業の限定、2)関係の安定性の確保(担当ソーシャルワーカーの交代の抑制など)、3)その他のサービスへのアクセスの容易化です。

 また、きょうだい、家族(以前の里親家族を含む)、友達との関係を保てるようにすることも提言されており、とくにきょうだいについては、きょうだいを家庭外に措置する場合にきょうだい間の接触を維持する方法について考慮する義務を地方当局に課したスコットランドの例を挙げながら、可能なかぎりいっしょに措置することを促しています。ペットの重要性が指摘されているのも興味深い点です。

 さらに、「目標4:実際的な援助や支援にアクセスできるようにすること」では、措置の決定にあたって教育/学校の重要性にもっと焦点を当てることが促されているほか、メンタルヘルスサービスへのアクセスを向上させることの重要性が強調されています。

 提言項目の多くはイングランドの法制に具体的に関わるものなのでこれ以上は紹介しませんが(なお、第2部では「子どもの社会的養護の独立レビュー」を実践していくための制度改善のあり方などが提言されています)、多数の子どもたちの声を踏まえて上記の4つの視点を抽出し、課題の解決のための方策を提言するというやり方は、日本でも参考になりそうです。


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平野裕二
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