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国連・子どもの権利委員会、子どもの安全確保手続を策定

 国連・子どもの権利委員会は、委員会の活動への子ども参加を進めていく際に生じる可能性があるさまざまな危害を防止するため、「子どものセーフガーディング(安全確保)手続」PDF)を発表しました(2020年12月4日承認/12月11日公開)。

 委員会はこれまでに子どもの権利委員会の報告プロセスへの子ども参加に関する作業手法(2014年)や子どもの権利委員会の一般的討議日への子ども参加に関する作業手法(2018年)を発表し、委員会の活動への子ども参加を推進・支援する際の指針や注意点を明らかにしています。

 これらの文書でも、委員会の活動に子どもが参加する過程でその安全を確保することの必要性は指摘されていましたが、今回の手続は、子どもの安全確保のための体制および問題が発生した場合の対応を明確にすることで、子どもに対する危害が生じることの防止およびそのような危害からの子どもの保護をより確実にするために定められたものです。

 まず、この手続は、子どもの最善の利益の原則(子どもの権利条約第3条)を念頭に置いて、かつ委員会の一般的意見12号(意見を聴かれる子どもの権利、2009年)および前述の2つの「作業手法」にしたがって適用されるべきであることが指摘されています。子どもが参加するすべてのプロセスは、これらの文書に掲げられた9つの要件を満たすものでなければなりません。

参考:子ども参加のプロセスにおいて満たされるべき9つの要件一般的意見12号、パラ134)
※注/以下の要件は、上述の2つの「作業手法」でも、説明内容を少し変えながら再掲されています。
(a) 透明かつ情報が豊かである――子どもたちは、自己の意見を表明し、かつその意見を正当に重視される権利ならびにこのような参加が行なわれる方法、その範囲、目的および潜在的影響についての、十分な、アクセスしやすい、多様性に配慮した、かつ年齢にふさわしい情報を提供されなければならない。
(b) 任意である――子どもたちが意思に反して意見表明を強要されることはけっしてあるべきではなく、また子どもたちにはどの段階でも関与をやめてよいことが知らされるべきである。
(c) 尊重される――子どもたちの意見は敬意をもって扱われなければならず、また子どもたちにはアイデアおよび活動を主導する機会が提供されるべきである。子どもたちとともに活動しているおとなは、たとえば家族、学校、文化および労働環境に対する貢献における子ども参加の好例を認知し、尊重し、かつ発展させていくことが求められる。子どもたちの生活の社会経済的、環境的および文化的文脈についての理解も必要である。子どもたちのためにおよび子どもたちとともに活動している者および組織も、公的イベントへの参加に関して子どもたちの意見を尊重するべきである。
(d) 子どもたちの生活に関連している――子どもたちが意見表明権を有する問題は、その生活に真に関連しており、かつ子どもたちが自分の知識、スキルおよび能力を活用できるようなものでなければならない。加えて、子どもたち自身が関連性および重要性を有すると考える問題に光を当て、かつ対処できるようにする余地も設けられる必要がある。
(e) 子どもにやさしい――環境および作業方法は子どもたちの力量に合わせて修正されるべきである。子どもたちが十分に準備を整え、かつ意見を表明する自信および機会を持てることを確保するため、十分な時間および資源を利用可能とすることが求められる。子どもたちは、その年齢および発達しつつある能力にしたがって異なる水準の支援および関与形態を必要とすることが考慮されなければならない。
(f) インクルーシブである――参加はインクルーシブであり、現存する差別のパターンを避け、かつ周縁化された子どもたち(女子と男子の双方を含む)が関与する機会を奨励するようなものでなければならない(前掲パラ88も参照)。子どもたちは均質的集団ではなく、参加は、いかなる事由に基づく差別もなく、すべての子どもたちに対して均等な機会を提供するようなものである必要がある。プログラムにおいては、あらゆるコミュニティ出身の子どもたちに対して文化的配慮を行なうことも確保されなければならない。
(g) 訓練による支援がある――おとなには、子ども参加を効果的に促進するための、たとえば耳を傾けること、子どもたちと共同作業を行なうことおよび発達しつつある能力にしたがって効果的に子どもたちの参加を得ることに関わるスキルを身につけるための、準備、スキルおよび支援が必要である。子どもたち自身が、効果的参加を促進する方法についてのトレーナーおよびファシリテーターとして関与することもできよう。子どもたちには、たとえば効果的参加に関わるスキル〔および〕権利意識を高めるための能力構築、ならびに、会議の組織、資金集め、メディア対応、公の場での話およびアドボカシーに関する訓練が必要である。
(h) 安全であり、かつリスクに配慮している――一定の状況では意見表明がリスクをともなう可能性もある。おとなはともに活動する子どもたちに対して責任を負っているのであり、子どもたちに対する、暴力、搾取、または参加にともなう他のいずれかの否定的結果のリスクを最小限に留めるために、あらゆる予防措置をとらなければならない。適切な保護を提供するために必要な措置には、一部のグループの子どもたちが直面する特別なリスク、および、このような子どもたちが援助を得る際に直面する追加的障壁を認識した、明確な子ども保護戦略を策定することが含まれよう。子どもたちは、危害から保護される権利を認識し、かつ必要な場合にどこに行けば援助を得られるか承知していなければならない。参加の価値および意味合いに関する理解を構築し、かつしかるべき対応がとられない場合に子どもがさらされる可能性のあるリスクを最小限に留めるため、家族およびコミュニティとの協働に投資することが重要である。
(i) 説明責任が果たされる――フォローアップおよび評価に対するコミットメントが必要不可欠である。たとえば、いかなる調査研究および協議のプロセスにおいても、子どもたちは、その意見がどのように解釈および活用されるかについて情報を知らされ、かつ、必要なときは、知見の分析に異議を申し立てかつ影響を及ぼす機会を提供されなければならない。子どもたちはまた、自分たちの参加がいずれかの結果にどのような影響を及ぼしたのかについても、明確なフィードバックを提供される資格を有する。子どもたちは、適切な場合には常に、フォローアップのプロセスまたは活動に参加する機会を与えられるべきである。子ども参加のモニタリングおよび評価は、可能な場合には子どもたち自身とともに行なわれなければならない。

 今回承認された手続では、あわせて、厳格な秘密保持と子どもの個人情報等の保護の必要性もあらためて強調されています。

 この手続の運用については、委員会の子ども参加作業部会が全般的責任を負います。子どもの安全に関して問題が生じた場合、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の委員会事務局内で指名された子どものセーフガーディング担当(Child Safeguarding Focal Point)が通報等を受理し、委員会の作業部会のコーディネーターと連携しながら調査と対応を進めることになっています。

 さらに、一般的討議等の公開イベントに子どもが参加する際の注意事項(子どもについてはフルネームではなくファーストネームしか明らかにしないことを含む)や、報復・脅迫を含む悪影響が生じた場合には委員会の担当者に連絡すべきことなどについても記載されています。

 委員会の活動への子ども参加を支援する際には、このような手続が設けられていることを承知し、子どもたちにも知らせておく必要があります。

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平野裕二
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