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スコットランド子ども・若者コミッショナー、新型コロナ対策の影響に関する独自評価の結果を踏まえて「子どもの権利上の緊急事態」を憂慮


 スコットランド子ども・若者コミッショナー(CYPCS)のブルース・アダムソンさんは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックへの対応が同国に「子どもの権利上の緊急事態」をもたらしていると警鐘を鳴らしました(7月16日)。

「すでに貧困を経験しているスコットランドの子どもたち、すでにメンタルヘルス面で追加的支援を必要としている子どもたち、そして障害のある子どもたち――私たちがすでに一番懸念していたこのような子どもたちのことを、私は本当に、本当に心配しています」
「私たちは彼らの世界のすべてをあっという間に変えてしまいましたし、教育や地域支援のような支援もさっさとなくなってしまったため、多くの子どもたちが直面している課題が本当に悪化しました」
「子どもたちの声は、このパンデミックへの対処方法に関する私たちの意思決定において、本当に失われてしまっています」
「年長の子どもにとって、SQA〔スコットランドの高等教育入学資格認定機関〕の制度や試験が変更されたのはとくに大きなストレスでしたが、バーチャル学習や学校再開方法に関する議論についても同様です。子どもたちは議論のテーブルに就くことができるべきでしたし、意思決定に関与できるべきでした」
(BBC: Coronavirus: Scotland facing 'children's rights emergency'

 アダムソンさん自身も認めているように、スコットランドでは公的意思決定における子どもたちの意見表明・参加を保障するための取り組みがそれなりに行なわれてきました。また、BBCの記事の後半で政府広報官がコメントしているように、COVID-19関連の法案を議会に提出する際には法律にのっとって「子どもの権利・ウェルビーイング影響評価」も実施されています(この点については、COVID-19パンデミックが平等および人権に及ぼす影響についての議会調査の動向とともに、Facebookで以前紹介しました)。

 それでも、COVID-19対策が子どもの権利に及ぼしてきた影響に関する評価は十分に行なわれておらず、必要なデータの収集も不十分だとアダムソンさんは指摘し、次のように支援の強化の必要性を訴えています。

「いまこそ支援体制が整えられるようにすべき時です。すべての子どもに、心のウェルビーイングの面で追加的支援が必要となるでしょう――すべての子どもに、最広義の教育の面で追加的支援が必要になるはずです」
「ユースワーカー、乳幼児支援ワーカー、そして子どもたちの支援方法や発達援助方法を知っているその他の人々の支援への投資を、本当にしっかりと行なっていかなければならないでしょう」
「貧困、デジタル排除、社会的排除に対処し、若者のメンタルヘルスを支えるための緊急措置が必要です。ここで本当に緊急に行動しなければ、スコットランド全域の子どもにどのような長期的影響が生じるか、私は本当に重大な懸念を抱いています」
(BBC: Coronavirus: Scotland facing 'children's rights emergency'

 CYPCS事務所は、エジンバラ大学に設けられた「スコットランド子どもの人権研究所」(Observatory of Children's Human Rights Scotland)に委嘱して「スコットランドにおけるCOVID-19対策についての独立子ども影響評価」(Independent Children's Rights Impact Assessment on the Response to Covid-19 in Scotland)を実施しました。国連・子どもの権利委員会の声明(4月8日)を基本的枠組みとして参照しつつ、スコットランドの子どもたちの状況と政府のCOVID-19対策のあり方を分析したものです。

-CYPCS: Rights of children overlooked during coronavirus emergency

 具体的には、(a) 健康、(b) メンタルヘルス、(c) 教育、(d) 貧困・食料・デジタルアクセス、(e) 休息・余暇、(f) 子どもの保護・子ども審判(Children's Hearings)・養護、(g) 家庭内虐待、(h) 追加的な支援ニーズ(ASN)および障害のある子ども、(i) 法律に抵触した子どもおよび閉鎖施設養護(secure care)を受けている子どもという9つの分野について、詳細な影響評価が行なわれています。評価の結果はCYPCS事務所のサイトで公表されており、報告書のチャイルドフレンドリー版も作成されています。

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 日本にはそもそも「子どもの権利影響評価」という仕組み――というより発想――が存在しませんが、スコットランドの取り組みも参考にしながら導入を図っていく必要があるでしょう。

 なお、スコットランドではロックダウン期間中にチャイルドラインに寄せられる相談が20%増加したとも報じられています。この記事でもアダムソンさんの懸念に言及されています。

-The Herald: Calls to Childline up by 20% during lockdown - amid warning that emergency laws have breached children's human rights


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平野裕二
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