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ウェールズ:子どもの権利アプローチを社会的養護の現場で活かすために

 引き続きウェールズ(英国)における取り組みを紹介します。前回の投稿で紹介した指針よりも前の話になりますが、ウェールズ子どもコミッショナーは、2021年4月、「ザ・ライト・ウェイ:ウェールズにおける社会的養護のための子どもの権利アプローチ」The Right Way: A Children's Rights Approach for Social Care in Wales)と題するガイドを発表しました。

 これも、「子どもの権利アプローチ」の5つの原則を社会的養護の現場でどのように適用すべきか、ケーススタディも交えて示したものです。

「子どもの権利アプローチ」の5つの原則
1.子どもの権利を根づかせる(Embedding children's rights)
2.平等と差別禁止(Equality and Non-discrimination)
3.子どものエンパワーメント(Empowering children)
4.参加(Participation)
5.説明責任(Accountability)

 (元)当事者を含む子ども・若者の声が豊富に引用されているので、それを紹介します(p.6)。

 子どもたちは専門家との関係の経験をシェアしてくれ、共通して、専門家に正直であってほしい、個人として見られ、耳を傾けられ、理解されたいと感じた経験を持っていました。

■「秘密を(ある程度)守って、あなたとよい関係をつくれるようにしてほしい」
■「子どもが状況を理解できないこともあるというのは、大人も同じこと」
■「年少の子ども(7歳とか8歳)を赤ちゃんのように扱わないで、普通に扱って」
■「赤ちゃんを相手にするときみたいな話し方はやめて」
■「忍耐力を持って」
■「私たちを優先して、ほかの大人が話す前に私たちの話を聴いて」
■「アドボケイトになって。私たちの声が行き渡る手助けをして、必要なときは支えて」
■「自由に話すこと。発言の自由は大切」
■「誰かにプレッシャーをかけるようなことはせず、深い思いやりを持って、大変な目にあってきて特別な支援を必要としているかもしれない人もいることを考えて。優しい態度を保つようにして、自分が何でも知っていると思いこまないように」
■「教育アドボケイトになること。私の意見を聴いて。休みが必要なときもあるのに、先生からは、休めるほどちゃんとやってないって何度か言われた」
■「敬意をもって話してもらいたいなら、私にも敬意をもって話して」
■「話してもらいたいように話して」
■「とにかく正直でいて。こっちはただ知りたいの」
■「誰にとっても同じなんて、ありえない。個別の事案として扱わないと」

 続けて、次のように述べられています(p.7)。

 子どもたちにとっては、コミュニケーションと秘密保持が大切なことでした。子どもたちは、ケアや支援に関わる大人が多すぎることを望んでいませんでした。信頼できる関係づくりは子どもたちにとって非常に大切なことだからです。信頼できて敬意のある関係は、個人のレベルで子どもに対する説明責任を発展させるのに役立っていました。信頼の構築は、正直であることで可能になります(これには、あることを実現できなかったと告げられることも含まれます)。子どもたちは次のように話してくれました。

■「ケースに関わる人が多すぎることがある――ユニバーサルクレジットとか――1つの事務所の全員が電話をかけてきたこともあったよ!」
■「おたがいにコミュニケーションを! ずっと担当してくれてるソーシャルワーカーと一般ソーシャルワーカーがいたけど、どっちもおたがいの存在を知らなかったんだよ!」
■「何かを実現できなかったときでも、そのことを説明して」
■「連絡を絶やさず、必要なとき以外でもそこにいて」
■「尋ねられたことをできないときでも、説明してもらえる。自分のことなんかどうでもいいんだと思うより、やってみてくれたけど失敗したということがわかるのがいい」

 多くの子ども・若者にとっての主要なメッセージは、信頼できる関係をつくること、良質な情報を手にすること、自分たちの意見についてどんな対応がとられたかについてのフィードバックを得ること、そしてプライバシー、情報、家族生活に対する権利を含む一連の権利が擁護されることに関わるものでした。

 こうした子どもたちの声も踏まえて、上記の5つの原則を実践するためのさまざまな方策が具体的に述べられているのですが、ここでは最初に検討すべき主要な問題として挙げられているものを紹介しておきます(p.25)。

■ 子どもの権利を根づかせる:国連・子どもの権利条約および子どもの権利に対するコミットメントを明確に述べているか? スタッフおよび子ども・家族は全員、そのことを知っているか? 研修によってそのような認識を高められたか? コミットメントを支えるために十分な資源を配分しているか?
■ 平等と差別禁止:不平等および起きる可能性がある差別に対処したいということを明確にする。さまざまな集団の子どものニーズをどのように支えているか、検討する。子どもたちへの情報提供を、子どもの年齢、成熟度、文化または障害にふさわしい言語・形式で行なっているか? 決定が諸集団の子どもにどのような異なる影響を与えうるかを検討するため、子どもの権利影響評価を積極的に活用する。
■ エンパワーメント:子どもたちに、子どもの権利についてどのように伝えているか? 子どもたちが経験、自信および権利行使のためのスキルを発展させる機会を、どうすればより多く提供できるか?
■ 参加:子どもたちに影響を及ぼすサービスおよび決定に、どのように子どもたちの関与を得ているか? 子どもたちの声にどのように耳を傾け、その意見を聴いているか?
■ 説明責任:変えたことをどのように子どもたちに伝えているか? 子どもたちはどのように私たちの責任を問えるか? 決定について、また子どもの意見がどのように考慮されたかについて、どのように子どもたちに伝えているか?

 こうした視点からの振り返りは、日本の社会的養護の現場でも有用ではないかと思います。

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平野裕二
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