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体罰禁止を実行に移していくための新たなガイダンス

 子どもに対する暴力の解消に取り組んでいる End Violence Against Children などの国際団体が、子どもへの体罰をなくしていくための新たなガイダンスを発表しました(6月4日)。

★ End Violence Against Children / End Corporal Punishment: New guidance briefing outlines key components of a strategy to eliminate violent punishment of children
https://endcorporalpunishment.org/new-guidance-briefing/

『非暴力的な子ども時代の基盤づくり:子どもの体罰禁止を実行に移す』(Laying the foundations for non-violent childhoods: putting prohibition of corporal punishment of children into practice)と題されたこのガイダンスでは、子どもに対する体罰を実際になくしていくためのステップを次の5つに分けて解説しています。

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1.法律の制定:体罰禁止法を採択する。
2.計画・調整:予算見積り付きの国家的行動計画を策定し、子ども保護制度に統合する。
3.広報・意識啓発:公衆教育/意識啓発
4.親の支援:ポジティブペアレンティング
5.評価:介入策の効果をモニタリングする。

 いくつかの国の事例も取り上げられており、たとえば2020年11月7日から体罰禁止法が施行されているスコットランド(英国)については、政府が実施しているさまざまな啓発措置が紹介されています(p.13;子ども向けの啓発資料について以前の投稿も参照)。

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 一方、親の支援に関する項では、暴力を用いない肯定的・積極的子育て(ポジティブペアレンティング)の推進については触れられているものの、体罰等の助長につながるおそれのある環境を改善していくための支援には言及されていません。ガイダンスの基盤ともなっているWHO(世界保健機関)のINSPIRE戦略(子どもに対する暴力撤廃のための7つの戦略)でも、「親・養育者の支援」(Parent and caregiver support;家庭訪問を通じての支援、コミュニティでグループ単位で行なわれる支援、包括的プログラムを通じての支援など)や「所得面・経済面の強化」(Income and economic strengthening)が重要な要素として挙げられており、行動計画の策定にあたってはこうした点も考慮する必要があります。

 日本でも2020年4月1日から保護者などによる体罰が全面禁止されましたが、今年4月12日に結果が公表された「体罰等によらない子育ての推進に向けた実態把握に関する調査」(厚生労働省委託調査)によれば、法改正の内容まで知っていると回答した人は約2割(20.2%)に過ぎず、「聞いたことはあるが、詳しい内容は知らない」との回答が60.2%を占めました。周知のためにいっそうの取り組みが必要です。

 同時に、同調査の報告書では、
〈体罰等によらない子育てを実現するためには、啓発・教育等によって、体罰に対する意識(体罰の容認度等)を変えていくことはもちろんのこと、子育てをとりまく状況を改善し、養育者のストレスや不安などの軽減をはかることも重要だと考えられる〉
 とも指摘されています(p.27)。

 日本で策定が進められてきた「子どもに対する暴力撲滅行動計画」もそろそろとりまとめが完了するのではないかと思いますが、国内外の取り組みも参考にしながら効果的対策を模索し続けていくことが必要です。なお、「体罰等によらない子育ての推進に向けた実態把握に関する調査」の概要を報じた記事としては、たとえば以下を参照。

-リセマム:子供への体罰、養育者の3割超…法改正の認知は2割(5月18日配信)
https://resemom.jp/article/2021/05/18/61841.html

-FNN:子どもに体罰禁止の法律「内容知っている」は2割…法改正の“おさえておくべきポイント”と7つの育児の工夫(6月7日配信)
https://www.fnn.jp/articles/-/191773

 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが3月末に発表した報告書も参照。

 体罰全面禁止国(62か国)の一覧および関連の法律の日本語訳は筆者のサイトをご参照ください。


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平野裕二
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