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国連・子どもの権利委員会の一般的意見(司法および効果的救済措置にアクセスする子どもの権利):コンセプトノート

国連・子どもの権利委員会の第95会期が終了:次の一般的意見のテーマは「司法へのアクセス」に〉でお知らせしたとおり、国連・子どもの権利委員会は、次の一般的意見(27号)のテーマを「司法および効果的救済措置にアクセスする子どもの権利」に決定しました。2月1日付でコンセプトノートも発表されており、この問題に関する委員会の(現時点での)考え方がよくわかるので、以下に全訳を掲載します(太字およびリンクは平野による)。独立した国内人権機関の役割についても取り上げられる予定で、日本としても、子どもオンブズパーソン/コミッショナーの設置について引き続き検討を進めることが必要です。関連する地域文書として、子どもにやさしい司法に関する欧州評議会閣僚委員会指針(2010年)の日本語訳なども参照。

【追記】(2024年2月20日)
 委員会が第95会期(2024年1月~2月)に採択した総括所見では、一般的実施措置に関するクラスターで、「独立のモニタリング」の前に「司法および救済措置へのアクセス」という項目がさっそく設けられています。

【追記2】(2024年5月24日)
 国連・子どもの権利委員会による意見募集が始まりました(~8月23日)。こちらの記事で設問内容等を紹介しましたので、ご参照ください。

子どもの権利委員会

コンセプトノート:司法および効果的救済措置にアクセスする子どもの権利についての一般的意見


はじめに

1.子どもの権利委員会は、一般的意見27号で「司法および効果的救済措置にアクセスする子どもの権利」について取り上げることを決定した。司法へのアクセスは、不平等との闘い、差別的慣行への異議申立ておよび否定された権利の回復において、重要な役割を果たすものである。それはまた、自らの義務の履行における国および民間関係者の説明責任を増進させることにもつながる。権利を侵害された子どもの大多数は司法にアクセスできておらず、人権を侵害されまたは権利を否定された後に救済を受けていない。子どもが他者に依存しなければならないこと、自己の権利に関する知識および権利請求能力が欠けていること、ならびに、地元レベルにアクセスしやすく効果的な苦情申立てのしくみが設けられていないことは、直接の障壁である。子どもが裁判所に訴え出たとしても、法的手続が子どもにやさしいものであることはめったになく、それに加え、多くの国で設けられている法的資格の取得を妨げる障壁および経済的・社会的・文化的要素により、子どもが自己の権利侵害に対する救済を追求する際のさらなる阻害要因が生み出されている。

2.司法および効果的救済措置へのアクセスは、すべての人権の保護、促進および充足のために必要不可欠である。委員会は、救済措置に対する権利は子どもの権利条約で黙示的に保障されていることを確認してきたが、この権利は他の6つの主要人権条約で明示的に言及されている*。司法へのアクセスは、持続可能な開発目標(16.3)の不可欠な一部でもある。

* 平野注/自由権規約2条3項、人種差別撤廃条約6条、拷問等禁止条約14条、強制失踪条約8条2項・20条2項、移住労働者権利条約83条に加え、女性差別撤廃条約2条(c)(裁判所等を通じた差別からの保護)または障害者権利条約13条(司法へのアクセス)のいずれかに言及していると思われる。なお、国際人権法の重大な違反および国際人道法の深刻な違反の被害者に対する救済および賠償の権利に関する基本原則とガイドライン(2005年)前文では、子どもの権利条約39条(被害を受けた子どもの心身の回復と社会復帰)もこのような権利を認めた規定と位置づけられている。

3.この権利が承認されているにもかかわらず、司法へのアクセスが関連するのは、刑法に違反したとして申立てられ、罪を問われまたは認定された子どもだけであるという誤解が依然として存在する(これについては、この点に関して依然として各国にとっての主たる指針となっている、子ども司法制度における子どもの権利についての委員会の一般的意見24号(2019年)で取り上げられている)。司法および効果的救済措置へのアクセスの問題は、以下で説明するように、はるかに幅広いものである。

4.子どもたちは、子どもの権利教育、相談または助言およびコミュニティを基盤とするアドバイザー、国内人権機関および法律サービス、準法的サービスその他のサービスからの支援などを通じて、自己の権利を請求するための関連情報および効果的救済措置にアクセスできるようにされるべきである。

5.子どもの権利委員会は、子どもの権利条約の実施に関する一般的措置についての一般的意見5号(2003年)で、子どものすべての権利が裁判適用可能と見なされなければならず、また権利が遵守されなかったことに対する救済措置が効果的なものとなるように国内法で権利の内容を充分詳細に定めることが必要不可欠であることを強調した〔平野注/パラ25〕。一般的意見5号では、「権利が侵害されたと認められたときは、適切な被害回復措置(賠償も含む)と、関連する場合には、第39条で求められているように、身体的および心理的回復、リハビリテーションならびに再統合を促進するための措置がとられるべきである」とも述べている〔平野注/パラ24〕。

6.司法へのアクセスには、権利侵害に対する公正・公平かつ時宜を得た救済措置を個人または集団として求めかつ得られることが含まれる。これは、法律の前における承認の権利および公正な審理に対する権利、不服申立ての権利、効果的な成果を得る目的で裁判所、効果的な司法上の保護およびその他の苦情申立てのしくみに平等にかつ時宜を得た形でアクセスする権利などから構成されるものである。これらの権利は法の支配にとっての鍵でもあり、すべての人――もっとも人里離れた地域に暮らす、もっとも脆弱な状況に置かれた子どもを含む――が司法および救済措置にアクセスできなければならないことを意味する。子どもとして法の支配を経験することはまた、子どもたちが大人になって法の支配の文化を大切にし、かつこのような文化に貢献することの一助ともなるだろう。

7.「救済措置」(remedy)という用語は複数の概念(たとえば、賠償・補償、権利回復、謝罪または侵害是正のためのその他の手段)を指すものとなり得るが、今回の一般的意見の枠組みにおいては、必ずしも正式な司法制度を利用することなく人権侵害に対して異議申立てを行なうことのできるプロセスとして理解されるべきである。

8.子どもが司法にアクセスするための経路が不十分であることについての委員会の懸念は、複数の一般的意見*、一般的討議日および総括所見において、また通報手続に関する選択議定書に基づいて受領する数が増大しつつある個人通報および調査要請を通じて、繰り返し浮上するテーマとなってきた。今回の一般的意見は、委員会にとって、司法および救済措置への子どもによるアクセスの改善に対する各国の注意をあらためて喚起する機会となる。

* 平野注/直近の例としては、デジタル環境との関連における子どもの権利についての一般的意見25号(2021年、パラ43-49)、とくに気候変動に焦点を当てた子どもの権利と環境についての一般的意見26号(2023年、パラ82-90)など参照。

一般的意見の範囲

9.一般的意見では、効果的救済措置に対する子どもの権利および子どもによる司法へのアクセスに関連する概念および用語の内容を明らかにする。その際には、委員会が、近年、委任されているすべての活動において司法へのアクセスを重視してきたことに加え、現行の国際基準および国内的・地域的・国際的先例が踏まえられることになろう。

10.一般的意見では、権利の保有者としてのすべての子ども――人権擁護者としての子どもおよび司法手続に(被疑者・被告人、性暴力の被害者を含む被害者、証人、ケア・保護を必要とする子ども、原告および被告などとして)関与する子どもを含む――のエンパワーメントを確保することに関する指針を提供することになろう。これには、司法および効果的な子どもにやさしい救済措置、適切な修正を施された支援および他のさまざまな手段にアクセスする権利に関するものを含む、年齢にふさわしい情報への子どものアクセスを確保することに関する指針も含まれる。

11.一般的意見が目指すのは、関連の司法上および行政上の手続(非公式なまたは非国家的な司法制度、コミュニティを基盤とする社会的・準法的支援サービス、慣習上・宗教上の司法機構および代替的・修復的紛争解決のしくみを含む)の文脈における、司法にアクセスする子どもの権利について取り上げることである。そこでは、司法、救済措置および苦情申立てのしくみへのアクセスに関する制度設計への子ども参加の重要性を強調する機会が提供されることになろう。このことは重要な変革の画期となり、既存の障壁を積極的に解消する子ども中心の制度の発展につながるはずである。

12.一般的意見では、すべての子どもがアクセスできる、効率的で秩序立った苦情申立てのしくみおよび手続をすべての環境で確立する必要性と、この点に関わる国内人権機関の役割が強調されることになろう。このことは、自己の権利が侵害されたときに、専門知識のある訓練を受けた専門家から、子どもにやさしいやり方で助言・代理される子どもの権利を拡大することになる。

13.一般的意見では、法的資格、自由かつ良質な法的援助(弁護士による代理を含む)に対する権利、聴聞される権利および手続のすべての段階で翻訳者・通訳者および支援人に付き添われかつ援助される権利、ならびに、手続全体を通じ、保護者および法的助言者とともに十分な情報(自己の権利に関する情報および自己に影響を与え得る決定に関する情報を含む)を提供される権利といった、子どもの手続的権利についても取り上げることになろう。

14.一般的意見では、司法および効果的救済措置への権利に子どもが全面的にアクセスできることを確保するため、十分な人的資源、財源および技術的資源を動員する必要性が強調されることになろう。これには、中央・広域行政圏・地方レベルで適切な資源を確保する必要性や、子どもとともに/のために働く専門家を対象として、とくに子どもの権利および子どもの保護に関する十分かつ質の高い教育を提供する必要性が含まれる。

15.一般的意見では、子どもによる自己の権利の実現を積極的に支援し、子どもの司法上のニーズとこれらの申立てを受け付ける司法制度の能力との間にあるギャップを埋め、第三者介入を行ない、戦略的訴訟を発展させ、かつ子どもおよびそれ以外の公衆とともに/のために働く専門家の意識を高めるうえで、市民社会組織、社会サービス、弁護士その他の主体が果たし得る役割が明らかにされることになろう。

一般的意見の目的

16.一般的意見の全般的目的は、自己のすべての権利の全面的実現のために司法および効果的救済措置にアクセスする子どもの権利を確保するためにあらゆる適当な立法上、行政上その他の行動をとることに関する、締約国への有権的指針を示すことである。

17.その際、一般的意見ではとくに次のことを目指す。
● 司法および効果的救済措置へのアクセスをすべての子どもに確保するために欠かせない要素についての包括的理解を促進すること。
● 子どもが司法にアクセスすることを阻害する実際的・法的・社会的・文化的障壁を特定するとともに、効果的救済措置を確保するために必要な行動に関する明確な指針(年齢および成熟度にしたがって、かつ発達しつつある能力の原則に基づいて決定されるべき子どもの法的資格の問題に関するものを含む)を各国に対して示すこと。
● 効果的でアクセスしやすい一連の苦情申立てのしくみを通じて条約に掲げられたすべての権利の裁判適用可能性を確保し、かつ説明責任を推進する国の義務について明らかにすること。
● 自己の権利を知り、公正を求め、かつ救済を得られるようにするための子どものエンパワーメントに関する指針を示すこと。
● 司法制度を修正して子どもにやさしいものとすること。
● 条約と、司法および効果的救済措置へのアクセスを子どもたちに確保するために欠かせないその他の国際的機構との結びつきおよび相乗効果を生み出すこと。
● 司法および効果的救済措置にアクセスする子どもの実体的権利および手続的権利にとっての子どもにやさしい保障措置を設ける必要性を強調すること。
● 司法および救済措置にアクセスする必要がある場合に子どもを支える効果的しくみを設置することに関して、各国に具体例および指針を示すこと。

子ども参加

18.委員会は、一般的意見の作成を含むすべての活動への子ども参加を非常に大切に思っており、今回の一般的意見でも、さまざまな手段を活用して、子どもたちの意見が正当に考慮されるようにするつもりである。委員会は、十分な方法論を活用しながらこれらの意見が真正に収集されかつ正当に考慮されること、および、すべての地域の、多様な人生経験を有する子どもたちが効果的に参加できるようにすることを確保していく。

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平野裕二
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