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オーストラリア連邦裁、環境大臣には子どもたちを気候危機から保護する注意義務があると認定
ビクトリア州メルボルンのオーストラリア連邦裁判所は、5月27日、連邦政府には子ども・若者を気候危機から保護する注意義務(duty of care)があるという判決を言い渡しました。
1)The Guardian: Australian court finds government has duty to protect young people from climate crisis
https://www.theguardian.com/australia-news/2021/may/27/australian-court-finds-government-has-duty-to-protect-young-people-from-climate-crisis
2)ABC News: Australian teenagers' climate change class action case opens 'big crack in the wall', expert says
https://www.abc.net.au/news/2021-05-27/climate-class-action-teenagers-vickery-coal-mine-legal-precedent/100169398
今回の判決は、2020年9月に13~17歳(当時)の子ども8人が中心となって提起したクラスアクション(集団訴訟)で言い渡されたものです。
原告の子どもたちは、裁判所に対し、産炭大手であるホワイトヘブン・コール社のビッカリー炭鉱(ニューサウスウェールズ州)拡張計画を連邦政府が承認しないよう求める差止め命令を請求していました。石炭の採掘・使用が増加することによって気候変動が加速し、将来の若者に害を及ぼすことになるというのがその理由です。原告らは、この訴訟で、制定法(環境法)に基づく請求を行なうのではなく、連邦政府(環境大臣)は若者に対してコモンロー上の注意義務を負うという主張を展開しました。
1)の記事によれば、判決の概要は次のとおりです。
ブロムバーグ〔判事〕は、判決において、裁判所に提出された証拠によれば、地球温暖化によって子どもたちが直面し得る潜在的危害は「破壊的(catastrophic)と言っても過言ではなく、地球の平均表面温度が産業革命以前の水準から3℃以上上昇する可能性があるとすればなおさらである」と述べた。
「裁判所に提出された証拠によって明らかになった潜在的危害のなかでももっとも驚くべきなのは、おそらく、今日のオーストラリアの子どもたちのうち100万人が、病院での急性期治療を要するほど深刻な熱性ストレス症状を少なくとも1度は経験すると見込まれることであろう」とブロムバーグは指摘する。
「何千人もの人々が、熱性ストレスまたは森林火災の煙によって早逝する。相当の経済的損失と財産損害が生ずる。グレートバリアリーフおよびオーストラリア東部のユーカリ森林のほとんどは、深刻な森林火災が繰り返し発生することにより、もはや存在しなくなる」
ブロムバーグは、〔環境〕大臣が、環境保護・生物多様性保全(EPBC)法に基づく権限を行使する際、子どもたちに人身傷害を引き起こさないために合理的注意を払うコモンロー上の義務を負うと認定した。
ブロムバーグは、「大臣が注意義務に違反するという合理的懸念が立証されたとは確信できなかった」ことを理由に、炭鉱拡張を中止させる差止めは認めなかった。
差止めは認められなかったとはいえ、原告側は、環境大臣の注意義務が認められたことを歓迎しています。専門家も、とくにコモンロー諸国でこのような注意義務が認められたのは世界初であるとして、今後の訴訟等に及ぼす影響は大きいと評価しています。
環境大臣の広報官は、判決内容を検討中であり、いずれコメントすると述べるに留まりました。ホワイトヘブン・コール社は、環境大臣の注意義務についてはとくに触れず、差止め請求が棄却されたことを歓迎する声明を出しています。今後、環境大臣が負う注意義務の具体的内容や行使のあり方について、さらに議論になると思われます。
一方、オランダでは、欧州石油最大手の英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル社に対し、二酸化炭素(CO2)の純排出量を2030年までに19年比で45%削減するよう命じる判決が出されました。
★日本経済新聞:オランダ裁判所、シェルにCO2削減命令 30年までに45%
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR26E1F0W1A520C2000000/
今後もこのような判決が蓄積され、環境と人権に関する国際法の発展に寄与していくことが期待されます。
【追記】(5月30日)
ドイツでも、将来世代への影響も考慮して気候保護法(2019年)の一部を違憲と認定した憲法裁判所判決が4月29日に出ていましたので、追記しておきます。
1)日本経済新聞:温暖化ガス削減、さらに厳格に ドイツ憲法裁が命令
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2935N0Z20C21A4000000/
訴訟の背景については次の記事がよくまとまっています。
2)オルタナ:なぜドイツはCO2削減目標を65%減に積み上げたか
https://www.alterna.co.jp/36926/
韓国でも、若者たちが憲法訴願を行なっていることもあって(Facebookへの以前の投稿も参照)、今回の判決が注目されています。
3)ハンギョレ:ドイツ憲法裁「温室効果ガス削減の負担、未来世代に持ち越すのは違憲」
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/39857.html
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