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米国の人権団体連合、「安全、健康的かつ包摂的な学校環境」のための法整備を連邦議会に要求

 米国のすべての人々の公民権の促進・保護を目的として活動する230以上の全国団体の連合体「公民権・人権指導者会議」(The Leadership Conference on Civil and Human Rights)が、安全、健康的かつ包摂的な学校環境を増進させる一連の法案の共同提案者になるよう、米国連邦議会議員に対して求めました(1月19日発表)。

★ Support Legislation to Advance Safe, Healthy, and Inclusive School Climates
https://civilrights.org/resource/co-sponsor-legislation-to-advance-safe-healthy-and-inclusive-school-climates/

 この呼びかけは、同会議が中心となって2019年にとりまとめられた「安全、健康的かつ包摂的な学校環境のための公民権原則」(Civil Rights Principles for Safe, Healthy, and Inclusive School Climates)〔PDF〕を踏まえたものです。そこでは次の8つの原則が掲げられています。

原則1:生徒の権利を確保する。
原則2:包括的かつ支援的な規律慣行の実施を学校に奨励する。
原則3:小児期トラウマに対処する。
原則4:学校におけるハラスメントと差別からの保護を強化する。
原則5:正確かつ包括的なデータ収集を通じてアカウンタビリティを確保する。
原則6:肯定的な学校環境を支える学校インフラに投資する。
原則7:学校を基盤とする法執行を撤廃する。
原則8:生徒の健康と安全に対する脅威を撤廃する。

 これらの原則を実践していくために同会議が支持するよう求めているのは、次の一連の法案です。米国では学校教育は基本的に州の管轄事項とされているため、主として連邦政府の補助金等を受け取っている学校が対象になっています。

● 学校における犯罪化禁止・カウンセリング導入法案(Counseling Not Criminalization in Schools Act):K-12学校(おおむね幼稚園年長クラス~高校に相当)で警察官を雇用・配置するために連邦資金を使用することを禁止するとともに、トラウマインフォームド(trauma-informed)サービスを含むカウンセリング等を提供するための連邦補助金プログラムの設置を目的とするもの。(前掲原則7に関連)

● すべての生徒の安全確保法案(Keeping All Students Safe Act):連邦資金を受け取っているすべての学校を対象として、子どもの隔離、機械的・化学的拘束処置の使用、うつぶせ・仰向けの姿勢での拘束またはその他の危険な身体的拘束の使用を禁止するもの。(前掲原則8に関連)

● 学校における生徒保護法案(Protecting our Students in Schools Act):連邦資金を受け取っているすべての学校を対象として、生徒の体罰を禁止するもの。(前掲原則8に関連)
 ※この法案について詳しくは〈米連邦議会に学校体罰禁止法案が提出される〉(2020年10月8日投稿)参照。今回挙げられている他の法案でも同様ですが、肯定的・積極的な措置を実施することによって学校の雰囲気および文化を向上するための取り組みを援助する連邦補助金プログラムについても規定されています。

● 安全学校改善法案(Safe Schools Improvement Act):人種、皮膚の色、国民的出身、性別、性的指向、ジェンダーアイデンティティ、障害または宗教にかかわらず、すべての生徒をいじめおよびハラスメントから保護するための連邦基準を定める法律。(前掲原則4に関連)

● 公然たる、トラウマに配慮しない懲罰的かつ不公正な学校危害終了法(「追い出し」禁止法)案(Ending Punitive, Unfair, School-based Harm that is Overt and Unresponsive to Trauma (Ending PUSHOUT) Act):とくに皮膚の色が黒・褐色の女子を対象とする懲罰的対応や学校からの「追い出し」を防止するとともに、停退学のような排除的規律慣行を減少させるための補助金プログラムを設けるもの。教育省に対し、懲戒その他の規律慣行に関する年次データの収集も求める。(前掲原則2に関連)

 連邦議会でこれらの法案が可決されるかどうかは何とも言えませんが、警察官の常駐などを通じた「法執行」アプローチと決別し、生徒の権利保障および肯定的な学校環境(学校の雰囲気)の醸成を基盤とする対応を促す声が多くの団体から挙げられているのは、興味深い点です。

いじめが起きにくい学校づくり:ニュージーランドでの検証〉(2021年12月23日投稿)なども参照。


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平野裕二
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