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SDGsと人権――『持続可能な開発目標(SDGs)報告2020』から

 7月7日に発表された『持続可能な開発目標(SDGs)報告2020』は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによってSDGsの達成に向けた取り組みが著しく阻害されていることを明らかにしました。

★国連経済社会局(国連広報センター訳):国連の報告書、COVID-19が貧困、医療、教育に関する数十年の前進を後戻りさせていることを明らかに(原文=英語=はこちら

 主な調査結果は次のとおりです(子どもに関しては、たとえば筆者のnote〈新型コロナがもたらす「教育危機」〉も参照)。

●2020年には、およそ7,100万人が極度の貧困に陥るものとみられています。世界で貧困が増加するのは、1998年以来初めてのことです。所得の喪失や限られた社会的保護、物価の高騰が相まって、これまで安定した生活を営んでいた人々さえも、貧困や飢餓に陥るおそれがあります。
●この危機による不完全雇用や失業により、インフォーマル経済ですでに脆弱な立場にある労働者およそ16億人(全世界の労働人口の半数)は、危機当初の1カ月で所得が60%も落ち込んだとみられ、深刻な影響を受けていると考えられます。
●全世界で10億人を超えるスラム居住者は、適切な住居がなく、自宅に水道もなく、トイレを共有し、廃棄物管理システムをほとんど、またはまったく利用できず、公共交通手段は過密で、正規の医療施設へのアクセスも限られています。したがって、COVID-19によって大きな影響を受けるリスクが極めて高くなっています。
●パンデミックによって最も大きなしわ寄せを受ける人々には、女性と子どもも含まれています。医療や予防接種サービスが混乱し、食事・栄養サービスへのアクセスも限られていることで、2020年には、5歳未満の幼児の死者が十万人単位で、また妊産婦の死者が数万人単位で、それぞれ増えるおそれがあります。女性や子どもに対する家庭内暴力の急増が報告されている国も多くあります。
●学校閉鎖によって、全世界の学生の90%(15億7,000万人)が通学できなくなったほか、頼りにしていた給食を食べられなくなった子どもも3億7,000万人を超えています。自宅でコンピューターやインターネットを利用できないために、遠隔学習が不可能な子どもも多くいます。2020年3月から4月にかけて、およそ70か国では子どもの予防接種に深刻な混乱が生じたり、全面的な中断を余儀なくされたりしています。
●極度の貧困に陥る家庭が増える中で、貧しく不利な立場にあるコミュニティーの子どもたちにとっては、児童労働や児童婚、人身取引のリスクも大幅に高まっています。事実、全世界の児童労働削減で見られた前進は、20年ぶりに後戻りしてしまう可能性が高くなっています。

 今回の報告書には、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR/UN Human Rights)から提供された人権関連のデータも初めて反映されており、主要な人権問題に焦点を当てたリリースも出されました(7月14日付;見出し画像の出典もこちら)。
 
★OHCHR: New global data on human rights showcased in Sustainable Development Goals Report

 次のような問題が取り上げられています(要旨)。

1)31か国を対象とした2014~2019年のデータによれば、およそ20%の人々が何らかの差別を経験している。女性のほうが男性よりも差別の被害を受けやすい。障害のある女性は3人に1人が差別を経験していたが、それは障害ではなく宗教・民族・性別を理由とする差別だった。さらに、COVID-19は差別をいっそう深刻化させている。

2)毎日数百人の民間人が紛争下で死亡している。死亡者の8人に1人は女性・子どもである。

3)人権擁護者、ジャーナリスト、労働組合員は依然として大きな危険にさらされている

4)国内人権機関は強化されたものの、多くの国ではいまなお市民がこのような機関にアクセスできていない。2019年の時点で約4割の国(注・80か国)がパリ原則に準拠した国内人権機関を設置しているが、このような機関に市民がいまなおアクセスできない国も78か国にのぼる(とくに東アジア・東南アジア地域、ラテンアメリカ・カリブ海地域、オセアニア地域およびサハラ以南のアフリカ地域)。

 4)で言及されている国内人権機関の設置状況については Global Alliance of National Human Rights Institutions のサイトを参照してください。上記のほか、国内人権機関は設置しているもののパリ原則に完全に準拠していると認められていない国が34か国あります。

 日本は未設置国のひとつです。「パリ原則に準拠した独立した国内人権機関の存在の有無」はSDGsの目標16(平和と公正をすべての人に)のグローバル指標(16.a.1)のひとつであり(外務省〈JAPAN SDGs Action Platform〉の関連ページ参照)、速やかな対応が求められます。日本弁護士連合会「個人通報制度の導入と国内人権機関の設置を求める決議」(2019年10月4日)なども参照。

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平野裕二
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