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国連・子どもの権利委員会によるイスラエルの報告書審査と同国への勧告(2)

 先日の投稿の末尾に書いておいたとおり、国連・子どもの権利委員会が9月13日に採択したイスラエルに関する総括所見では、「特別な保護措置」の章で、パレスチナの子どもに関わって4ページ強という異例の分量の懸念表明と勧告が行なわれています。OPT(パレスチナ被占領地域)全般に関わる問題を扱った項(パラ50・51)に加え、ガザ地区(パラ52・53)および東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区(パラ54・55)についても個別に取り上げている点が特徴的です(西岸地区に関しては、入植者による子どもの権利侵害も問題視されています)。

 以下に概要を紹介しますが、イスラエルによるパレスチナ人の子どもの権利侵害に関する指摘と勧告は、前回の総括所見(2013年)におけるものよりもさらに詳細で、表現も強くなっています。9月26日は国際連盟・ジュネーブ子どもの権利宣言(1924年)の採択記念日でしたが、採択から100年を経てもなお同宣言の精神を公然と踏みにじる行為が続けられているのは悲しいことです。


OPTにおける条約上の子どもの権利の侵害

 委員会は、「締約国の軍事行動の結果たる生命の甚大な喪失を含む、OPTにおける条約上の権利の苛烈な侵害をもっとも強い言葉で非難」したうえで、とくに次の点について重大な懸念を表明しました(パラ50;要旨)。

(a)2016年から2023年にかけて、イスラエル軍・治安部隊による子どもへの重大な人権侵害が2万8,000件以上発生したこと(国連の検証に基づく)。これには、1万人以上の子どもの殺害および障害を負わせる行為、学校・病院への攻撃880件、人道アクセスの否定1万6,800件が含まれる。
(b)スナイパーやドローンによる攻撃さえ含む締約国の軍事行動の結果、子どもの生命・生存・発達に対する権利に破滅的な影響がもたらされており、2023年10月7日以降は死者のほとんどを女性と子どもが占めていること。
(c)軍と治安部隊によって人道アクセスが否定されており、また専門的治療へのアクセスを求める子どもの申請が却下されたり適時に承認されなかったりしていること。
(d)ポリオの再流行、切断手術その他の手術後の医療ケアおよびリハビリテーションが不十分なことから生ずる合併症、このような条件下で生まれた子どもの死亡および長期的な健康リスク。
(e)子どもの死傷に責任を負う軍・治安部隊が処罰されておらず、2023年10月7日以降のこのような事件に関連した捜査・起訴・有罪判決件数についての情報もないこと。
(f)治安部隊によって不法に殺害されたパレスチナ人の子どもの家族への賠償措置がとられていないこと。
(g)イスラエル軍の駐留および同国の占領政策・実行がパレスチナ人の子どものウェルビーイングおよび諸権利(住居、十分な生活水準、食料、水、衛生および保健ケアに対する権利)に及ぼしている悪影響。
(h)イスラエルの占領政策がパレスチナ人の少女に広範な差別的影響を及ぼしていることと、軍隊要員・入植者双方による暴力に対してパレスチナ人の少女が特に脆弱な状況に置かれていること。

 委員会はそのうえで、ICJ(国際司法裁判所)による2024年7月19日の勧告的意見(前回の投稿参照)や、ガザ地区におけるジェノサイド条約の適用に関する2024年1月26日・5月24日のICJ命令に言及しながら、イスラエルに対し、次の措置をとるよう促しています(パラ51;要旨)。

(a)子どもおよび民生インフラが標的とされないようにし、付帯的な子どもの殺傷および民用物への被害が国際人道法に違反して引き起こされないようにし、かつICJの命令および勧告的意見を直ちに遵守すること。
(b)国際人道法の原則にのっとり、あらゆる状況下で子どもを保護しかつ子どものいかなる殺傷の可能性も防止するための明確な訓令を発することなどの手段により、軍および治安部隊が国際人道法・人権法上の義務を遵守するようにすること。
(c)占領の影響で子どもの健康およびウェルビーイングが損なわれないようにするため、OPTのすべての妊婦と子どもに対し、緊急医療ケア、救命治療、十分な医薬品および訓練を受けた要員を含む保健サービスへの、安全で妨害のない無条件のアクセスを保障すること。そのため、とくに、(i)医療ケアを必要とする妊婦や子どもの、検問所における時宜を得た搬送を確保し、(ii)医療ケアを受けるために渡航する必要のある子どもへの制限または制裁を解除して、必要なだけ、医師によるスケジュール指定どおりに受診することを認め、かつ、(iii)癌その他の重病を患っている子どもに対して長期許可を与えること。
(d)2023年10月7日以降およびそれ以前に軍・治安部隊が行なった国際人権法・人道法違反について、国際調査団や国際刑事裁判所と協力しながら捜査を実施すること。
(e)人権侵害加害者を司法の裁きに委ねるとともに、被害を受けたすべての子どもに賠償・補償および回復・社会統合のためのサービスを提供すること。
(f)子どもの殺害等および学校・病院への攻撃の停止・防止を目的とする国連との行動計画に調印するとともに、子どもの保護を向上させるための措置を緊急に整備するため、子どもと武力紛争に関する国連事務総長特別代表と協働すること。
(g)パレスチナ人の子どもに対する教育・保健サービスの提供に関してUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)と協力し、またその活動を支援すること。UNRWAがガザで運営する学校について破壊や攻撃を停止するとともに、東エルサレムを含むOPT全域でUNRWAの活動の安全を確保すること。
(h)イスラエル軍の駐留および同国の占領政策(移動制限を含む)がOPTの子どもに及ぼしている影響を評価するとともに、OPTの軍事統治における子どもの最善の利益の全面的考慮を確保すること。
(i)人口密集地における爆発性兵器の使用によって引き起こされる子どもへの交差的危害について評価する目的で、民間人死傷者を追跡するためのデータを収集すること。
(ji)OPTで実施されている、パレスチナ人の少女に差別的な影響を及ぼす政策を見直し、差別およびジェンダーに基づく暴力からの全面的保護を確保するためにそれらの政策を改訂すること。

ガザ地区における条約上の子どもの権利の侵害

 委員会は、ガザ地区に関しても、2023年10月7日~2024年9月10日の期間に1万6,756人以上の子どもの死亡および少なくとも6,168人の子どもの負傷をもたらした、イスラエルによる民間人を標的とした攻撃を「もっとも強い言葉で非難」し、とくに次の点について重大な懸念を表明しました(パラ52;要旨)。

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