国連・子どもの権利委員会、国は気候変動の有害な影響について国境を越えて責任を負うと裁定(OHCHR)
先日投稿した〈国連・子どもの権利委員会、気候変動に関する子どもたちからの申立てを受理不能と判断――これまでの経緯〉の続きです。OHCHR(国連人権高等弁務官事務所)のプレスリリース(10月11日付)本文を全訳しました(太字は平野)。今回の決定の意義と限界については、これである程度把握できると思います。
★OHCHR: UN Child Rights Committee rules that countries bear cross-border responsibility for harmful impact of climate change
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=27644&LangID=E
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国連・子どもの権利委員会、国は気候変動の有害な影響について国境を越えて責任を負うと裁定
ジュネーブ(2021年10月11日)―― 気候変動が子どもたちの権利に及ぼす有害な影響についての歴史的裁定において、子どもの権利委員会は、締約国は自国の炭素排出が子どもたちの権利に及ぼす否定的影響について自国の領域内外で責任を問われ得ると認定した。
子どもの権利委員会(CRC)は、12か国の子どもたちがアルゼンチン、ブラジル、フランス、ドイツおよびトルコを相手どって2019年に行なった申立てを審査した後、本日、その裁定結果――この種の裁定としては国際的機関による初めてのもの――を公表した。
子どもたちの訴えは、歴史的に多くの炭素を排出してきており、かつ申立てを受理する委員会の権限を認めているこれら5か国が、生命、健康および文化に対する子どもの権利を保護・充足するために必要な予防的措置をとってこなかったというものである。子どもたちはまた、気候危機は抽象的な未来の脅威ではなく、産業革命前の時代から世界の平均気温が1.1℃上昇したことによってすでに破滅的な熱波が引き起こされており、感染症の拡散、森林火災、異常気象、洪水および海面上昇が助長されているとも主張した。子どもである自分たちは、生死に関わるこれらの事象によって精神的にも身体的にももっとも大きな影響を受けている集団のひとつであると、申立人らは訴えた。
委員会は、2021年5月から9月にかけて、子どもたちの法的代理人、各国の代表および第三者介入意見書の提出者と5回の口頭聴聞を行なった。子どもたちから直接意見も聴取している。この歴史的裁定において、委員会は、関係国はこれらの子どもについて管轄権を行使していると認定した。
「排出国には、自国の領域を出所とする排出物が子どもの権利に及ぼす悪影響について責任があります――たとえこれらの子どもたちの所在が国外であっても、です。気候変動の原因の集団的性質によって、ある国の個別的責任が解除されることはあってはなりません」と、委員会のアン・スケルトン委員は語った。「問題は、当該危害と国の作為または不作為との間に因果関係があることが十分に証明されるかどうかということです」とスケルトン委員は付け加えた。
本件において委員会は、アルゼンチン、ブラジル、フランス、ドイツおよびトルコが、自国の領域外の子どもたちに対する合理的に予見可能な危害を助長する排出源たる活動を実効的管理下に置いていると判断した。委員会は、管轄権の立証という目的上、16人の子どもたちが訴えた危害と5か国の作為または不作為との間には十分な因果関係が成立しており、子どもたちは、自分たちが個人としてこうむっている危害が相当なものであることを十分に正当な形で示したとの結論に至った。
しかし委員会は、締約国が、この特定の案件において、子どもの権利条約に対する〔基づく〕義務に違反したかどうかを決定することはできなかった。この苦情申立て手続においては、申立人が、委員会に対して申立てを行なう前に国内裁判所に訴えを起こし、当該国で利用できる効果的な法的救済措置をすでに尽くしてからでなければ、申立てが受理可能とされることはない。
決定にはこちらからアクセス可能である〔訳者注/ページの一番下〕。
子どもたちに宛てた委員会の公開書簡および決定の簡易版にはこちらからアクセス可能である〔訳者注/PDF;日本語訳も参照〕。
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【追記】(10月21日)以下の記事も参照。
・note:気候変動に関する通報についての国連・子どもの権利委員会の決定の概要と意義(有料記事)
https://note.com/childrights/n/ndabd022b3e8a
・EJIL: Talk! - Children's Rights and Climate Change at the UN Committee on the Rights of the Child: Pragmatism and Principle in Sacchi v Argentina (Aoife Nolan)
https://www.ejiltalk.org/childrens-rights-and-climate-change-at-the-un-committee-on-the-rights-of-the-child-pragmatism-and-principle-in-sacchi-v-argentina/