女性の権利に関する国連・地域人権機構の専門家が、新型コロナと女性に対する暴力・差別の増加に関する共同声明を発表
「女性に対する差別および暴力に関する独立専門家機構プラットフォーム」(EDVAW: Platform of Independent Expert Mechanisms on Discrimination and Violence against Women)を構成する7人の専門家が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と女性に対する暴力・差別の増加に関する共同声明を発表しました(7月14日)。
★プレスリリース(国連人権高等弁務官事務所):Urgent action needed to end pandemic of gender-based violence, say women's rights experts
(ジェンダーに基づく暴力のパンデミックに終止符を打つために緊急の行動が必要、と女性の権利専門家)
EDVAWを構成するのは次の7人の専門家です。
-女性に対する暴力、その原因および影響に関する国連特別報告者
-国連・女性差別委員会委員長
-国連・法律および実務における女性差別問題に関する作業部会委員長
-欧州評議会・女性に対する暴力およびドメスティックバイオレンス対策に関する専門家グループ(GREVID)代表
-米州人権委員会・女性の権利に関する報告者
-アフリカ人権委員会・アフリカにおける女性の権利に関する特別報告者
-米州機構・ベレンドパラ条約(女性に対する暴力の防止、処罰および根絶に関する米州条約)フォローアップ機構専門家委員会委員長
共同声明は、COVID-19対策としてとられてきたロックダウン等の措置によって、ドメスティックバイオレンスをはじめとするさまざまな問題や不平等が顕在化・悪化していることに懸念を表明し、
「この危機に対するいかなる対応も、すべての生活局面における女性の権利の促進・保護に関してすでに行なわれてきた努力を認識・強化し、かつ『より良い復興』を図る機会と捉えられるべきである」
として、COVID-19への対応においてジェンダーに配慮した部門横断的なアプローチをとること、とくに以下の措置をとることを各国に対して求めています(番号は投稿者が付したものです)。
1)あらゆる危機対応・復興計画への女性・女児の全面的参加を確保すること。
2)パンデミックへの対処のためにとられてきた政治上・立法上の措置を、女性・女児のニーズにあわせて修正すること。その際、女性・女児に対する差別を固定化させ、この文脈における女性・女児のリスクを高める複合的な構造的要因(とくに経済的不安定さ、年齢、移住者としての地位、障害に関わる状況、自由の剥奪、民族的-人種的出身、性的指向、ジェンダーアイデンティティなど)を考慮すること。
3)あらゆる主体の調整のとれた対応を基礎とする国家的なCOVID-19対応計画の重要な一部として、女性に対する暴力の防止および救済を含めること。その際、被害者支援・保護における女性の支援サービスおよびNGOの重要な役割を正当に認識し、これを支援すること。
4)家庭における/性的な暴力、ハラスメントおよび虐待を受けるおそれがある(または受けている)女性・女児が、支援サービスおよび緊急措置(法的援助および司法的救済へのアクセスを含む)に継続的かつ安全にアクセスできることを確保すること。
5)ケアに関するプロトコール(標準業務手順書)を策定し、ドメスティックバイオレンス行為の捜査および制裁に関与する保安要員(security agents)と司法関係者の能力強化を図るとともに、あらゆる国家機関へのガイダンス資料の配布を実施すること。
6)COVID-19対応および危機後の復興計画において、女性の経済的エンパワーメントが促進され、かつ雇用および社会的保護制度におけるジェンダー不平等への対処が行なわれることを確保すること。
7)女性の特有のニーズおよび脆弱性を考慮に入れるため、社会的保護制度を相当の規模で全面的に見直しかつ拡大すること(有給病気休暇、子ども・高齢者のケアのための支援の強化、住居および食料品購入補助を含むが、これに限られない)。
8)簡便に利用できる手続(避妊薬のオンライン処方など)を通じ、セクシュアル/リプロダクティブヘルスサービスへのアクセスを確保すること。アクセスしやすい教育ツールを通じて継続的教育を確保すること。
9)保護命令の発出を促進するとともに、ジェンダーに基づく暴力の被害を受けているまたは受けるおそれがある女性・女児がレイプクライシスセンターおよび安全なシェルターまたはホテルでの宿泊にアクセスできることを確保すること。
10)保健業務およびソーシャルワークに従事する女性の専門家ならびにCOVID-19パンデミックに対応するために働いているすべての女性を保護すること。
11)周縁化された集団の女性・女児と、パンデミックに関する情報のアクセス可能性および十分性、社会的距離を保てる可能性、検査・治療および必要とされるその他のもの(食料、住居、衛生および必須支援サービスを含む)へのアクセスという点から見たこれらの女性・女児の特有のニーズに、具体的注意が払われるべきである。
12)COVID-19によって生じる、ジェンダーに固有の直接的・間接的な健康上の影響およびジェンダーに固有の人権面での影響について検討・報告する目的で、アウトブレイク関連の細分化されたデータを体系的に収集するとともに、対応の立案にあたってそのデータを活用すること。
国連・女性および女児への差別に関する作業部会が4月20日に発表した声明「COVID-19への対応において女性と女児が無視されてはならない」で促されている措置(Facebookでの以前の投稿参照)と重なる部分も多く、これを踏まえたものであることは明らかです。
・「女性・女児に対する差別を固定化させ、この文脈における女性・女児のリスクを高める複合的な構造的要因」を考慮する必要性に言及したこと(2)
・女性の経済的エンパワーメントを強調したこと(6)
・社会的保護制度のあり方の見直しについて具体策を提示したこと(7)
・COVID-19関連業務に従事する女性に提供されるべき保護の範囲を拡大したこと(10)
などを特徴として挙げることができるかと思います。
COVID-19下における女性・女児への暴力に関しては、UN Women『COVID-19(新型コロナウイルス) 女性と女の子に対する暴力』(日本語訳PDF)をはじめ多くの声明や資料が出されていますので、私のサイトの〈新型コロナウィルス感染症と人権 参考資料〉(ジェンダーの項)を参照してください。
なお、国連人権理事会(第44会期)は7月17日に「女性および女児に対するあらゆる差別の解消」(A/HRC/44/L.21)を採択し、「COVID-19パンデミックへの対応において、人権を基盤とする、ジェンダーに配慮した部門横断型のアプローチをとる」こと、「女性および女児……ならびにその特有のニーズに注意を払う」こと(パラ9)を含む、多くの関連の勧告を行なっています。日本もこの決議の共同提案国に名を連ねており、COVID-19対策との関連も含めてジェンダーおよび女性の人権の視点を強化していく必要があります。
* 見出し画像出典:UN Women日本事務所のFacebookポスト(4月9日)