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韓国国家人権委員会、校則のあり方などについて複数の勧告を発表

 昨日の記事に引き続き、韓国国家人権委員会が子どもに関して行なった最近の勧告を紹介します。いずれも11月に出されたものです。

1.中高生を対象とする過度な校則について

●“중·고등학교 학생에 대한 과도한 두발 및 복장 등 용모 제한 학칙 개정되어야” - 개성을 발현할 권리, 일반적 행동자유권 등 기본권 침해 -(「中高生に対して頭髪・服装などの容姿を制限する過度な学則は改正しなければならない」-個性を表現する権利、一般的な行動自由権などの基本権侵害-;2021年11月23日付)
https://www.humanrights.go.kr/site/program/board/basicboard/view?currentpage=2&menuid=001004002001&pagesize=10&boardtypeid=24&boardid=7607428

 ソウル市内の学校で生徒の頭髪・服装などが過度に制限されているという多数の申立てを受けて出された勧告です。国家人権委員会の調査によれば、このような行き過ぎた校則を設けている学校は31校にのぼり、そのうち27校では違反者に対する罰点の付与その他の指導・取り締まりが行なわれていることが明らかになりました。学校によっては、▽生徒の染髪やパーマの全面的制限、▽宗教的アクセサリーを含むすべてのアクセサリーの着用禁止、▽制服をジャケットまですべて着用しなければコートを着ることを認めない運用など、10項目以上の制限を設けていたといいます。

 国家人権委員会内の子どもの権利委員会は、このような校則とその運用について、憲法第10条(幸福追求権)で保障された個性を表現する権利、一般的な行動自由権、自己決定権などの基本権を教育目的のために必要な程度を超えて制限するものであるとして、全31校の校長に校則改正を勧告したほか、このような校則に基づく指導・取り締まりを行なっている27校の校長に対しては、このような行為を停止するよう促しました。

 さらに、ソウル特別市教育監に対しても、管轄下にある学校の容姿制限に関する実態を点検し、学生の基本権を過度に制限している場合には関連規則の改正を求めるよう勧告しています。

 ソウル特別市では児童生徒人権条例(2012年施行)が定められており、2018年には頭髪規制の全面自由化に乗り出したと報じられていました(以下、当時Facebookに投稿した内容を採録します)。必ずしも十分には進展していないようですが、今回の勧告でまた動きがあると思われます。

 児童生徒人権条例(2012年施行)を定めているソウル市(韓国)が学校における頭髪規制の全面自由化に乗り出しました。記事原文は↓です。

★ 한겨레: 조희연 "내년 중·고교생 염색·파마 허용…학칙 개정 요청"
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/863522.html

 ソウル市では髪の長さについてはすでに相当程度自由化が進んでおり(市内の中・高校の84%)、今後は染色やパーマの可否について議論が進められていくようです。制服についても規則の緩和が計画されています。ソウル市教育庁が
「頭髪の長さ自由化も、施行前に提起された懸念とは異なり、取り締まり中心の生徒指導から脱却し、生徒と教師の信頼と〔意思〕疎通の増進により楽しい学校の雰囲気をつくることに貢献していることが明らかになった」
 とコメントしている点は、いわゆる「ブラック校則」のあり方を見直していくうえでも参考になるのではないでしょうか
(後略)

2.校内における生徒の表現の自由について

●“학생들의 게시물을 철거하는 행위는 표현의 자유 침해”(「学生の投稿を撤去する行為は表現の自由の侵害」;2021年11月18日付)
https://www.humanrights.go.kr/site/program/board/basicboard/view?currentpage=3&menuid=001004002001&pagesize=10&boardtypeid=24&boardid=7607417

 本件は、ある高校の生徒が学校の正門や校内掲示板に教師への懲戒内容などを含む掲示物を掲出したところ、学校側にすべて撤去されたことをめぐり、生徒から表現の自由の侵害であるとして申立てが行なわれたものです。

 学校側は、▽投稿内容に生徒の扇動や学校秩序の乱れにつながる余地があって教育的に問題になる可能性があり、また▽校内掲示板は学校から生徒に知らせるべき事実や生徒たちの意見を掲示する場所であって生徒たちを扇動する場所ではないことから、▽掲示物は掲示板の趣旨にも合わないためやむをえず撤去することになったと主張しましたが、国家人権委員会は次のような根拠(趣旨)を挙げて、学校側による撤去は憲法第21条および自由権規約(第19条)や子どもの権利条約(第12条・13条)で保障されている生徒の表現の自由の侵害であると判断しました。

〇 基本権の制限は法律および法律によって委任された根拠規定によるものでなければならないのに、当該高校の「生徒生活規則」には校内掲示物に関する内容が規定されていない。
〇 たとえそのような規定が存在したとしても、「生徒の扇動の懸念」のような抽象的な理由に基づいて生徒の表現の自由などを根本的に制限・遮断する規定は認められない。
○ 学校側が撤去した生徒らの掲示物は、私学の不正を告発したことにより解職された教師の復職要求などに関連する内容であった。これは、学生が健全な市民意識を涵養・実践する方法として自分たちの意思を表現したものと捉えられるのであって、不当に学生たちを扇動して学習権侵害などの行為をしたものとは認めがたい。

 そこで国家人権委員会は、当該高校の校長に対し、▽憲法や子どもの権利条約などで認められた生徒の表現の自由が保障されるような形で「生徒生活規則」の学内掲示物関連に関する事項を改定すること、▽「生徒掲示板の使用に関する協約書」および本件の決定文を生徒たちに知らせることを勧告しました。

3.校内における携帯電話の使用禁止について

●“학생의 교내 휴대전화 사용 전면금지 중단, 관련 규정 개선 필요” - 기본권 제한을 최소화하는 방법 모색할 것 권고 -(「校内での生徒による携帯電話の使用の全面禁止を停止し、関連規定を改善する必要あり」-基本権の制限を最小化する方法の模索を勧告-;2021年11月3日付)
https://www.humanrights.go.kr/site/program/board/basicboard/view?currentpage=4&menuid=001004002001&pagesize=10&boardtypeid=24&boardid=7607395

 ある高校で、日課時間中の携帯電話の使用が(休憩時間や昼休みを含めて)全面的に禁止されており、電源を切って保持していなければならないとされていることについて、生徒側が通信の自由などの侵害であるとして申立てを行なった事案です。また、必要に応じてマルチメディア室で自由にインターネット検索が利用でき、緊急時には担任教師を通じて家庭と学生の迅速な連絡などが可能な態勢を整えているとも述べています。

 国家人権委員会内の子どもの権利委員会は、携帯電話の使用を制限する必要性が認められるとしても、授業時間中のみ使用を制限し、休憩時間と昼休みには使用を許可するなど、学生の基本権侵害を最小化しながら教育目的を達成することができるのであって、全面禁止以外の方法を考えることは可能であると判断しました。にもかかわらず校内における携帯電話の使用を全面的に制限し、違反に対して罰点まで科すことは、生徒の権利を過度に制限するものだとしています。

 また、正当な理由があれば携帯電話の使用を認めているという点についても、通話が必要な理由を教師に知らせる過程で生徒の私生活が明らかになりうることなどを考慮すれば、このような運用が、携帯電話の全面使用禁止を通じて発生する生徒の権利制限を補完するやり方とは言いづらいと判断しました。

 そこで国家人権委員会は、当該高校の校長に対し、▽日課時間中における携帯電話の使用の全面禁止を停止すること、▽生徒の一般的な行動自由権や通信の自由を過度に制限しない範囲で校則を緩和するよう勧告したものです。

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 上記の3つの勧告はいずれも、子どもの権利の視点から校則を見直していくうえで参考になるものです。生徒の人権を侵害するような校則が許されないということについては、その具体的内容や範囲はともかく、日本でも社会的合意が形成されつつあります。日本でも子どもオンブズパーソン/コミッショナー(または国家人権委員会のような包括的第三者機関内の子どもの権利担当者)を設置することが、人権/子どもの権利の視点に立った校則などの見直しを加速し、定着させていくことにつながると思います。


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平野裕二
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