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テクノロジーによって容易にされるCSEA(子どもの性的搾取・虐待)に対処する際の指導原則

 本日2月11日は #セーファーインターネットデーSafer Internet Day)です。この機会に、「子どもたちのためのデジタル未来」センターDigital Futures for Children centre)が2024年12月4日に発表した報告書『テクノロジーによって容易にされる子どもの性的搾取・虐待への対処に関する指導原則』Guiding principles for addressing technology-facilitated child sexual exploitation and abuse)を紹介します。

「子どもたちのためのデジタル未来」は、子どもの権利が尊重されるデジタル環境のために活動している国際NGO 5Rights とLSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)の共同プロジェクトです。今回の報告書では、「テクノロジーによって容易にされる子どもの性的搾取・虐待」(CSEA)の現状を分析し、議論を整理したうえで、CSEAに対処していく際に考慮すべき6つの指導原則を提示しています。

 以下、6つの指導原則の概要を紹介します。引用で示している部分(グレーの囲み)は、エグゼクティブサマリー(pp.3-4)からの引用です。各原則について「キーメッセージ」と「関係者が検討すべき設問」が示されていますので、それもあわせて訳出しておきます。CSEAの問題をより幅広い文脈・枠組みに位置づけること、子どものすべての権利を考慮することの重要性が随所で強調されている点は、大切なポイントだと思います。


原則1:子どもたちの声には重みがある。(Children's voices count)

 決定を行なう際、被害を受けた子どもの声を含む子どもたちの視点と経験を考慮することはきわめて重要である。デジタル環境におけるリスクおよび危害の力学について子どもたちがどのような見方をしているか理解することは、効果的な介入策を発展させるために欠くことができない。この原則は、子どもたちの声は子どもの安全に関わる言説の信頼性を高めるとともに、子どもたちのエンパワーメントにもつながると主張するものである。

〈キーメッセージ〉

  • 多様な子どもたちを対象とする倫理的で質の高い調査および協議を実施し、子どもたちの声が聴かれることを確保する。

  • 子どもたちの声は、テクノロジーによって容易にされるCSEAに対応するための措置の立案の参考にする目的で活用されるべきである。

  • 子どもたちの経験を中心に位置づけるエビデンス創出が、より幅広いプロセスに埋めこまれかつ制度的に位置づけられるべきである。

〈関係者が検討すべき設問〉

1.安全確保に関する基準と「害を与えない」(do-no-harm)原則を遵守しつつ、多様な集団の子どもたちの声を意味のある形で包摂する方法について検討したか?
2.子どもたちが述べることを、デジタル技術に関わる子どもたちのより幅広い経験の文脈に慎重に位置づけつつ、テクノロジーによって容易にされるCSEAについての子どもたちの経験および意見からどのように学び、その経験や意見に応じてどのように行動を立案できるか?
3.変化を起こす権限を有している人々によって子どもたちの意見が聴かれること、また調査や協議が、一度きりの実践ではなく、防止・対応のための努力のより幅広いプロセスに制度的に位置づけられることを、どのように確保できるか?

原則2:言葉は重要である。(Language matters)

 政策、調査研究およびアドボカシーにおける明確な、一貫した、かつ正確な用語法は重要である。子どもたちまたは一般市民が使っている日常用語は、法律その他の公式な文脈で用いられている用語と合致しないことが多い。子どもたちの経験と虐待の性質を正確に反映するやり方で言葉を用いるための努力が必要である。言葉遣いに関する合意がなければ、防止・保護のための措置や、これらの措置に関する社会的認知・賛同についてコンセンサスを得ることができない。

〈キーメッセージ〉

  • ルクセンブルクガイドライン〔性的搾取・性的虐待からの子どもの保護に関する用語法ガイドライン〕(PDF)の助言にしたがうとともに、とくに子どもたちを非難する言葉を用いないようにする。

  • テクノロジーによって容易にされるCSEAを支えている行動および力学についての普遍的な理解にしっかりと根差しつつ、文脈に応じて用語法を修正する。

〈関係者が検討すべき設問〉

1.テクノロジーによって容易にされるCSEAについて話す際、特定の(国その他の)文脈で一般的に用いられている言葉遣いに熟達するとともに、それらの言葉遣いと、ルクセンブルクガイドラインに示されているもののような共有された言葉遣いとの関係を慎重に検討したか?
2.他者の行為について被害者-サバイバーを非難していると受け取られ得る言葉遣いを避けているか?
3.英語以外の言語を使っている場合、あなたの用語法は、テクノロジーによって容易にされるCSEAを支えている行動および力学についての共通理解をきちんと踏まえたものになっているか?

原則3:文脈に注意する。(Take care with context)

 テクノロジーによって容易にされるCSEAが子どもの性的搾取・虐待の形態であることを認識しておくことは、不可欠である。この原則は、テクノロジーによって容易にされるCSEAがオフラインの要素なく行なわれる場合もあることを認識しつつ、テクノロジーによって容易にされる虐待が複雑であることと、それがほとんどの場合にリスクおよび影響の組み合わせ(子どもの性的虐待を当たり前のように思わせ、かつ広げることを含む)をもたらすことを認めるものである。さらに、これらの文脈は、文化、地政学的環境および規制枠組みによってきわめて大きく異なる。そのため、事案に特有の保護措置と、防止および緩和に対する包括的で調整のとれたアプローチが必要になる可能性がある。

〈キーメッセージ〉

  • CSEA〔一般〕とテクノロジーによって容易にされるCSEAとの間にある脆弱性および保護要因の相互関連性を、それらが個人によって、またオンラインとオフラインの文脈によってどのように異なるかを踏まえながら、認識する。

  • 「技術的解決万能主義」(techno-solutionism)を防止・緩和するため、テクノロジーによって容易にされるCSEAを、オフラインの暴力・虐待・搾取に関するいっそう幅広い理解のなかに位置づける。

  • 最適な対応を確保するため、危害へと至る経路は多様なので、テクノロジーによって容易にされるCSEAへの対応においてはケースバイケースのアプローチがとられるべきであることを認識する。

〈関係者が検討すべき設問〉

1.テクノロジーによって容易にされるCSEAを、その特有の性質を考慮しつつ、より幅広い概念化、防止および暴力・搾取・虐待への対応にどのように位置づけるのが最善かを考慮したか?
2.デジタル環境と物理的環境との間にある具体的経路について、何らかの仮説を立てているか?
3.テクノロジーによって容易にされるCSEAと闘うための技術的解決策を、より幅広い防止・対応枠組みのなかにしっかり位置づけているか?

原則4:子どもたちを非難しない。(Avoid blaming children)

 テクノロジーによって容易にされるCSEAに対処する際には、言葉または行動のどちらを通じてであれ、子どもたちに汚名を着せたり子どもたちを非難したりしないことが重要である。このことは、リハビリテーションこそが優先的課題である子どもの被害者にとって、また懲罰的司法よりも修復的司法のほうが望ましい「加害者」と見なされる子どもにとって、大きな意味を持つ。たとえば、「加害者」自身が被害者である場合もあることは、科学的知見の示すところである。この原則はまた、たとえば、同世代の子どもたちが、虐待の一形態としてではなく、正常で同意に基づく性的探究の表現として性的コンテンツを共有する場合もあることを認めるものでもある。

〈キーメッセージ〉

  • テクノロジーによって容易にされるCSEAへの対応(立法者、法執行機関、社会福祉機関または親のいずれによるものかは問わない)においては、明示的にも黙示的にも、被害を受けた子どもを非難しないようにしなければならない。

  • 同意に基づく同世代間の行動および行為はそのセクシュアリティの表現であり、それを犯罪化することは、相当の悪影響をもたらし、かつ子どもたちの権利および発達しつつある能力を侵害する可能性がある。

〈関係者が検討すべき設問〉

1.子どもたちの性的探究・表現の事例がテクノロジーによって容易にされるCSEAの文脈でどのように分類されているか、検討したか?
2.性的側面を強調した画像・動画の、同意に基づく特定の形態の製造および配布を理由とする子どもの犯罪化を回避するために、十分な措置を設けているか?
3.テクノロジーによって容易にされるCSEAの罪を犯した子どもが子ども司法制度のなかでどのように扱われることになるか、考慮したか?

原則5:将来においても有効な政策。(Future proof policy)

 この原則では、新たな脅威に備えるための柔軟な対応を可能にする先取的な措置が唱道される。このような政策では、即時的な保護対応と、有効であり続けるための長期的な戦略修正とのバランスがとられるべきである。複数の技術的イノベーションが積極的に導入されまたは姿を現しつつあり、かつ子どもたちと社会に複数の社会的・政治的・経済的圧力がかかっているなか、テクノロジーによって容易にされるCSEAと闘うための政策と実践は、現在および将来の目的に適合したものであり続けなければならない。

〈キーメッセージ〉

  • 特定のテクノロジー、類型または定義に焦点を当てるのではなく、テクノロジーによって容易にされるCSEAを支えている虐待的・搾取的行動または行為に焦点を当てた、将来においても有効な政策。

  • テクノロジーによって容易にされるCSEA関連規定の採択に関して立法が遅れをとっている場合、刑事司法に携わる専門家は、暗礁に乗り上げることを回避するため、現行法が及ぶかぎりの対応を尽くすよう試みるべきである。

〈関係者が検討すべき設問〉

1.現行の法律上・政策上の枠組みを、たとえそれらの枠組みが新興テクノロジー以前に定められたものだとしても、新興テクノロジーの文脈でどのように適用し得るか、考慮したか?
2.新興テクノロジーへの法律の拡大適用で、法の支配は尊重されているか?
3.法的確実性の原則との十分な一致を確保しつつ、将来のテクノロジーに適用できるようなやり方で法律を作成してきたか?

原則6:子どもの権利アプローチを取り入れる。(Embrace a child rights approach)

 テクノロジーによって容易にされるCSEAに対処するための介入策および政策は、国連・子どもの権利条約(UNCRC)およびデジタル環境との関連における子どもの権利についての一般的意見25号で述べられている、ホリスティックな子どもの権利アプローチに基づいたものであるべきである。このようなアプローチは、プライバシー、表現の自由、デジタル世界への参加および自己の生活に影響を及ぼす意思決定プロセスへの参加を含む、子どものすべての権利を包含するものでなければならない。

〈キーメッセージ〉

  • 関係者は、テクノロジーによって容易にされるCSEAを対象とする介入策が子どものあらゆる範囲の権利に及ぼす影響を評価し、子どもの権利が競合する場合に釣り合いのとれた対応を確保するべきである。

  • テクノロジーによって容易にされるCSEAへの子どもの権利中心の対応およびこれらのCSEAを防止するための戦略は、暴力・搾取・虐待のより幅広い概念化および安全で権利が尊重されるデジタル環境のより幅広い概念化を枠組みとして形づくられるべきである。

  • 「子どもの権利バイ・デザイン」(Child Rights by Design)の原則にしたがい、子どもたちが利用する製品およびサービスに、子どもの権利が根づかされるべきである。

〈関係者が検討すべき設問〉

1.介入策が子どもの他の権利に否定的な影響を及ぼすか、また関連するすべての権利がその可能性を最大限に発揮できるようにするため、十分な予防策をとったか?
2.デジタル環境について、またテクノロジーによって容易にされるCSEAの力学および影響について、この分野で有効かつ子どもの他の権利への悪影響を最小化する介入策を策定するための十分な知識を有しているか?
3.テクノロジーによって容易にされるCSEAおよびそれが行なわれているデジタル環境についての理解を向上させるため、補完的な専門性を有する関係者の関与を得ているか?

 なお、報告書のp.14に国連・子どもの権利委員会の一般的意見25号の抜粋が掲載されているので、以下に日本語訳を掲載しておきます。

暴力、搾取および虐待について
「子どもたちは、デジタル環境との関連で、その福祉のいかなる側面にとっても有害なあらゆる形態の搾取から保護されるべきである。搾取は、児童労働を含む経済的搾取、性的搾取・虐待、子どもの売買、取引および誘拐ならびに犯罪活動(サイバー犯罪を含む)に参加させるための子どもの募集など、多くの形態をとって行なわれる可能性がある。……」(パラ112)
「締約国は、デジタル環境における暴力から子どもたちを保護するための立法上および行政上の措置をとるべきである。これには、デジタル環境におけるあらゆる形態の暴力に関わってすでに認識されているリスクおよび新たに生じつつあるリスクから子どもたちを保護する確固たる法令上および制度上の枠組みを定期的に見直し、改定しかつ執行することが含まれる。……」(パラ82)

企業セクターの役割について
「非営利組織を含む企業セクターは、デジタル環境関連のサービスおよび製品の提供に際し、子どもたちの権利に直接・間接の影響を及ぼしている。企業は、子どもたちの権利を尊重し、かつ、デジタル環境との関連で子どもたちの権利侵害の防止および救済を図るべきである。締約国には、企業がこれらの責任を履行することを確保する義務がある。」(パラ35)

子どものプライバシー権について
「子どものプライバシーへの干渉が認められるのは、それが恣意的または不法でない場合のみである。したがって、このようないかなる干渉も、法律で定められ、正当な目的の達成を狙いとし、データの最小限化の原則を維持し、比例性を有しており、かつ条約の規定、目的および趣旨に抵触しないものでなければならない。」(パラ69)

表現の自由に対する子どもの権利について
「……コンテンツ管理、学校フィルタリングシステムおよびその他の安全指向技術は、デジタル環境における情報への子どもたちのアクセスを制限するために用いられるべきではない。これらの技術は、有害な資料が子どもたちに供給されることを防止するためだけに用いられるべきである。コンテンツモデレーションおよびコンテンツ管理においては、子どもたちのその他の権利、とくに表現の自由およびプライバシーに対する権利とのバランスを図ることが求められる。」(パラ56)
「デジタル環境における表現の自由に対する子どもたちの権利のいかなる制限(安全措置を含むフィルターなど)も、法律にしたがっており、必要であり、かつ比例性を有するものであるべきである。そのような制限の根拠を透明なものとし、かつ子どもたちに対して年齢にふさわしい言葉で伝えることが求められる。……」(パラ59)

 そのほか、国連・子どもの権利委員会「子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書の実施に関するガイドライン」(2019年)、欧州評議会・性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する条約(ランサローテ条約、2007年)なども参照(欧州評議会ランサローテ委員会が11月7日に採択した「新興テクノロジーによって容易にされる性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する宣言」も参照)。また、今回の報告書では参照されていないようですが、欧州評議会閣僚委員会「デジタル環境における子どもの権利の尊重、保護および充足のためのガイドライン」(2018年)も、デジタル環境と子どもの権利について考えるうえで欠かすことのできない文書ですので、あわせてご参照ください。

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平野裕二
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