子どもの権利と代替的養護(社会的養護)をめぐる国連の動向
子どもの権利と代替的養護(社会的養護)をめぐる国連の動向について、昨年来、Facebookで何度か報告してきました(2019年12月5日・同20日・2020年3月5日)。来年(2021年)には国連・子どもの権利委員会でこの問題に関する一般的討議が開催される予定です(2020年9月18日に開催予定だったのですが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で延期されました)。参照しやすいよう、若干加筆修正したうえで投稿内容をまとめておきます。
子どもの権利条約の実施状況に関する国連事務総長の報告書(2019年7月)
2019年12月初頭、子どもの権利条約の実施状況に関する国連事務総長の報告書(A/74/231、2019年7月26日付)が公表されました。今回の報告書では、「親のケアを受けていない子ども」の状況に焦点が当てられています。
報告書は、国際的・地域的・国内的レベルで見られた進展を振り返ったうえで、とくに次の分野で依然として残る課題を指摘しています。
A.データおよびエビデンスの創出に関する課題
B.脱施設化および家庭を基盤とするケアの選択肢の発展に関する課題
C.ケアの改革のための十分な人的資源・財源の配分に関連する課題
D.権利を侵害されやすい立場に置かれた子どもに対するケアの提供における課題
いわゆる「ボランツーリズム」(voluntourism、ボランティア・ツーリズム)の問題も取り上げられています(パラ36など)。「孤児院ツーリズム」などとも呼ばれる現象です。
報告書は最後に、▼家族分離を防止するための取り組み、▼施設措置の防止および家庭を基盤とする代替的養護の推進、▼代替的養護の質の確保(とくに子どもに対する人権侵害の防止)などのさまざまな措置を勧告しています(パラ62~71)。とりわけ、子どもの意見表明・参加を確保するための取り組み(子どもオンブズパーソン等の設置を含む)を促す次の勧告(パラ69)は重要でしょう(太字は訳者=引用者)。
69.国その他の主体は、親のケアを受けていない子ども・若者が、政策改革に関する決定および自分自身のケア体制に関する決定に全面的にかつ意味のある形で参加することを確保するための仕組みを設置しかつ強化するべきである。これには、子どもの個別養育体制に関連する決定も含まれる。子ども・若者が自分自身を自由に表現すること、協議の対象とされること、および、その発達しつつある能力にしたがって、かつすべての必要な情報へのアクセスに基づいて自分自身の意見を考慮されることを可能にする子どもにやさしいやり方で子ども・若者の関与を得ることは、必要不可欠である。国その他の主体は、子どもが好む言語によるこのような協議および情報提供を可能にし、かつ、協議プロセスにおける子どもにやさしい空間およびコミュニケーション技法の活用、合理的配慮の提供ならびに障害および年齢にふさわしい支援の提供を確保するため、あらゆる可能な措置をとるべきである。国は、代替的養護におけるケア、保護および処遇の提供を規律する法規の遵守を監視するため、子どもオンブズパーソン、コミッショナーまたは査察官のような監視機構を設置するよう求められる。このような機構は、子どもの意見および悩みを直接聴取すること、および、当局がどの程度子どもの意見を聴きかつ正当に重視しているかを監視することを目的として、妨げられることなく入所施設にアクセスできるべきである。
子どもの権利に関する国連総会決議(2019年12月)
国連総会(第74会期)は、2019年12月18日、「子どもの権利」(A/C.3/74/L.21/Rev.1)と「女児」(A/C.3/74/L.23)に関する決議をいずれも無投票で採択しました(投票結果等についてはこちらの一覧表を参照)。
「子どもの権利」に関する決議では、従来から取り上げられているさまざまな問題に加え、上述の国連事務総長報告書を踏まえて「親のケアを受けていない子ども」についてとくに詳しく言及されています(パラ21以下)。
「孤児院」(orphanage)を基盤とする養護制度の解体(脱施設化の推進)に取り組んできた Hope and Homes for Children が決議のポイントをまとめていますので、それにしたがって、国連加盟国に対して何が求められているかの概要を紹介します。
★ Hope and Homes for Children: Landmark moment as the UN calls for the end of orphanages
https://www.hopeandhomes.org/news-article/unga/
1)家族支援の政策、サービスおよびプログラムを採択・実施し、そのために予算を振り向けるとともに、家族が脆弱な状況に置かれる原因となっている諸問題に対応すること(とくにパラ34(a)~(j))。
2)子どもの権利条約、障害者権利条約、子どもの代替的養護に関する国連指針などにのっとり、家族とともに暮らせない子どものために良質、アクセシブル、かつインクルーシブな代替的養護の選択肢を整備すること(パラ35(b))。
3)ケアのための施設における子どもの人身取引・搾取と闘うとともに、「孤児院におけるボランティア・プログラム(観光の文脈で行なわれるものを含む)に関連する危害を防止し、かつこれに対応するための適切な措置」をとること(パラ35(t))。いわゆる「孤児院ツーリズム」の問題について国連決議で言及されたのはこれが初めてとのことです。
4)代替的養護を受けている子どもの人権を保護するための措置をとること(パラ35)。
5)親のケアを受けていない子どもに関するデータ収集・情報管理・報告システムの向上を図ること(パラ35(d))。
なお、前掲記事の冒頭でも強調されているように、今回の決議でも、「子どもの最善の利益を最優先に考慮しながら、良質な代替的養護の選択肢を施設措置よりも優先させること」(パラ35(f))や「施設措置を良質な代替的養護(とくに家族およびコミュニティを基盤とする養育を含む)によって漸進的に置き換えること」(パラ35(g))が求められています。
4点目(代替的養護を受けている子どもの人権の保護)との関連では、相談・通報手続について次のような対応も促されています(パラ35(k))。
(k) 代替的養護の環境にある子どもまたはその代理人が、相談を求め、子どもに対する暴力その他の安全関連の懸念を通報し、かつ暴力事件に関する苦情を申し立てられるようにするための、安全な、十分に周知された、子どもにやさしい、秘密が守られ、アクセスしやすくかつ効果的な機構を設置しかつ発展させるとともに、すべての子どもが当該機構にアクセスできることを確保すること。
もっとも、国連事務総長報告書ではより幅広い子ども・若者参加(政策決定への参加も含む)が促されており、また「子どもオンブズパーソン、コミッショナーまたは査察官のような監視機構」の設置も求められていました(前述)。今回の決議はこの点についてはだいぶ限定された内容になっており、自分自身に関する決定の子ども参加についてもほとんど言及がありません。この点は重大な問題で、さらなる取り組みが必要です。
国連・子どもの権利委員会の一般的討議(2021年予定)
国連・子どもの権利委員会は、2020年9月18日に開催する一般的討議*のテーマに「子どもの権利と代替的養護」を選択し、2020年3月にその詳細を発表しました(冒頭で述べたとおり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により開催は2021年に延期されました)。
一般的討議(general discussion)とは、「条約の内容および趣旨に関するより深い理解を促進するため、……条約のひとつの特定の条文または関連する主題」(委員会の手続規則より)をテーマに選んで委員会が開催する討議です。現在は2年に1回開催されています。これまでの一般的討議のテーマおよび勧告(日本語訳)は私のサイトをご参照ください。
次回の一般的討議の全般的目的は、「代替的養護の複雑な現状を広く検討するとともに、家族からの子どもの不必要な分離に関わる特定の懸念領域および家族と子どもの分離が避けられない場合の適切な対応方法を明らかにしかつこの点について議論すること」です。具体的には、▼(元)当事者による意味のある関与の機会をつくりだすこと、▼2019年の国連総会決議(前述)や「自由を奪われている子ども」に関する国際研究*の関連の勧告をフォローアップすることをはじめとする9つの目的が挙げられています。
「自由を奪われている子ども」に関する国際研究は、国際人権法の泰斗であるマンフレッド・ノヴァック氏が国連事務総長の委嘱を受けて実施したものです。最終報告書は2019年7月にとりまとめられ、同年10月8日に国連総会で発表されました。報告書では、代替的養護施設を含む施設についても、▼家族支援等を通じた親子分離の防止、▼漸進的な脱施設化の推進(医療施設等に措置されている子どもの脱施設化を含む)、▼施設の規制・監督などの勧告が行なわれています(パラ125~131)。Facebookの投稿参照。
国連・子どもの権利委員会の前掲ページには、より詳しいコンセプトノートも掲載されています。子どもの代替的養護に関する国連指針(2009年)はもちろん、障害者権利条約も踏まえた討議が行なわれる予定です。2005年に「親のケアを受けていない子ども」というテーマの一般的討議が開催されたときと比べ、(元)当事者の声が格段に反映された議論になることが期待されます。なお、一般的討議への子ども参加に関する委員会の作業手法をまとめた文書も参照。