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イングランド子どもコミッショナーが発表した、デジタルゲームに関する子どもたちの声

 先日の投稿でユニセフ・イノチェンティ研究所が発表した「デジタルテクノロジーと遊びと子どものウェルビーイング」に関する報告書について取り上げましたが、イングランド(英国)の子どもコミッショナーも1月8日にビデオゲームに関する報告書を発表していたので、あわせて紹介しておきます。

★ Digital playgrounds - Children's views on gaming
https://www.childrenscommissioner.gov.uk/resource/digital-playgrounds-childrens-views-on-gaming/

 この報告書は、イングランドの子ども(8~17歳)を対象として2023年3月に実施された全国代表サンプル調査および「ザ・ビッグ・アスク」(2021年)で得られた子どもたちの声を、デジタルゲームとの関連で新たに分析してまとめたものです。報告書の要旨(Executive Summary)によると、次のような結果が得られました(pp.5-6;太字は平野による)。

全国代表サンプル調査

  • 子どもたちの約3分の2は、ビデオゲームが子どもの健康とウェルビーイングにとって有益だと考えている。

  • 子どもたちは、シングルプレーヤー型ゲームのほうが、マルチプレーヤー型ゲームよりも子どものメンタルヘルスとウェルビーイングにとって有益だと考えている(67%対62%)。

  • 子どもたちは、マルチプレーヤー型ゲームの影響について、より心配している。シングルプレーヤー型ゲームが子どもの健康とウェルビーイングにとってよくないと考える子どもは4%にすぎなかったが、マルチプレーヤー型ゲームがよくないと考える子どもは10%存在した。

  • あらゆる形態のゲームについて、男子のほうが、ゲームは子どもの健康とウェルビーイングにとって有益だと考える傾向が女子よりも高かった(シングルプレーヤー型ゲームについて70%対65%、マルチプレーヤー型ゲームについて69%対56%、バーチャルリアリティゲームについて50%対39%)。

  • オンラインの安全に関する子どもたちからの回答は、オフラインの活動を奨励する必要性、デジタルディバイド、ゲームの積極面という主要なテーマに分類される。

「ザ・ビッグ・アスク」

  • 「ザ・ビッグ・アスク」への全回答のうち1.4%にゲーム関連のキーワードが含まれていた。これらの子どもの平均年齢は13歳で、男子55%・女子40%だった。

  • 主要なテーマのうち、全体としてゲームに関する肯定的な捉え方を示すものには、楽しい活動としてのゲーム、プロのゲーマーになりたいという希望、大人がゲームの積極面を認めないことへの苛立ち、ゲームがうまくなりたいという思いなどがあった。

  • 主要なテーマのうち、全体としてゲームに関する否定的な捉え方を示すものには、もっといいゲーム機器を持つことについての願望または仲間からのプレッシャー、ゲームの有料ガチャをめぐる懸念、ゲーム依存症をめぐる懸念、子どもの到達目標から気をそらすものとしてのゲーム、その他の肯定的活動から気をそらすものとしてのゲーム、バーチャルリアリティなどがあった。

 このような結果を踏まえ、子どもコミッショナーのレイチェル・デ・スーザ氏は、まえがきの末尾(p.4)で次のように述べています。

 子どもたちには遊ぶ権利があります――そのことは、ビデオゲームのデジタル遊び場にも当てはまります。ゲームは非常に社会的な活動で、子どもたちはそれを通じてコミュニティを見つけ、たくさん楽しむのです! 子どもたちは、新たなスキルを学び、新たな形態の論理的思考を発展させるとともに、さらに進んで、eスポーツ、配信、あるいはより一般的にテック産業でキャリアを積むようになる子どもも出てくるでしょう。

 地元の公園であれ、友達と集まるゲーム空間であれ、子どもたちは安全に遊ぶことができるべきです。私は引き続き、ゲームから生じる子どもたちにとっての危害の問題と、それを緩和し得る方法について検討していきます。とくに、危害の潜在的出所としてのマルチプレーヤー型ゲームに関する子どもたちの懸念がオンライン安全法の実施に反映されるようにしていきます。

 ビデオゲームを一方的に〝好ましくないもの”扱いするのではなく、子どもたちの声をきちんと聴いて対応のあり方を考えていこうとする姿勢は、日本でもおおいに学ぶ必要があるでしょう。

 なお、香川県「ゲーム条例」をめぐるワークショップ(2023年9月17日)に参加したときのFacebookポストを参考までに採録しておきます(最近、この投稿がなぜかスパムとして非表示にされたので異議申立てをしていたところ、いつの間にか――何の連絡もなく――表示が復活していました)。

【香川県「ゲーム条例」をめぐるワークショップ】
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 昨日(17日)、福岡に帰る前に、2023年社会情報学会(於:立教大学)のワークショップ(WS7:デジタル社会とウェルビーイング研究部会企画ワークショップ)で「デジタル環境における子どもの権利とウェルビーイング」について報告しました。

 2020年に施行された香川県ゲーム条例(香川県ネット・ゲーム依存症対策条例)を子どもたちのウェルビーイングの観点から再考するというのがワークショップのテーマですが、私からは、もう少し一般的に、
▼子どものウェルビーイングは、主観的幸福感だけに着目するのではなく、子どもが有するさまざまな権利の保障および子どもや親のエンパワーメントという観点から考えていかなければならないこと
▼デジタル環境との関連で生じうるさまざまな問題についても、子どもの権利を踏まえ、デジタル技術によってもたらされる機会とリスク、子どもの「保護」と「自律」のバランスの観点から検討していく必要があること
 などを、この間の国際的議論の動向を踏まえて強調しました。とくに、欧州評議会のガイド(2020年)で打ち出されている「ポジティブなデジタル子育て」(positive digital parenting)の考え方は、おおいに参考にすることが求められます。

 ディスカッションでは、
「子どもの意見を聴くと言っても、行政が学校を通じて優等生的な生徒を集め、アリバイ的に『子どもの意見を聴いた』として自分たちの望む方向に誘導する危険性もあるのではないか」
 という趣旨の懸念も表明されました。そのとおりだと思います。▼子どもが誰を代表している/していないのかに十分に注意を払い、できるかぎり多様な子どもたちの意見を聴けるように努力すること、▼子どもたちはけっして均質な集団ではなく、特定のテーマについて当事者性の高い子ども(香川県のような条例の場合、ゲーム好きの子ども、SNS等の利用が多い子どもなど)から意識的に意見を聴くようにする必要があることなどを指摘しておきました。

 こども基本法が施行されたことを踏まえ、香川県の条例も、廃止や大幅な改正の可能性も含めて見直していく必要があると思います。今回のワークショップでも報告していただいた山下洋平さん(瀬戸内海放送)の著書『ルポ ゲーム条例』(河出書房新社・2023年)↓に一連の経緯がよくまとまっているので、ぜひご参照ください。

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平野裕二
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