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ウェールズ(英国)の子どもコミッショナーが求める「子どもの権利アプローチ」

ウェールズ政府(英国)、子どもの権利アプローチを実践するための政府関係者向けマニュアルを作成〉で触れておいたとおり、ウェールズの子どもコミッショナーは2017年に「ザ・ライト・ウェイ:ウェールズにおける子どもの権利アプローチ」The Right Way: A Children's Rights Approach in Wales)と題する戦略枠組みを発表しました。その概要を紹介します。

 この枠組みは、国連・子どもの権利条約や2011年「子どもおよび若者の権利(ウェールズ)法」を踏まえ、前任の子どもコミッショナー、サリー・ホランド(Sally Holland)さんの時代にとりまとめられたものです。「子どもの権利アプローチ」が何を意味するかについて、ホランドさんは序文(p.3)で次のように説明しています。

● 諸機関が、子どもの生活向上のために子どもと家族を相手に行なっている活動で、子どもの権利を優先的に位置づけること。
● すべての子どもに、その才能と可能性を最大限に発揮する機会が与えられること。
● 子どもが、権利を全面的に活用できるようにするための情報やリソースにアクセスできること。
● 子どもに、自分の生活に関する決定に影響力を及ぼす意味のある機会が提供されること。
● 公的機関および個人が、子どもの生活に影響を与える決定および結果について、子どもに対する説明責任を負うこと。

「子どもの権利アプローチ」の原則として挙げられているのは次の5つです(p.6以下)。それぞれの原則について公的機関がとるべき対応が列挙されているので、その要旨とあわせて紹介します(太字は平野がとくに注目した点)。これが各機関でどの程度実践されているかはまた別の話ですが、このような原則を示してその実行を促進することは重要です(冒頭の記事で触れているように、ウェールズ政府も政府職員向けマニュアルでこの枠組みを参照しています)。

1.子どもの権利を根づかせる(Embedding children's rights)

□ 重要な政策文書等で、サービスの計画・実施の枠組みとして国連・子どもの権利条約に明示的に言及する。
□ 幹部やスタッフがこのようなコミットメントを自覚し、条約についてよく知るようにする。
□ あらゆるレベルの意思決定で子どもの権利が考慮されるようにするための方策を掲げた戦略または計画を策定する。
□ 子どもの権利を実施するための手続を導入する。たとえば次のようなものが考えられる。
 -子どもの権利に関する意識と理解をどのように高めていくつもりかを明らかにする、スタッフ向けのコミュニケーション計画の策定。
 -子どもの権利を反映したパフォーマンス指標の策定・活用。
 -子どもの権利影響評価(平野注/詳しくは冒頭で紹介した記事を参照)。
 -主要な戦略会合の議題に、子どもの権利の実施を恒常的検討項目として挙げておくこと。
 -子どもの権利の実施に関する進捗状況の報告を求めること。
□ すべてのスタッフを対象とする、子どもの権利に関する研修に優先的に取り組む。
□ 組織内で子どもの権利の促進・擁護を担当する個人やチームを指定する。
□ 以上のことが遵守されているかどうか確認するための監査を定期的に行なう。
□ 子どもの権利に関するスタッフの知識・意識水準評価を定期的に実施する。
□ 業務委託の際に子どもの権利の保護を優先的に位置づけるとともに、委託のサイクル全体に子どもの権利アプローチの諸原則を組みこむ。
□ 子どもの権利の実施を支える十分な人的資源・財源が配分されるようにする。

2.平等と差別禁止(Equality and Non-discrimination)

□ 重要な政策文書等に、平等を促進し、かつ子ども/特定の集団の子どもに対する直接・間接差別(多重差別を含む)に対処するという明確なコミットメントを記載する。
□ 差別が不公正・不平等なアウトカムにつながりうることをスタッフ全員が自覚するようにし、かつ、子どもに対する差別の意味するところがスタッフ、サービス利用者および子どもたち自身によって広く理解されるようにする。
□ 決定が将来世代に及ぼす影響(差別的影響を含む)を考慮する必要性についてスタッフが理解するようにする。
□ 子どもの権利の実現における差別または不平等を特定できるようにするための関連データ(細分化されたデータを含む)を収集する。
□ 排除・社会的周縁化の対象とされている集団および不利な立場・脆弱な状況に置かれている集団への差別を減らしていくための、適切な優先順位、目標および行動計画を策定する。
□ 平等影響評価に子どもの権利影響評価を含める(独立した子どもの権利影響評価手続が設けられていない場合)。
□ 子どもの権利影響評価または平等影響評価の活用を通じ、子どもに直接間接の影響を与えるすべての予算上の決定の検討に、子どもたちの関与を得る。
□ 上記の手続への関与を支えるための情報を子どもたちに提供する。
□ 業務委託先に対し、子どもを差別しないようなやり方でサービスを提供するよう要求する。

3.子どものエンパワーメント(Empowering children)

□ サービス利用者としての子どもたちとも協働しながら、サービスおよびリソースのあり方を見直して、子どもたちのアクセスを妨げる障壁を特定する。
□ すべての子どもがその能力を発達させ、かつ自己の人権の支えとなるリソースにアクセスできることを可能とする、適切な優先順位、目標および行動計画を策定する。
□ 子どもたちに、政策プロセス・機構に関与しかつ影響力を及ぼす機会とスキルを提供するとともに、子どもが決定に影響力を及ぼす方法についての明確なガイドラインを定める。
□ 子どもが利用できるリソースについての関連データ(細分化されたデータおよび縦断的データを含む)を収集し、子どもたちに提供する。
□ アイデアや提案を発展させ、行動を起こし、決定に影響力を及ぼすために集団的に活動する機会を子どもたちに提供する。
□ 年齢や成熟度に応じて子ども自身が決定する機会(自分の生活を変容させる重要な選択を行なう機会を含む)を積極的に特定し、子どもに知らせる
□ 子どもたちに、自分の人権に関する理解を発展させるためのアクセシブルな情報、訓練および教育を提供する。
□ 子どもたちに、独立の人権機関、アドボカシーサービスおよび専門家による法的助言についてのアクセシブルな情報を提供する。
□ 子どもたちのための教育、訓練および発達機会を支える資源が予算で明示されるようにする。

4.参加(Participation)

□ 重要な政策文書等に、子どもの参加に対する明確なコミットメントを記載するとともに、「全国子ども・若者参加基準」を採用する。
□ 活動分野全体を通じた子ども参加に関する定期的評価を実施する。
□ 業務委託サイクル全体を通じて子ども参加を優先的に位置づける。
□ (とくに排除された/周縁化された/不利な立場に置かれた集団の子どもの)参加を増進させるための適切な優先順位、目標および行動計画を策定する。
□ サービスの立案、モニタリングおよび評価に直接子どもたちの関与を得るとともに、子どもに直接間接の影響を与えるすべての予算上の決定の検討にも子どもたちの関与を得る。
□ 子ども参加のための安全な場所およびスペース(時間を含む)を特定する。
□ 子どもに影響を及ぼす業務を担当するすべてのスタッフの採用に子どもたちの関与を得る
□ 上記の手続に子どもたちが参加したことの成果についてのフィードバックを、子どもたちおよびスタッフに対して行なう。その際、子ども参加によってもたらされた変化や利点があればそれを強調する。
□ 上記の手続への関与を支えるための情報を子どもたちに提供する。
□ 参加を支える資源が予算で明示されるようにする。

5.説明責任(Accountability)

□ 重要な政策文書等に、説明責任に対する明確なコミットメントを記載する。
□ 第三者から委託されたサービスについても引き続き説明責任が履行されるようにする。
□ スタッフが子どもに対する責任および義務を理解しているようにする(そのために、たとえば職務記述書、スタッフの行動を規律するポリシーでこのような責任・義務を明確にしていくなどの対応をとる)。
□ スタッフの監督・業務管理の対象に子どもの権利に関する個人責任を含める。
□ 子どもの人権指標を(子どもの参加を得ながら)策定するなどの手段により、子どもの権利基準に照らした、一貫した子どもの人権モニタリングを実施する。
□ 子どもの権利指標を踏まえた年次業績報告書を刊行し、その知見を広く知らせる。
□ 子どもの権利基準に照らした独立の業務モニタリングを奨励する。そのための手段には、モニタリングに子どもたちの関与を得ること、外部機関による検証/査察を得ることなどが含まれる。
□ 苦情を申し立てたり当局またはスタッフ個人の責任を問うたりするためのしくみや手続に関するアクセシブルな情報を子どもたちに提供する。
□ 助言サービス、人権アドボカシーサービス、専門家による法的助言のようなアドバイスへのアクセス方法に関するアクセシブルな情報を子どもたちに提供する。

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平野裕二
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