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国連・子どもの権利委員会、パレスチナの子どもたちの状況を憂慮する声明をあらためて発表

 国連・子どもの権利委員会によるロシア連邦の報告書審査について前回の投稿で取り上げましたが、今会期(第95会期)にはイスラエルの報告書審査も行なわれる予定でした(イスラエル政府の要請により延期)。委員会のアン・スケルトン委員長は、2月8日に行なった第95会期に関する記者会見でこの点についてれ、パレスチナ、とくにガザ地区の子どもたちの状況について憂慮の念を表明するとともに、イスラエルに対し、1月26日の国際司法裁判所裁定に直ちにしたがうことなどを求めています(委員会のこれまでの声明についてはこちらの投稿を参照)。

 当該発言部分が委員会の声明としてOHCHR(国連人権高等弁務官事務所)のサイトに掲載されていますので、以下、訳出しておきます(こちらのFacebook動画で発言の冒頭部分を聴けます)。

 なお、イスラエルに関する委員会の過去の総括所見は日本語訳済みですので、あわせてご参照ください。また、イスラエルの第5回・第6回統合定期報告書などの関連資料は第97会期のページに掲載されています。

 恐怖、痛み、飢えのなかで暮らす子どもは、ひとりもいるべきではありません。

 それなのに、現在、恐怖、痛み、飢えと無縁の子どもはガザにはひとりもいません。

 それどころか、この戦争を生き延びて成長する機会を持てさえすれば運がよかったとみなされることになるでしょう。

 国連による最新の数字によれば、昨年10月7日以降、2万7,585人のパレスチナ人が殺され、6万6,978人が負傷しました。

 7,000人以上が瓦礫の下に埋まったままであると推定されており、死傷者の総計は10万人を超える計算になります。

 その多くは子どもたちです。

 命を失った子どもたちもいれば、手足を、親を、きょうだいを、友達を失った子どもたちもいます。ガザ地区に住んでいるすべての子どもが、子ども時代を失っています。子どもたちはトラウマを負い、精神的健康への恒久的影響をいつまでも抱えながら生きていくことになるでしょう。

 セーブ・ザ・チルドレンによれば、4か月前に紛争が勃発してから、ガザでは1日平均10人以上の子どもが片足または両足を失っています。ユニセフ(国連児童基金)の推計によれば、少なくとも1万7,000人の子どもが保護・養育者を失うか両親と離れ離れになるかしており、ガザの子どもたち120万人のほぼ全員が精神保健上・心理社会上の支援を必要としています。

 これらの子どもたちにも国際社会の注意と行動が必要です。

 国際司法裁判所による2024年1月26日の国際司法裁判所の裁定は、イスラエルがガザでジェノサイドを行なっているという南アフリカの主張について「いちおうの真実性が認められる」(plausible)と認定し、イスラエルに対し、「〔ジェノサイド〕条約第II条の適用対象であるすべての行為の実行の防止」(これには集団構成員の殺害の防止も含まれます)、「ジェノサイドの実行を直接かつ公に扇動することの防止および処罰」、そして「……人道援助の提供を可能にする」ことを目的として「自国の権限内にあるすべての措置をとる」よう命じました。

 委員会は、即時停戦、緊急人道援助の提供およびすべての人質(とくに子どもとその養育者)の即時解放を――あらためて――緊急に訴えます。この点に関して、私たちは、国際司法裁判所が表明した「人質の運命に関する重大な懸念」を共有しますし、人質の「即時的かつ無条件の解放」を促す同裁判所の求めも共有するものです。

 包囲されたガザの地に暮らす200万人以上の人々が直面している途方もなく大きな人道ニーズに鑑み、委員会は、UNRWA〔国連パレスチナ難民救済事業機関〕に対する資金拠出または将来の資金拠出を停止したすべてのドナー国に対し、その決定を直ちに再検討するとともに、あらゆる緊急援助がすべての人に、1人ひとりの子どもに届けられることを確保するための十分な資金を提供するよう、促します。

 さらに私たちは、今回の戦争の、トラウマにつながる長期的な影響を緩和するための、子どもたちと家族に対する大規模な心理社会的支援を呼びかけます。その対象には、攻撃の被害者または目撃者であるイスラエルの子どもたちや、家族が人質にとられている子どもたちも含まれます。

 私たちはまた、東エルサレムを含む西岸地区で暮らしている子どもたちの状況に関する重大な懸念も強調します。これらの子どもたちは、恣意的逮捕、庁法的殺人、そして占領軍および入植者による暴力に直面しています。

 私たちは、イスラエル国に対し、国際司法裁判所の裁定を直ちに遵守するよう求めます。私たちはまた、すべての国に対し、即時停戦を確立し、和平交渉を再開し、かつUNRWAへの資金拠出を遅滞なく復活させることによって、紛争に終止符を打つための行動をとることも求めます。

 イスラエル国は、今会期中に審査の対象とされる予定でした。委員会はイスラエルについての審査を終えているはずでしたが、残念ながらイスラエル政府は参加延期の決定を下しました。

 委員会は、時間が何よりも大切な時期にイスラエルについての審査を行なう機会が持てなかったことを、深く遺憾に思います。イスラエル国も実行支配下で暮らしている子どもたちの権利は、最近の歴史ではめったに見ることのできない水準で、著しく侵害されています。

 私たちは、委員会の9月会期〔第97会期、8月26日~9月13日〕へと予定が変更された、イスラエルの国家代表団との相互対話を心待ちにしています。委員会は、それまでに、2023年10月7日以降のイスラエルおよびパレスチナ被占領地域の子どもたちの状況に関する追加質問事項をイスラエルに送付します。

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平野裕二
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