スコットランド子ども・若者コミッショナーの1年:2021/2022年度年次報告書概要
スコットランド子ども・若者コミッショナーは、10月13日、2021/2022年度(2021年4月~2022年3月)の年次報告書を発表しました。
★ Our 2021/22 Annual Report: A momentous year for children's human rights in Scotland
https://www.cypcs.org.uk/news-and-stories/our-2021-22-annual-report-a-momentous-year-for-childrens-human-rights-in-scotland/
報告書本体に加え、イージーリード(easy read)版(PDF)と子ども・若者版も作成されています。
スコットランド子ども・若者コミッショナー事務所が昨年度に行なった主な活動についてはイージーリード版で一番わかりやすくまとめられているので、以下、主としてそれに基づき、適宜補足しながら紹介します。なお、今年度の同事務所の戦略的優先課題(strategic priorities)は子どもの貧困、メンタルヘルス、気候正義の3つです。
子ども・若者参加の推進
● 新たなヤングアドバイザー(14~17歳)の任命と、「ヤングアドバイザー欧州ネットワーク」(European Network of Young Advisers)への参加。
● メディアで子ども・若者の考え方が取り上げられるようにするための取り組み。
● 学校訪問(Listening Days)およびその他の子どもの居場所への訪問(Roadshow)。
● A Place in Childhood という団体との連携による、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する子ども・若者の意見の調査。
● 子ども影響事前評価(CRIA: child rights impact assessment)および子ども影響事後評価(CRIE: child rights impact evaluation)への子ども参加の試行。(この件については10月3日に詳しいガイドが発表されているので、別途取り上げます)
子どもの権利条約の国内法化の推進
→〈日本語訳:国連・子どもの権利条約(編入)(スコットランド)法〉〈スコットランド子どもの権利条約編入法の施行にブレーキ――英国最高裁判決により修正が必要に〉参照。なお、修正法案は近いうちにスコットランド議会に提出される見込みのようです。
その他の具体的取り組み
● COVID-19パンデミック下における子ども・若者の支援の継続
-COVID-19パンデミックの状況を鑑み、スコットランド資格認定機構(SQA)による大学入学資格認定試験の成績評価における配慮を要請。
-学校で追加的支援を要請する方法についてのインフォメーションシートを作成。
-COVID-19ワクチンの接種に関して子ども・若者の権利が考慮されるようにすることを求め、複数回の意見表明を実施。
● 子どもの貧困対策の要請
● 子ども・若者のメンタルヘルス支援の要請
● 2021年12月に8歳から12歳へと引き上げられた刑事責任年齢をさらに14歳まで引き上げるよう、引き続き要求
● 刑事施設に収容される子どもの権利擁護
-スコットランドの裁判所の命令によりイングランド・ウェールズ出身の子どもがスコットランド内で自由を剥奪される複数の事案に介入。
-子どもを刑務所に収容しないことを政府に対して求めた刑事施設主席視察官(Chief Inspector of Prisons)の提言を支持。
-刑事施設に収容された子どもに権利について知らせるためのブックレット "d Know Your Rights When Entering Custody"(PDF)を作成。
-人身取引の被害者である複数の子どもが刑事施設に収容されている問題について、釈放を働きかけ。
● グラスゴーの施設に収容されている庇護希望者の母子の生活条件が劣悪であることについて問題提起
● サッカークラブでプロ選手として活動する子どもの権利保障のため、スコットランドサッカー連盟やスコットランド政府に働きかけ
● 子どもオンブズパーソン欧州ネットワーク(ENOC)の一員として国際的に活動
→〈新型コロナ禍が子どもたちに及ぼした影響:欧州諸国の子どもオンブズパーソンによる「子どもの権利影響評価」(CRIA)〉も参照
● ウクライナ戦争への対応:次の記事を参照
-〈ウクライナの子どもたち:欧州の子どもオンブズパーソン/コミッショナーの声明〉
-〈ウクライナ:家族と離れ離れになった子どもの権利を守るために〉
-〈子どもオンブズパーソン欧州ネットワーク(ENOC)、ウクライナから避難してきた子どもの保護に関する新たな声明を発表〉
● 気候正義のための行動について子ども・若者を支援
-スコットランド各地の教育長に書簡(PDF)を送り、気候変動に対して抗議の声をあげたいと考える子どもたちを支持するよう要請。
-気候正義に対する権利を保護する方法について考えるイベント「無駄にする時間はない」(No Time to Waste)を開催(2021年10月30日)。
● 調査
-閉鎖収容施設(secure accoomodation)への子どもの措置に関する調査報告書を発表し、改善を提言(2021年6月)。
-学校における拘束と隔離(restraint and seclusion)に関する調査のフォローアップ(以前のFacebookへの投稿参照)。
なお、現コミッショナーのブルース・アダムソンさんの任期は来年5月に終了しますので、これから新たなコミッショナーの選任作業が始まります。ブルースさんの退任前に、子どもの権利条約総合研究所の野村武司・副代表(東京経済大学)および内田塔子・事務局長(東洋大学)とともにエディンバラの子ども・若者コミッショナー事務所を訪問し(10月7日)、いろいろとお話をうかがうことができて幸いでした。ブルースさんの退任までに国連・子どもの権利条約(編入)(スコットランド)法が成立し、次期コミッショナーによる取り組みの発展の基盤となることを希望します。