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ウェールズ子どもコミッショナー:貧困への対処に対する子どもの権利アプローチ

 ウェールズ(英国)の子どもコミッショナーが2017年に打ち出した戦略枠組みザ・ライト・ウェイ:ウェールズにおける子どもの権利アプローチについては、関連するさまざまな資料を取り上げてきました(こちらの記事冒頭のリンクを参照)。

 このほど(1月29日)、同アプローチの実践に関する新たなガイドとして『貧困への対処に対する子どもの権利アプローチ』A Children's Rights Approach to Tackling Poverty)が発表されましたので、その概要を紹介しておきます。

「はじめに」(p.4)で、現コミッショナーのロシオ・シフエンテス(Rocio Cifuentes)氏は次のように述べています。

「ウェールズにおける子どもの貧困率は10年以上にわたって頑として30%前後に留まってきました。この数字はしばしば引用されますが、インパクトを失いつつあるおそれがあります――私たちは、この数字を耳にするたびにショックを受け、腹を立てるべきなのです」

 そのうえで、
〔ウェールズ政府その他の公的機関が法令等に基づいて有している〕これらの義務はいずれも子どもの貧困削減につながってきませんでした。けれども、私たちが貧困への対処に対して本当に子どもの権利アプローチをとれば、政策および予算上の意思決定は、もっとも脆弱な状況に置かれている子どもたちのニーズに焦点を当てたものになるはずです」(p.5)
 と述べ、公的機関に対して今回のガイドの活用を促しています。

 そしてp.6以下で、「ザ・ライト・ウェイ」の5つの原則を踏まえた具体的措置が提言されています。以下、その内容を紹介します(要旨;太字は平野による)。


子どもの権利を根づかせる

――子どもの権利が計画およびサービス提供の中核に位置づけられなければならない。

  • 子どもの貧困に対する子どもの権利アプローチを公的機関全体で根づかせる、明確な戦略的ビジョンを策定して推進する。

  • 子どもの貧困を取り上げる地方ウェルビーイング計画では、子どもの貧困に対処するための枠組みとして子どもの権利を直接かつ明示的に認知するとともに、貧困がどこで諸権利に影響を及ぼしているか認識するべきである(その際、貧困によってもっとも明確かつ不利な影響を受けている権利からまず取り上げる)。

  • すべての計画目標が、国連・子どもの権利条約および同条約に掲げられた具体的権利への直接の言及によって補強されているべきである。あわせて、ウェールズの関連法の目的も考慮することが求められる。

  • 子どもの権利に関する、また子どもの貧困に対処するための義務に関する職員の知識・理解水準の初期評価および継続的評価を行なう。

  • 子どもの貧困に対する子どもの権利アプローチを公的機関の実務および組織横断的サービス提供機関の活動に根づかせる方法についての研修

  • 公的機関または組織横断的サービス提供機関が子どもの貧困にどのように対処していくつもりであるかを掲げた、明確な広報計画が策定されるべきである。

平等/子どもに対する差別の禁止

――すべての子どもは、人生を最大限に謳歌し、可能なかぎり全面的に発達する平等な機会を持てなければならない。いかなる子どもも、自らに不利な差別を通じて機会を制限されるべきではない。子どもの貧困または社会経済的不利益は、子どもたち一般および特定の集団の子どもたちへの差別によって引き起こされ、かつそのような差別をもたらすことが、はっきりと認識されていなければならない。

  • 貧困または社会経済的不利益に関連した行動をとることに対し、幹部レベルで明確なコミットメントを表明する。

  • 地方ウェルビーイング計画の一環として、貧困または社会経済的不利益に関連する差別を特定する目的で子どもたち一般および特定の集団の子どもたちについてのデータを収集し、そのデータに基づいてそのような差別に対処するための行動を発展させることが重要である。

  • 各当局および組織横断的サービス提供機関は、差別の解消が正当に顧慮されるようにするための行動をとらなければならない。これは、子どもの貧困に影響を及ぼす子どもの権利がすべての政策・予算で遵守されていることの確認、社会経済的不利益から生じる成果の不平等の低減を通じて実行可能である。このようなコミットメントは、子どもの権利影響評価(CRIA)の実施によって実行に移すことができる。

  • 子どもたちへの支出/政策意図と結びついた資金配分のうち貧困下で暮らしている子どもたち一般および特定の集団の子どもたちに対応するために用いられる割合についての、透明なエビデンスが存在するべきである。

  • 必須サービスが差別なく利用可能、アクセス可能、適切かつ良質であることを確保し、子どもたちが子どもの貧困との関連で自己の権利を活用できるようにするための行動がとられるべきである。

子どものエンパワーメント

――子どもたちが自己の権利にアクセスするとともに、自己の生活に影響を与える組織・機関に影響を及ぼしかつその責任を問えるようにするため、子どもたちの能力の増進が図られなければならない。

  • 貧困下で生活する経験の緩和に役立つサービス、制度および機会にアクセス・関与する能力を身につけられるようにすることにより、子どもたち(およびその親/保護者/養育者)のエンパワーメントが図られるべきである。

  • 子どもたち(およびその親/保護者/養育者)が貧困下で生活しない権利を主張できるよう、子どもが理解できる言葉および形式によるアクセスしやすく子どもにやさしい情報を通じて、そのエンパワーメントが図られなければならない。

  • 子どもたち(およびその親/保護者/養育者)が、公的機関の責任を問うて貧困下での生活により影響を受ける権利を侵害させないようにさせられるよう、アドボカシー、独立の助言および弁護士による代理にアクセスできるようにするためのエンパワーメントが図られるべきである。

  • 子どもたちに、子どもの貧困への対処との関連で変革をもたらすアイデアおよび提案を発展させるために集団的に行動する機会が与えられるべきである。

子どもたちの参加

――子どもたちの生活に影響を与える決定が行なわれまたは行動がとられる際には、子どもたちの意見が聴かれ、意味のある形で考慮されなければならない。

  • 子どもたちは自分自身の生活に関する専門家であり、地方ウェルビーイング計画の策定に関わる、エビデンスに基づく検討に包摂されなければならない

  • 貧困の影響を受けている子どもたちは、政策および介入策の元になる議論に包摂されなければならず、共同作業によるサービスの設計、モニタリングおよび評価に関与できなければならない。

  • 子どもたちの参加が意味のあるものとなるよう、十分な人的資源・財源が見出されなければならない(子ども参加のための安全な場所・空間および時間の確保を含む)。

  • 政策決定においては子どもたちからのインプットを考慮しかつそれに基づいて行動しなければならず、それらのインプットが介入策にどのように影響を及ぼしたかに関するフィードバックが子どもたちに提供されなければならない。

子どもたちに対する説明責任

――諸組織および諸機関は、子どもたちの生活に影響を与える決定および行動について、とくに子どもたち自身に対して説明責任を果たさなければならない。

  • 公的機関および組織横断的サービス提供機関は、子どもの貧困は多くの権利を侵害するものであり根絶されなければならないという認識に立った、モニタリングのための明確な枠組みを策定するべきである。モニタリングのための枠組みには、▼すべての介入策についての権利を基盤とする成果目標、▼進捗を測定するための権利を基盤とする指標を含めることが求められる。

  • 公的機関は、モニタリングのための枠組みに掲げられた指標および目標をどのように達成し、また公法上の義務をどのように果たそうとしているのかについて、定期的に報告するべきである。

  • これらの指標に照らした、独立の立場からの業績モニタリングが行なわれるべきであり、またモニタリングのプロセスに子どもたちが関与するべきである。

  • 子どもの貧困への対処に対する子どもの権利アプローチを実施するための十分な人的資源・財源の配分を確保することについて、明確なコミットメントが存在するべきである。

  • スタッフは、子どもの権利に対するおよび子どもの貧困への対処における責任および義務を理解していなければならない。そのための手段として、職務記述書や業務管理枠組みでこのことを明示しておくことなどが求められる。

  • 公的機関から権利を侵害された場合または公的機関が子どもの貧困に関わる義務を果たさなかった場合に子どもたちが苦情を申し立てられるよう、公的機関は子どもにやさしい苦情申立て制度を発展させるべきである。

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 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが昨年(2024年)11月末に発表した「子どもの貧困と子どもの権利に関する意識」調査報告書でも、最終ページで、▼当事者の声に基づいた子どもの貧困解消対策の推進と▼子どもの貧困解消に向けた子どもの権利条約に関する積極的な普及啓発の必要性が提言されていました(同じくセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2025年2月12日に発表した「経済的に困難な状況にある世帯の乳幼児の生活状況調査」も参照)。ウェールズ子どもコミッショナーのガイドは、これらの提言を具体化していく際にも参考になると思います。


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平野裕二
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