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ウクライナで依然として続く子どもの権利侵害:国連・独立国際調査委員会などが報告

 国連人権理事会が設置したウクライナに関する独立国際調査委員会は、ウクライナの現地調査結果を踏まえて12月2日に首都キーウで開いた会見で、ロシアによる侵略戦争が子どもたちに「複合的」影響を及ぼしていると強調しました。

★ UN News - Ukraine rights probe condemns 'multiplying' impact of war on children
https://news.un.org/en/story/2022/12/1131302

 調査委員会のメンバーによる記者会見時の声明(英語)から、子どもにとくに言及されている箇所を訳出しておきます(太字は平野による)。

 委員会は、子どもたちの権利と生命に影響を与え続けている壊滅的な状況に懸念を表明します。子どもたちの権利が危険にさらされる範囲は一貫して広がりつつあります。子どもたちの身体の不可侵性に対する侵害が記録された複数の事案に加え、子どもを持つ女性からは、子どもたちが教育へのアクセスに関して課題に直面していると聞かされました。多くの場合に、とくに軍事作戦地帯において学校が破壊・解体されたことにより、教育に物理的にアクセスできなくなっています。さらに、COVID-19パンデミック中に確立されたオンライン教育システムが今回の武力紛争中にも教育モデルのひとつとして活用されてきましたが、エネルギーシステムへの攻撃によりこのモデルの有効性が損なわれています。ハルキウやヘルソンなど、奪還された元被占領地域で子どもたちの教育へのアクセスを確保することは、とりわけ大きな課題です。

 訳出した箇所の後半でも触れられているように、エネルギーシステムを含む民生インフラへの攻撃は子どもたちにも重大な影響を及ぼしており、戦争犯罪の成立の可能性を含めて調査が続けられる予定です(日本経済新聞〈ロシアのインフラ攻撃、国連が「戦争犯罪」を調査〉12月3日配信なども参照)。ユニセフ(国連児童基金)も、12月14日に発表した声明で、ウクライナにいる700万人近くのこどものほぼ全員が、電気・暖房・水を持続的に利用することができないため厳冬下で危険にさらされていると警鐘を鳴らしました。

「子どもたちの身体の不可侵性に対する侵害」としては、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)やウクライナ議会の人権委員会の調査により、次のような忌まわしい事態が報告されています。

-読売新聞:露軍占領下のウクライナ北部で少年少女含め441人殺害、多くに拷問の痕跡
https://www.yomiuri.co.jp/world/20221209-OYT1T50082/
(12月7日に行なわれたOHCHRによる発表の原文は UN report details summary executions of civilians by Russian troops in northern Ukraine 参照)。

-読売新聞:ロシア軍が子供用の拷問部屋、奪還地域に10か所…水や食料与えず「親は見捨てた」と心理的圧力
https://www.yomiuri.co.jp/world/20221215-OYT1T50074/

 Eurochild のメンバーであるポリーナ・クリコヴァ(Polina Klykova)氏が ChR.info プロジェクトの一環として9月19日に発表した冊子『戦争下の子ども時代-ウクライナにおける国際武力紛争の100日』(Childhood in War - 100 Days Of International Armed Conflict In Ukraine〔英語版PDF〕)では、とくに生命・生存・健康・発達に対する権利、虐待・搾取から保護される権利、家族に対する権利との関連で、侵略から約3か月の間に行なわれたウクライナの子どもたちの権利侵害がまとめられていますが、状況はますます悪化しているように思われます。

 一刻も早く侵略戦争を終わらせ、子どもたちをはじめとするウクライナの人々が安心して暮らせるようにするために、引き続き国際社会の一致した努力が求められます。

【追記】(12月21日)
 ユニセフの取り組みです。

ユニセフ(日本ユニセフ協会):ウクライナ 戦闘の影響下の子どもたちに暖と希望を ユニセフ、祝祭期間の同国内の取り組み支援
https://www.unicef.or.jp/news/2022/0270.html

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平野裕二
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