子どもの権利員会などの国連人権機関/専門家、違法な国際養子縁組への対処を各国に要請
子どもの権利委員会をはじめとする国連の人権機関/専門家は、9月29日、違法な国際養子縁組の防止と解消を訴える共同声明を発表しました。特定の国への言及はありませんが、ロシアによるウクライナ侵略を背景として違法な国際養子縁組の急増が懸念されていることなどを念頭に置いたものと思われます。
★ OHCHR - Illegal intercountry adoptions must be prevented and eliminated: UN experts
https://www.ohchr.org/en/press-releases/2022/09/illegal-intercountry-adoptions-must-be-prevented-and-eliminated-un-experts
共同声明に名を連ねているのは次の人権機関/人権専門家です。
-子どもの権利委員会
-強制失踪委員会
-真実、正義、賠償および再発防止保証の促進に関する特別報告者
-子どもの売買および性的搾取に関する特別報告者
-とくに女性および子どもの人身取引に関する特別報告者
-強制的または非自発的失踪に関する作業部会
全8ページ(うち3ページは脚注)からなる共同声明(PDF)は、違法な養子縁組がさまざまな人権(プライバシーおよび家族生活を保護される権利やアイデンティティに対する権利を含む)を侵害するものであり、犯罪(状況によってはジェノサイドまたは人道に対する罪のような国際法上の重大犯罪)を構成する場合もあることを指摘したうえで、次の3類型の義務を遵守するよう各国に促しています。共同声明という形はとっているものの、内容としては違法な国際養子縁組の防止・解消に関するガイドラインとも評することができるものです。
1)違法な国際養子縁組を防止する義務
● 防止における4つの主要な原則の遵守
(a)あらゆる養子縁組事案において、子どもの最善の利益が最高の考慮事項とされなければならない。
(b)国際養子縁組においては補完性の原則(the principle of subsidiarity)が尊重されなければならない。すなわち、国際養子縁組という手段に訴える前に、子どもの出身国において、あらゆる適切な国内的代替的養護の解決策が検討されなければならない。
(c)金銭上その他の不当な利得は禁じられているため、養子縁組に係る合理的な費用および経費しか請求しまたは支払われてはならない。
(d)国際養子縁組を認可することができるのは権限ある公的機関のみである。
――養子縁組の目的が、子どものために家族を見つけることではなく養親のために子どもを見つけることである場合、これらの原則に違反することになる。
● 子どもの意見の尊重
● 養子縁組手続の整備
● 不当な金銭的利得および汚職の禁止
● 違法な国際養子縁組の誘因(とくに国やあっせん機関による国際養子縁組の年間受入れ枠の設定)の解消
● 子ども保護制度、脆弱な状況に置かれた家族への支援、親と離れ離れになるおそれが高まっている子ども(自然災害の被害を受けた子どもを含む)の保護などに関わる国内法・実務の強化:親子分離のおそれが高まっている状況下では、国際養子縁組の一時停止を検討することも求められる。
● データ収集・統計の整備
2)違法な国際養子縁組を犯罪化し、捜査する義務
● 違法な国際養子縁組の犯罪化
● 違法な国際養子縁組の捜査(正式な告訴・告発が行なわれていない場合も含む)
● 刑事共助
3)違法な国際養子縁組について救済を提供する義務
● 違法な国際養子縁組の対象とされた子どもの、真実を知る権利および捜索される権利
● 養子縁組の無効確認手続
● 原状回復・補償等を受ける権利
● 真実回復のための機構
冒頭で述べたとおり、今回の共同声明が出された背景には、ロシアによるウクライナ侵略の過程でウクライナの子どもたちが違法な養子縁組の被害を受けているという国際社会の懸念があると思われます。この点については日本語でもそれなりに報道されていますので、いくつか紹介しておきます。
1)Forbes Japan:ウクライナの子どもとの「養子縁組」が増加 ジェノサイドの一手法(4月12日配信)
https://forbesjapan.com/articles/detail/46904
2)AFP:ロシアでのウクライナの子どもの養子縁組警告 ユニセフ(6月15日配信)
https://www.afpbb.com/articles/-/3409855
3)AFP:ロシア連れ去りの子ども、養子に ウクライナが非難(8月24日配信)
https://www.afpbb.com/articles/-/3420389
4)AFP:ロシアへの子ども強制移送「信ぴょう性高い」 国連(9月8日配信)
https://www.afpbb.com/articles/-/3422777
5)コリア・エコノミクス:米紙「露はウクライナの子供を戦利品にしている」「強制養子縁組…ジェノサイドに相当」(10月23日配信)
https://korea-economics.jp/posts/22102304/
他方、昨年(2021年)5月には国連・強制失踪委員会が、違法な養子縁組によって連れてこられたスリランカ出身の子どもたちについての調査を行なうよう、スイスに対して強く求めたこともあります。
-SWI(swissinfo.ch):国連の人権機関が指摘、非合法の養子縁組と組織犯罪との関連性
https://www.swissinfo.ch/jpn/%E9%81%95%E6%B3%95-%E9%A4%8A%E5%AD%90%E7%B8%81%E7%B5%84-%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AB-%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9/46952760
子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書でも、違法かつ不適切なやり方で養子縁組(国内・国際の別を問わない)への同意を引き出すことは子どもの売買の一形態として犯罪化を求められており(3条1項(ii))、日本としても対応を検討していく必要があるでしょう。