見出し画像

プライバシーに関する国連特別報告者、とくにデジタル環境における子どものプライバシー保護の必要性を強調

 プライバシーに対する権利に関する国連特別報告者を務めるジョセフ・カナタチ(Joseph Cannataci)氏が国連人権理事会に提出した任期最後の報告書を受けて、7月2日と5日に理事会で同特別報告者との「相互対話」(interactive dialogue)が開催されました。同報告書(A/HRC/46/37、2021年1月25日付)では、「人工知能とプライバシー」に加えて「子どものプライバシー」の問題に焦点が当てられています(対話の様子については7月2日付7月5日付のプレスリリースを参照)。

★ OHCHR: Children's right to privacy in the digital age must be improved
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/Childrens-privacy.aspx

 カナタチ特別報告者がとくに強調しているのは、子どもたちの「デジタルプライバシー」を守るための取り組みの必要性です。ソーシャルメディアを利用する子どもの利用率は9歳から12歳にかけて倍増し(34%→69%)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響もあって子どもたちによるオンライン活動は急速に拡大しています。上記の記事で、カナタチ特別報告者は次のように述べています。

「子どものプライバシーに対する脅威は、デジタル空間でもその外でも、憂慮すべき割合で増えています」
「プライバシーに対する子どもの権利を保護するうえで親には果たすべき役割がありますが、これは親だけの仕事ではありません。国は、適切な実務と法律を確立することによって、また権利行使に関する情報を子どもたち自身が入手できるようにすることによって、子どもたちの権利を守らなければなりません」
「これ
〔オンライン学習の急速な拡大〕により、教育テクノロジー企業と子どもたち、また政府と子ども・親との間に存在していた不均衡な力関係が増幅させられています。いくつかの国の政府は、子どものデータプライバシーに関する現行法の適用免除も行なっています」

 報告書の「結論」では、次のように述べられています(これに続けて多くの勧告が行なわれていますが、省略します)。

126.子どもたちのプライバシーを保護し、自律を育んでいくためには、次のような対応が必要である。
(a)次のような政策および法令を確立すること。
 (i)子どもを人権の保有者として認め、プライバシー、自律および平等に対する子どもの権利を奪うことができないものとして位置づける。
 (ii)子どもの可能性を全面的に発達させられるよう、データ保護だけではない、幅広い範囲のプライバシーを盛りこむ。
 (iii)公共政策の立案に、子どもたちの意見、プライバシーのために子どもたちがとっている方略、子どもに焦点を当てた調査研究の知見および/または子どもプライバシー影響評価を盛りこむ。
 (iv)子どもに対する個別のまたは制度的な人権侵害に関して調停、仲裁および救済を行なう独立の手段を設けるとともに、侵害事案に関して執行措置がとられることを確保する。
(b)子どもを脆弱な立場および主体性(agency)を欠いた存在と位置づける構造的力学に対処すること。
(c)子どものプライバシーを保護しながら情報通信サービスを向上させていくための技術的イノベーションを奨励すること。

 なお、いくつかの国ではデジタル技術がもたらす子どもへの悪影響を緩和・防止する目的で「年齢にふさわしい」(age appropriate)という基準が設けられていますが(たとえば英国の「年齢にふさわしいデザイン:オンラインサービスのための実務規範」など)、報告書では、このような基準は万能薬ではなく、さまざまな問題もあるとし、
「本質的に、年齢にふさわしいという概念は発達しつつある能力(evolving capacity)の原則とうまく適合しない。子どもの発達しつつある能力にあわせてサービスを修正していくために、さらなる模索が必要である」(パラ115)
 と指摘している点も、興味深いところです。

 子どもの発達しつつある能力の原則については、国連・子どもの権利委員会の一般的意見25号(デジタル環境との関連における子どもの権利)でも独立した章が設けられています(IV、パラ19~21)。同一般的意見ではデジタル環境における子どものプライバシーにも相当の分量が割かれており(パラ67~78)、今回の報告書とあわせて施策のあり方を検討していくことが必要です。

いいなと思ったら応援しよう!

平野裕二
noteやホームページでの翻訳は、ほぼすべてボランティアでやっています。有用だと感じていただけたら、お気持ちで結構ですのでサポートしていただけると、嬉しく思います。