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【追記あり】国連人権理事会、安全・清潔・健康的・持続可能な環境に対する権利が「人権」であることを宣言

 国連人権理事会(第48会期)は、10月8日、「安全、清潔、健康的かつ持続可能な環境に対する人権」に関する決議(決議48/13)を賛成43票・反対0票・棄権4票で採択しました。安全・清潔・健康的・持続可能な環境に対する権利が人権であることを国連人権理事会として明示的に確認した、画期的な決議であるとして歓迎されています。

1) UN News: Access to a healthy environment, declared a human right by UN rights council
https://news.un.org/en/story/2021/10/1102582

2)OHCHR: Human Rights Council adopts four resolutions on the right to development, human rights and indigenous peoples, the human rights implications of the COVID-19 pandemic on young people, and the human right to a safe, clean, healthy and sustainable environment
https://www.ohchr.org/EN/HRBodies/HRC/Pages/NewsDetail.aspx?NewsID=27634&LangID=E

 決議の採択を主導した「コアグループ」は、コスタリカ、モルジブ、モロッコ、スロベニア、スイスの5か国です。日本は、中国、インド、ロシアとともに棄権しました。

 決議の草案(A/HRC/48/L.23/Rev.1)はこちらから参照できます。そこでは、気候変動をはじめとする環境問題が及ぼしているさまざまな影響と、それに対処するために国連レベルで展開されてきたこれまでの取り組みを想起したうえで、次のことが述べられています。

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1.安全、清潔、健康的かつ持続可能な環境に対する権利を、諸人権の享受にとって重要な人権として認識する。
2.安全、清潔、健康的かつ持続可能な環境に対する権利が現行国際法にしたがった他の権利と関連していることに留意する。
3.各国に、次のことを奨励する。
 (a)人権に関する自国の義務およびコミットメントを充足する目的で環境保護のための努力の能力構築を図るとともに、安全、清潔、健康的かつ持続可能な環境に対する権利の実施に関して、他国、国際連合人権高等弁務官事務所、その他の国際連合システムならびに他の関連の国際的・地域的機関、条約事務局および諸プログラムならびに国家以外の他の関連のステークホルダー(市民社会、国内人権機関および企業を含む)との、それぞれのマンデート(任務・権限)にしたがった協力を増進させる。
 (b)知識およびアイデアの交流を含む手段により、安全、清潔、健康的かつ持続可能な環境の享受に関連した人権に関わる義務の充足についてのグッドプラクティス(望ましい実践)を引き続き共有していく。その際、人権保護と環境保護の相乗効果の構築を図り、統合的かつマルチセクトラルなアプローチを念頭に置き、かつ、環境保護のための努力においては他の人権に関わる義務(ジェンダー平等に関するものを含む)が全面的に尊重されなければならないことを考慮する。
 (c)生物多様性および生態系に関連するものを含め、安全、清潔、健康的かつ持続可能な環境に対する権利の享受のための政策を適宜採択する。
 (d)持続可能な開発目標の実施およびフォローアップにおいて、その統合的かつマルチセクトラルな性質を念頭に置きながら、安全、清潔、健康的かつ持続可能な環境の享受に関連した人権に関わる義務およびコミットメントを引き続き考慮する。
4.〔国連〕総会に対し、この問題を検討するよう慫慂する。
5.この問題を引き続き取り上げていくことを決定する。
――――――――――――――――――――――――――――――――――

 あわせて、「気候変動の文脈における人権の促進および保護に関する特別報告者」の任命に関する決議(48/13;草案A/HRC/48/L.27)も採択されました。この決議に関しても、日本は中国、エリトリア、インドとともに棄権しています(ロシアは反対)。

3)OHCHR: Human Rights Council appoints a Special Rapporteur on the protection of human rights in the context of climate change and a Special Rapporteur to monitor the situation of human rights in Burundi
https://www.ohchr.org/EN/HRBodies/HRC/Pages/NewsDetail.aspx?NewsID=27639&LangID=E

 今回の決議の採択に関しては、人権と環境に関する特別報告者のデビッド・R・ボイド氏(カナダ)と、ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官もさっそく歓迎の声明を発表しました。

4)OHCHR: UN recognition of human right to healthy environment gives hope for planet's future - human rights expert
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=27633&LangID=E

5)OHCHR: Bachelet hails landmark recognition that having a healthy environment is a human right
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=27635&LangID=E

 今後、環境と人権に関わる国際的な動きはますます活発化していくと思われます。日本も、中国やインドと足並みを揃えて採択を棄権するような消極的姿勢を改め、このような流れを積極的に推進していく方針に転換するべきです。先日の記事〈国連・子どもの権利委員会、一般的意見26号(子どもの権利と環境)に関するコンセプトノートを発表〉も参照。

 なお、10月8日には「COVID-19パンデミックが若者に及ぼす人権関連の影響」(Human rights implications of the COVID-19 pandemic on young people)に関する決議(草案A/HRC/48/L.26/Rev.1)も無投票で採択されていますが、これについては機会を見て別途紹介します。

【追記】(10月12日)
 毎日新聞が報じました。

6)毎日新聞:清潔な環境は「基本的人権」との国連決議 日本はなぜ棄権したのか
https://mainichi.jp/articles/20211012/k00/00m/030/107000c

 日本が棄権した理由について、外務省人権人道課は「環境権という概念が国際人権法上、確立した権利として認められていない」とした上で、「決議案に盛り込まれた権利は極めて広範な内容を含み、意味が明確でない」と説明する。同課の担当者は「日本として、ふわふわとした段階にある権利を認める方向にかじを切るまでには至っていない」と述べた。

 このような日本政府の姿勢に対し、環境NGOの気候ネットワークは10月12日付の声明で〈およそ説得性がない〉がないと批判しています。

7)気候ネットワーク:【プレスリリース】環境・気候変動問題は、人権問題である 国連人権理事会決議に対する日本政府の「棄権」に対するコメント(2021/10/12)
https://www.kikonet.org/info/press-release/2021-10-12/UNHRC

 なお、プレスリリースで紹介されている決議の概要に「国連安全保障理事会が本件を検討することを奨励」と書かれていますが、これは国連総会の誤りです(追記/修正されました)。ただし、安全保障理事会でも議論が開始されているのは確かです。NHK〈“気候変動で紛争や難民が増えている”国連安保理で危機感共有〉(2021年9月24日配信記事)など参照。

【追記2】(10月12日)
 note〈国連人権理事会決議:健康的な環境を通じた子どもの権利の実現(2020年10月)〉なども参照。


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平野裕二
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