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子どもの体罰と公衆衛生:調査研究で何がわかっているか?

 10月5日、子どもに対する暴力の解消に取り組む国際NGO End ViolenceWHO(世界保健機関)の共催で、「子どもの体罰と公衆衛生:調査研究で何がわかっているか?」と題するウェビナーが開催されました。

★ End Corporal Punishment - Corporal punishment of children & public health: What does the research tell us?
https://endcorporalpunishment.org/corporal-punishment-and-public-health-what-does-research-tell-us/

 登壇者は以下の専門家です。 4番目にお名前が出ているジョーン・E・デュラント教授は、『ポジティブ・ディシプリンのすすめ』(柳沢圭子訳、明石書店、2009年)の原著者でもあり、日本でも比較的よく知られているかと思います。

-Etienne Krug(WHO・健康の社会的決定要因局長)
-Professor Elizabeth Gershoff(テキサス大学)
-Jorge Cuartas(ハーバード大学)
-Professor Joan Durrant(マニトバ大学)
-Dr Sonia Vohito(End Violence 法政策専門家)
-Dr Howard Taylor(End Violence Partnership 執行理事)

 ウェビナーの録画映像はこちらから閲覧できます。各登壇者によるプレゼンテーションのスライドも、前掲ページにPDFで掲載されています。SDGs(持続可能な開発目標)との関係も視野に入れつつ、体罰の有害性および体罰をなくしていくことの必要性などについて、公衆衛生の観点から議論されています。

 あわせて、この間のさまざまな研究の結果を概観できるリサーチブリーフも、こちらのページで発表されています。(a) 7ページのリサーチブリーフと (b) 1ページのサマリーの2点が掲載されていることになっていますが、後者はダウンロードボタンのリンク先が間違っていますので、こちら(PDF)からご参照ください。

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 一言でまとめてしまえば、さまざまな研究の結果、体罰には百害あって一利なし(corporal punishment carries multiple risks of harm and has no benefits)ということがわかったというのが結論です。今年1月に発表された以下の研究も参照(Facebookへの投稿を再録)。

★ The Guardian: Smacking children may have lasting impact, research suggests
https://www.theguardian.com/society/2021/jan/13/smacking-children-may-have-lasting-impact-research-suggests

 体罰が子どもに及ぼす影響についての新たな研究結果が英国で発表されました。英国で2000~01年に生まれた子ども9千人弱を対象とする縦断調査です。Child Abuse & Neglect というジャーナルに掲載予定の論文で、2021年1月13日にオンラインで公開されました。

 研究によると、体罰や厳しい子育て(harsh parenting)は、とくに▼問題の外在化(他の子どもとの喧嘩、嘘・ごまかし、過活動など)や▼向社会的行動の低下につながることが多いという結果が出ています。研究に携わったユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのレベッカ・レイシー(Rebecca Lacey)博士は、この結果は因果関係を示すものではないと断りつつ、体罰等が過少報告されやすいことを考えれば実際の相関関係は研究が示すものよりも強い可能性が高いとし、スコットランドやウェールズと同様にイングランドでも体罰を全面禁止することが望ましいと、ガーディアン紙の記事でコメントしています。

 論文は以下から参照できます。
- Leonardo Bevilacqua, Yvonne Kelly, Anja Heilmann, Naomi Priest, Rebecca E.Laceya (2021). "Adverse childhood experiences and trajectories of internalizing, externalizing, and prosocial behaviors from childhood to adolescence", Child Abuse & Neglect (in press)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0145213420305457

 このような研究は子どもすこやかサポートネットのサイトでもいろいろと紹介されていますので、ご活用ください。あわせて、同団体がさいたま市の保育者を対象として今年5~6月に実施した「体罰および子どもの権利に関するアンケート調査」の報告も参照。

 なお、体罰全面禁止国のリストおよび関連条文の内容は、筆者のサイトの〈各国の体罰等全面禁止法(年代順)〉を参照。

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平野裕二
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