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「子どもの権利と代替的養護」に関する国連・子どもの権利委員会の一般的討議に向けて提出された世界の子ども・若者の声

 オンラインツールも活用しながらジュネーブ(スイス)で第88会期を開催中の国連・子どもの権利委員会は、9月16日~17日にかけて「子どもの権利と代替的養護」に関する一般的討議を開催しました(一般的討議の趣旨などについては〈子どもの権利と代替的養護(社会的養護)をめぐる国連の動向〉を参照)。

 今回の一般的討議のプログラムは以前の投稿でお知らせしたとおりです。開会時・閉会時に開催された全体会については、それぞれプレスリリースとアーカイブ動画が公開されています。

(1)Committee on the Rights of the Child holds day of general discussion on alternative careアーカイブ動画
(2)Committee on the Rights of the Child concludes day of general discussion on alternative careアーカイブ動画

 議論の概要についてはあらためて紹介する機会を持ちたいと思いますが、今回の討議にできるかぎり世界の子ども・若者の声を反映させるため、委員会は、18か国・25人のメンバーからなる子どもアドバイザリーチーム(CAT)と若者アドバイザリーチーム(YAT)を設置しました。そのうち13か国・10人のメンバーが「調査グループ」を結成し、世界の子ども・若者の意識調査を行なってその結果を委員会に提出しています(報告書PDF)。

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 報告書の子ども向けサマリー(PDF)も作成されています。この調査結果は、世界中の子ども・若者(5~25歳)1,188人の声を反映したものです。

 今回の調査で浮かび上がってきたさまざまな問題のうち、調査グループがとくに重要だと考えたのは、▽子ども・若者の意見を聞くこと、▽防止(代替的養護は最後の手段であり、家族がいっしょにいられるようにするためのあらゆる選択肢がまずは尽くされなければならない)、▽COVID-19の継続的影響、▽代替的養護からの離脱の4つでした。また、子ども・若者からの回答では「愛」という言葉がのべ688回挙げられていたとのことで、愛されていると実感できることの重要性も浮き彫りになっています。

 報告書では、これらの子ども・若者の声を踏まえた主要な知見と結論が提示されています(pp.40-41)。今回の討議を踏まえて委員会がとりまとめる予定の勧告(発表はおそらく来年になると思われます)にも反映される可能性が高いので、訳出しておきます(太字は平野による)。

● 社会的・経済的困窮を経験している家族に対し、家庭内での困難な人間関係につながる可能性があるプレッシャーやストレスを緩和するための金銭的支援システムと物質的資源を提供する。
● 子ども・若者とともにインクルーシブな親教育・訓練・支援を立案・提供することにより、子どものケアを改善し、子どもの権利を尊重し、愛情あふれる家族的価値を育み、子ども・若者とポジティブにコミュニケーションする方法を親が理解できるようにする。
● 親がカウンセリング、メンタルヘルス支援およびレスパイトサービスにアクセスできること、また意識啓発のための努力および助けやガイダンスを受けることにともなうスティグマを低減させるための努力が行なわれることを確保する。
● 代替的養護が子どもまたは若者の最善の利益にのっとったものである場合、きょうだいが一緒にいられるようにすることおよび子ども・若者が自己の文化から切り離されないようにすることを優先するとともに、そのような移行の際に意味のある人間関係を維持することおよび言語・文化・宗教とのつながりを保つことに関して子ども・若者を支援する。
● 日常生活において、また子ども・若者の養護についての決定に関して、意味のある形で子ども・若者の意見を聴きかつその参加を得る方法についての一貫した訓練・教育を大人に対して提供する。子ども・若者が自分は包摂されている、声を聴かれている、大事にされていると感じられるうえで何が役立つかを直接聴けるよう、このような訓練には子ども・若者の参加を得るべきである。
● 代替的養護下にある子ども・若者のケースマネジメントには、すべてのケア現場の定期的モニタリングと、子ども・若者および関係する大人のフォローアップが含まれるべきである。問題を解決するための、また必要な場合に別の養護状況に移行するための、明確な手続が設けられているべきである。
● 代替的養護下にある子ども・若者が、また必要なときは家族構成員も、カウンセリングおよびメンタルヘルス支援サービスにアクセスできるようにする。移行期をくぐり抜けようとしている子ども・若者、LGBTQ2I〔レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア、トゥースピリット、インターセックス〕を自認している子ども・若者および障害のある子ども・若者に対して、特段の注意が払われなければならない。このようなサービスは、根本的原因に対処しかつ個別化された防止・対応計画を支えるための、子どもの権利を基盤とする社会-生態的かつホリスティックなアプローチに裏打ちされたものであるべきである。
● 代替的養護を離れる人々への金銭的・情緒的・実際的支援が義務づけられるべきである。
● 代替的養護下にある子ども・若者が、安全でインクルーシブな遊び空間、屋外環境および友人と時間を過ごす機会にアクセスできるようにする。その際、COVID-19パンデミックがそのような経験に及ぼし続けている有害な影響に留意する。
● スタッフの頻繁な交代が子ども・若者の関係発達に及ぼす有害な影響を低減させるとともに、代替的養護の提供者の健康とウェルビーイングを確保し、精神的な健康とウェルビーイングに強く焦点を当てた一貫した支援および監督を提供する。
● 子ども・若者に対し、養護を受けている間およびそれ以降に、自分の個人データ・情報にアクセスするための明確な方法を提供する。
● 意味のある参加を妨げる多くの障壁を認識したうえで、子ども・若者が、意見を言うために必要な情緒的・実際的支援を得られるようにする。これには、コミュニケーションツールや翻訳・通訳の支援が含まれる場合もある。
● 子ども・若者、とくにすでに存在する不平等や権利侵害に直面している子ども・若者は、COVID-19パンデミックの影響を相当に受けてきた。子ども・若者のCOVID-19パンデミック経験に積極的に耳を傾けるように努めることにより、ウイルスの統制とウイルスからの復興のための全国的・国際的法律、政策および措置において子どもの権利が中核に位置づけられるようにする。
● 養育者、実親、サービス提供者(例:教員、メンタルヘルスワーカー)および代替的養護制度下で働く人々が、良質な養護およびその一貫性に関するガイドラインにのっとって暴力・虐待を防止しかつこれらに対応するための、定期的な教育・意識啓発研修セッションに参加するようにする。
● 子ども・若者が、その安全・保護が危険にさらされている状況下で助けや支援を求めることのできる、安全でプライベートな空間にアクセスできるようにする。
● COVID-19パンデミックへの対応および同パンデミックからの復興において代替的養護下にある子ども・若者を保護することに、具体的に注意が向けられなければならない。
● 代替的養護下にある子ども・若者へのスティグマと差別的な文化規範に積極的に異議を申し立て、これらの子ども・若者の人権を擁護し、すべての子ども・若者を愛し、大切にし、尊重する世界的運動を育んでいく。
● 子ども・若者および大人には、子どもの権利に関する理解を向上させ、権利が侵害されたときに権利を擁護して適切な行動を追求できるように、インクルーシブで子どもの権利を基盤とする教育・訓練が必要である。
● 代替的養護下にある子ども・若者が自分の文化や個人的アイデンティティ/個人史を知り、自分の言語、宗教的実践および文化的儀式にアクセスできるようにするため、これらの子ども・若者のアイデンティティを祝福・維持することの重要性に関する意識啓発と教育を行なう。

 委員会がこれまでに行なってきた一般的討議のテーマと勧告については、私のサイトの関連ページ(とくに、2005年に開催され、子どもの代替的養護に関する国連指針(PDF/2009年)作成のきっかけとなった「親のケアを受けていない子ども」に関する一般的討議の勧告)を参照。

 また、リービングケアに関して、〈「ケアリーバーのニーズへの対応に関する宣言」(2020年6月)〉の概要を紹介した投稿なども参照。

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平野裕二
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