国連・自由権規約委員会、気候変動の悪影響から先住民族を保護するための十分な措置をとらなかったとしてオーストラリアの規約違反を認定
国連・自由権規約委員会は、気候変動の悪影響から先住民族(トレス海峡諸島民)を保護するための措置が不十分であるとして、オーストラリアの規約違反を認定しました(7月21日「見解」採択/9月22日公表)。
1)UN News - Australia: Groundbreaking decision creates pathway for climate justice on Torres Strait Islands
https://news.un.org/en/story/2022/09/1127761
2)OHCHR - Australia violated Torres Strait Islanders' rights to enjoy culture and family life, UN Committee finds
https://www.ohchr.org/en/press-releases/2022/09/australia-violated-torres-strait-islanders-rights-enjoy-culture-and-family
自由権規約(市民的および政治的権利に関する国際規約)の個人通報制度に基づいて申立てを行なったのは、オーストラリアとパプアニューギニアの間に位置するトレス海峡諸島で暮らす8人の先住民族とその子どもたち6人です(いずれもオーストラリア国籍)。リリースによると、申立人らは大要次のような主張を展開しました。
委員会は、これらの主張を検討したうえで、トレス海峡諸島民が先祖伝来の土地と緊密な精神的(spiritual)関係を有しており、その文化的一体性(integrity)は周囲の生態系の健全さに依存していることも考慮し、オーストラリアが、先住民族であるトレス海峡諸島民を気候変動の悪影響から保護するために時宜を得た十分な措置をとらなかったと認定しました。このことは、委員会の見解によれば、私生活、家族および住居への恣意的干渉を受けない権利(規約17条)および自己の文化を享受する権利(同27条)の侵害に該当するものです。
委員会はまた、トレス海峡諸島民の生命に対するリスクを回避するためには(現在4つの島で進められている護岸堤防の建設に加えて)さらなる時宜を得た適切な措置が必要であり、そうしなければ規約(6条)で保障された生命権の侵害のおそれも生ずると指摘しています(なお「見解」には5件の個別意見が付されており、17条と27条だけではなく6条の違反も認める意見が複数の委員から表明されています)。
そのうえで、委員会はオーストラリアに対し、▽申立人らの被害を補償すること、▽トレス海峡諸島民コミュニティとニーズ評価のための意味のある協議を行なうこと、▽これらのコミュニティがそれぞれの島で安全に存続できるようにするための措置をとることなどを勧告しました。
自由権規約委員会のエレン・ティグルージャ(Hélène Tigroudja)委員は、今回の「見解」を踏まえ、
「自国の管轄下にある個人を気候変動の悪影響から保護しない国は、国際法に基づく彼らの人権を侵害することになる可能性があります」
と警告しています。人権条約機関によるこのような判断は、今後も徐々に蓄積されていることが予想されます。
なお、自由権規約委員会はかつて、気候変動を理由とする庇護申請を認めないことが状況によっては規約違反となる可能性もあることを示唆していました(申立て自体は棄却)。Facebookに投稿した記事(2020年2月1日付)を採録しておきます。
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