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性的同意年齢を12歳から16歳に引き上げることなどを内容とする法律がフィリピンで成立
フィリピンで、性的同意年齢を12歳から16歳に引き上げることなどを内容とする共和国法第11648号が成立しました(3月4日)。
★ Philippine News Agency (PNA): Duterte signs bill raising age of sexual consent to 16
https://www.pna.gov.ph/articles/1169147
この件については〈フィリピン下院の委員会が性的同意年齢の引き上げ(12歳→16歳)法案を承認〉(2020年9月9日付)で取り上げ、その時点での法案の内容を簡単に紹介しておきました。その記事に追記しておいたとおり、その後、議会の下院・上院それぞれで提出・承認された法案のすりあわせ作業が両院委員会で進められ、その成果である両院委員会報告書が下院(12月14日)・上院(12月15日)双方によって承認されたので、あとは大統領による署名を待つのみになっていたものです。
3月4日にドゥテルテ大統領が法案に署名したことにより、法律として成立するに至りました。法律の正式名称は、
「強制性交ならびに性的搾取および虐待からの保護を強化し、制定法上の強制性交の遂行を認定するための年齢を引き上げ、この目的のため、改正された法律第3815号(改正刑法)、共和国法第8353号(1997年強制性交処罰法)および改正された共和国法第7610号(虐待、搾取および差別からの子どもの特別な保護に関する法律)を改正する法律」
です。官報に告示された法律の条文(PDF)はこちらから参照できます。
以下、前掲PNA(フィリピンの政府広報機関)のリリースを参照しつつ、法律のポイントを紹介します(なお、リリースでは2か所で共和国法「116481」号と表記されていますが、誤りです。確かに官報では最後のカッコが「1」と紛らわしいですが……)。
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1.性的同意年齢を12歳から16歳に引き上げ/被害者の性別要件の廃止
1997年強制性交処罰法(1997 Anti-Rape Law)〔PDF〕を改正することにより、16歳(従前は12歳)未満の子どもとの性交は、暴力・脅迫等による強制の有無にかかわらず、制定法上の強制性交(statutory rape)として処罰対象とされることになりました。これが今回の法改正の最大の眼目です。
あわせて、従来は強制性交の被害者は「女性」(woman)であることが要件とされていましたが、今回の改正によりこれが「他の者」(another person)に変更され、男女の別なく被害者として扱われることになったのも重要な修正点です。
なお、2020年8月に下院の委員会で承認された法案では、強制性交の定義を変更し、男性器を他人の胸の間にはさむ行為または他人の胸にこすりつける行為なども含めることが提案されていましたが、今回は定義の変更は行なわれなかったようです(膣、肛門または口に男性器・指・異物を挿入する行為は、相手の性別にかかわらず、性的暴行(sexual assault)として処罰されます)。法改正に尽力した下院議員のひとりも、今回の法律の成立を「重要な進展」と歓迎しつつ、下院の法案に含まれていたいくつかの重要な規定――▽強制性交の定義の拡大、▽強制性交の被害者の同意不存在の推定、▽被害者と婚姻した場合には刑事責任を免除する規定の廃止など――が盛りこまれなかったことは残念だとコメントしています。
また、改正刑法(共和国法第3815号)第336条では同意のないわいせつ行為(acts of lasciviousness / lascivious conduct)についても強制性交についての規定を準用するとされていることから、このような行為についても同意年齢が16歳に引き上げられたと解してよいと思われます。
2.いわゆる「恋人条項」または「年齢近接を理由とする適用除外」条項の導入
他方、同意に基づく若者同士の性交等への不当な干渉を避けるため、いわゆる「恋人条項」(sweetheart clause)ないし「年齢近接を理由とする適用除外」(close-in-age exemption)条項も導入されています。2020年8月に下院の委員会で承認された法案では、16歳未満の子どもとの性的行為(同意に基づく、虐待および搾取をともなわないもの)は、両当事者が14歳以上であり、年齢差が4歳を超えない場合には制定法上の強制性交とはされず、▽14歳に満たない子どもが関与する性的活動の場合、その年齢差は3歳以内でなければならないと規定されていました。
今回成立した法律では、相手方の子どもが13歳以上であり、年齢差が3歳未満である場合には処罰対象としないと規定されています。改正された条文(1997年強制性交処罰法)第266-A条)の文言は次のとおりです(太字は平野による)。
次の場合には強制性交が成立する。
1)いずれかの者が、次のいずれかの状況下で他の者と性交したとき。
……
d)前述した事情〔注/暴行・脅迫など〕のいずれも存在しない場合であっても、被害当事者が16歳未満でありまたは認知上の障害を有していた(demented)こと。ただし、当事者間の年齢差が3歳を超えず、かつ、当該性的行為が、同意に基づく、濫用および悪用をともなわないものであったことが証明されるときは、16歳未満の他の者と性交した者の刑事責任は問われない。ただし、被害者が13歳未満であるときは、この例外は適用されない。
「濫用および悪用をともなわない」という用語についてはそれぞれ次のように定義されています。
-濫用をともなわない(non-abusive):「被害者である子どもとの性的活動の際、故意であるか懈怠によるかにかかわらず、不当な影響力の行使、威迫、欺罔、強要、脅迫、身体的、性的、心理的もしくは精神的傷害または不当な取扱いが行なわれないこと」(the absence of undue influence, intimidation, fraudulent machinations, coercion, threat, physical, sexual, psychological, or mental injury or maltreatment, either with intention or through neglect, during the sexual activities with child victim)
-悪用をともなわない(non-exploitative):「性的活動の際、子どもの脆弱な立場、力関係の差または信頼に不当に乗じまたは乗じようとする行為が行なわれないこと」(there is no actual or attempted act or acts of unfairly taking advantage of the child’s position of vulnerability, differential power, or trust during sexual activities)
3.研修・教育
前掲noteの記事の追記で「新たに性教育に関する規定も盛りこまれたと報じられています」と書いておきましたが、具体的規定は次のとおりです。
子どもの教育、訓練およびケアに従事する官民の機関は、継続的なスタッフ職能開発(staff development)に、強制性交その他の性犯罪の発見、これへの対応およびその通報に関するスタッフの義務および責任の範囲についての計画および学習機会を含めるものとする。
教育省は、基礎教育カリキュラムに、本法に関連する子どもの権利および保護についての年齢にふさわしい科目を含め、かつ教えるものとする。
*************
他にもいくつか現行法の規定が改正されていますが、煩雑になるのでここでは触れません。最後に、フィリピン子どもの権利ネットワーク(Child Rights Network (CRN) Philippines)がFacebookで発表した歓迎声明を紹介しておきます。今回の法改正のもっとも重要な点として、(1)性的同意年齢の引き上げ(12歳→16歳)、(2)強制性交被害者の保護の平等化(男女を問わない保護)、(3)年齢近接を理由とする適用除外条項の採用の3点が挙げられています。
PRESS RELEASE 'A new beacon of hope': Child rights advocates laud passage of 'End Child Rape' Law March 7, 2022 – For...
Posted by Child Rights Network (CRN) Philippines on Monday, March 7, 2022
noteの記事でも触れておいたとおり、すでに韓国では2020年に性的同意年齢が13歳から16歳に引き上げられており、フィリピンにおける今回の法改正により、日本における13歳という年齢設定の低さがますます際立つことになります。これらの国の動向を参考にしつつ、速やかに議論を進めていく必要があると考えます。
【追記】(3月9日)
フィリピン人権委員会の歓迎声明も紹介しておきます。
[READ] Statement of CHR Spokesperson, Atty. Jacqueline Ann de Guia, lauding the passage of law that increases the age of...
Posted by Commission on Human Rights of the Philippines on Tuesday, March 8, 2022
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