台湾国家人権委員会、台湾における子どもの権利の実施状況に関する意見書を発表
台湾は2014年に子どもの権利条約実施法を制定し、同法第7条に基づいて子どもの権利条約の実施状況に関する独自審査の制度を設けています。第1回独自審査は、2016年11月に提出された第1次国家報告書を踏まえ、子どもの権利に関する国際的な専門家を招いて2017年に実施されました(独立審査委員会による総括所見の日本語訳参照)。
実施法に基づく国家報告書は、第2次報告書以降は5年ごとに提出することになっています。第2次国家報告書は2021年11月19日に発表され、中文版が公開されています(英語版も近いうちに作成される見込み;独立審査の日程はいまのところ不詳)。
この第2次国家報告書について、2020年8月1日に正式に発足した台湾国家人権委員会(Facebookへの以前の投稿を参照)が4月1日に独立評価意見書(獨立評估意見)を発表しました(4月1日;概要版PDFと全文PDFはプレスリリースの下部からダウンロード可能)。
意見書の作成は、国家人権委員会のメンバーである葉 大華委員、田 秋堇委員および范 巽綠委員の3人を中心に進められたものです。そこでは、国家人権委員会がとくに重要と考えた24の問題が取り上げられ、分野別に国家人権委員会としての提言が行なわれています。
取り上げられている問題は次のとおりです。国連・子どもの権利委員会が定めている定期報告書ガイドラインに基本的に沿った構成になっていますが、最初の3章で、▽COVID-19(新型コロナウイルス感染症)パンデミックの影響、▽デジタル環境に関わる子どもの権利、▽子どもの代替的養護の問題についてとくに取り上げています。
【A.COVID-19パンデミック下における子どもの権利】
(1)教育を受ける権利
(2)健康権およびプライバシーの権利
(3)情報アクセス・意見表明権
【B.子どものデジタル権】
(4)デジタル環境に関する立法・政策およびデータの収集・公開
(5)デジタル環境下における子どもへの暴力と救済
【C.子どもの代替的養護】
(6)家庭外に措置された子どもの権利侵害
【D.一般的実施措置】
(7)締約国の責任
【E.一般原則】
(8)差別の禁止の原則
(9)子どもの最善の利益
(10)生命・生存・発達の権利
(12)子どもの情報アクセス・意見表明権
【F.市民的権利および自由】
(12)プライバシーの権利
(13)名前と国籍
(14)集会・結社の自由
【G.子どもに対する暴力】
(15)子どもの虐待・ネグレクト
(16)体罰、拷問および非人道的取扱いを受けない権利
(17)子どもに対する性暴力とセクシュアルハラスメント
【H.心身障害/基礎保健および福祉】
(18)心身障害のある子どもの教育
(19)健康に対する権利
【I.教育、文化および余暇活動】
(20)教育
(21)休息、余暇および文化に対する権利
【J.特別な保護措置】
(22)緊急状況下の子ども
(23)経済的搾取を受けている子ども
(24)少年司法制度
たとえば教育の問題については、記者発表の場で范 巽綠委員が、
「子どもの権利条約が国内法化された後には、学校制度は、それを内在的価値観へと深化させ、学校における日々の学びと生活で実行に移していくために、大規模な検討を行なわなければならない。独立評価意見書で認定したのは、生徒の在校時間が長すぎ、また授業が完全に正常化されていないために、余暇および多元的発達に対する生徒の権利に影響が生じているということである」
という趣旨の指摘を行なっています。
また、独立評価意見書では子どもに対するあらゆる形態の暴力(家庭における体罰を含む)の解消も促されており、英語の報道ではとくにこの点に注目が集まっているようです。
1)RTI - Human Rights Commission: Taiwan should ban violent discipline of children
https://en.rti.org.tw/news/view/id/2007265
2)Focus Taiwan - Human rights body calls for law to ban corporal punishment at home
https://focustaiwan.tw/society/202204020014
3)Taipei Times - Bullying, rural education require attention: report
https://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2022/04/03/2003775934
Focus Taiwan の記事から抄訳しておきます。
なお、台湾国家人権委員会のサイトには子ども向けの特設ページも開設されており、権利侵害を受けた場合の申立て方法なども書かれています。
体罰の全面禁止については台湾が日本や韓国の例にならうように促されましたが、日本も、韓国や台湾の例にならい、国家人権委員会のような国内人権機関(あるいは少なくとも子どもオンブズパーソン/コミッショナーのような独立機関)の設置を速やかに検討してもらいたいものです。