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韓国政府、親による体罰禁止を目的とした民法改正案を国会に提出

 韓国で親・保護者の体罰を禁止するための法改正が進められていることについて、Facebookの投稿(2020年6月10日付)とそのコメント欄でお知らせしてきました。

 次の記事にあるように、8月には法務部(法務省)による立法予告(法改正案を公告して意見を募集する手続)が行なわれています。

1)ハンギョレ:「子どもへの懲戒権」なくす民法改正を立法予告(2020年8月5日配信)
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/37387.html

 今回の改正の眼目は、「親権者は子を保護または教養するために必要な懲戒を行うことができ、裁判所の許可を得て、感化または矯正機関に委託することができる」という民法第915条の規定を削除するところにあります。

 法務部が作成した法改正案は、必要な意見募集期間を経て10月13日に閣議決定され、16日までに国会に提出されました。改正案では、民法第915条の懲戒権規定を削除するほか、感化機関・矯正機関への委託に関わる民法・家事訴訟法の関連規定も削除することが提案されています。

2)聯合ニュース:親の子どもへの体罰禁止 懲戒権削除の民法改正案を閣議決定=韓国(10月13日配信)
https://jp.yna.co.kr/view/AJP20201013002200882

3)법률저널: 부모 자녀체벌금지...민법 개정안 국회의결 앞둬(父母による子どもの親子体罰禁止……民法改正案、国会で議決へ;10月14日配信)
http://www.lec.co.kr/news/articleView.html?idxno=722543

4) 뉴스핌: '자녀체벌 금지' 민법 개정안 국회로…아동학대 감소 영향 줄까(「子どもの体罰禁止」民法改正案、国会へ……児童虐待を減らしたい;10月16日配信)
https://www.newspim.com/news/view/20201016000958

5)(追加)News1 (Wow!Korea):‘子供への体罰禁止’ 民法改正案通過…チュ・ミエ法相「暴力は教育ではなく犯罪」=韓国
https://www.wowkorea.jp/news/korea/2020/1013/10273539.html

 法務部のプレスリリース(韓国語)では、今回の改正が可決・施行されることにより、「子どもの権利が中心になる子育て環境と児童虐待に関する社会的認識の改善に貢献できるだろう」と述べられています。4)の記事では、保健福祉部の関係者も、「今回の改正案は、(体罰と)虐待の区別をあいまいにしている法的根拠をなくそうとするものなので、児童虐待の減少に実質的影響を与えるだろう」とコメントしています。改正に反対する意見もあるようですが、可決される可能性は高いと思われます。

日本の状況

 日本でも、「親権を行う者は、必要な範囲内で自らその子を懲戒し、又は家庭裁判所の許可を得て、これを懲戒場に入れることができる」と規定していた民法第822条が2011年改正で「親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる」と改められ、現在、法制審議会の民法(親子法制)部会でさらなる見直しの議論が進められています。2020年9月8日現在、次の3案が俎上に載せられているようです。

甲案 民法第822条を削除する。
乙案 民法第822条を次のように改める。
親権を行う者は,その子に対し,第820条の規定による監護及び教育のために必要な指示及び指導をすることができる(注1)。ただし,体罰を加えることはできない(注2)。
丙案 民法第822条を次のように改める。
親権を行う者は,第820条の規定による監護及び教育を行うに際し,体罰を加えてはならない。
(注1)「指示及び指導」に代えて,「指示及び助言」とすることも考えられる。
(注2)上記(注1)において「指示及び助言」を採用した場合には,体罰を加えてはならない旨の文言を用いないことも考えられる。

 あわせて、親権者の一般的な権利義務を定めた民法第820条を次のように改めることも検討課題とされています。

① 親権を行う者は,子の利益のために監護及び教育をする権利を有し,義務を負う[義務を負い,権利を有する]。
② 親権を行う者は,①の監護及び教育に際して,子の人格を尊重しなければならない。

 民法第820条の改正も視野に入れるのであれば、▼「親権」という用語を「親(としての)責任」に変更する、▼「子の人格」だけではなく「権利」「最善の利益」「意見の尊重」にも言及することなどを検討してよいと思いますが、引き続き議論を見守りたいと思います。

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平野裕二
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