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国連・子どもの権利委員会の第96会期、始まる

 5月6日からジュネーブ(スイス)で国連・子どもの権利委員会の第96会期が始まっています。Facebookでは5月4日付の投稿でお知らせしましたが、今回の審査対象国は次の9か国です(カッコ内の数字は報告書の回次)。

  • 6~7日:ナミビア(4-6)

  • 7~8日:グアテマラ(7)

  • 8~9日:ジョージア(5-6)

  • 9~10日:マリ(3-5)

  • 10日 :パナマ(子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書)

  • 13~14日:エジプト(5-6)

  • 14~15日:ブータン(6-7)

  • 15~16日:エストニア(5-7)

  • 16~17日:パラグアイ(4-6)

 審査の様子は UN Web TV で中継され、アーカイブの視聴も可能です。また、各国の報告書、文書回答、NGOレポート等の関連資料は第96会期のページから参照することができます。

 なお、第96会期後に予定されていた会期前作業部会(来年1月の第98会期に向けたもの)は、国連の財政事情により中止となりました。ただし、第97会期(8月~9月)で審査が行なわれる予定の国々のうちアルゼンチンとエクアドルについては、第96会期中にNGO等の関係者と非公開の会合を持つ模様です。この会期前作業部会の中止についてもFacebookで取り上げたので、採録しておきます(太字およびリンクの処理は採録にあたって施したもの;以下同)。

【国連・子どもの権利委員会、5月に予定していた会期前作業部会を財政上の理由により中止】

 国連・子どもの権利委員会は、国連の財政難のため5月27日~31日に予定していた会期前作業部会の中止を余儀なくされたと発表しました(5月6日~24日に予定されている第96会期については開催できることが決まったとのことです)。

 これに対し、元委員長・副委員長を含む委員会の歴代委員有志が緊急声明を発表し、国連加盟国に対応を促しています。

 声明は、約束した国連への拠出金をまだ支払っていない国連加盟国が存在する(2023年末時点で予定された拠出金の3割が未払いの状態)ために国連で最悪の「流動性危機」が発生していることを憂慮し、
「すべての国、すべての社会、すべての指導者にとって、女の子と男の子が優先されなければなりません。加盟国には、すべての子どもに対するコミットメントを新たにし、この前例のない時代が必要としている切迫感をもって行動する、国際法および国際倫理に基づく義務があります」
 と強調しています。

 国連・子どもの権利委員会も述べていますが、会期前作業部会は委員会が各国の子どもたちや市民社会組織と直接話し合う貴重な機会でもあります。拠出金の未払いにより委員会の活動が滞ることのないよう、加盟国にはしっかり責任を果たしてもらいたいと思います。

 なお、Facebookでは書き忘れましたが、5月23日にはニューヨークの国連本部で第20回締約国会合が開かれ、来年(2025年)2月末で任期を迎える9人の委員の後任を選ぶための選挙が実施されます。立候補して再選されれば引き続き委員を務めることもできますが、日本政府の推薦を受けて選出されて委員を2期務めてきた大谷美紀子さん(日本)は立候補していませんので、来年2月末で任期終了ということになります。


開会会合(5月6日)

 5月6日の開会会合の様子もFacebookで取り上げたので、採録しておきます。

★ Committee on the Rights of the Child Opens Ninety-Sixth Session(子どもの権利委員会の第96会期が開会)
https://www.ohchr.org/en/news/2024/05/committee-rights-child-opens-ninety-sixth-session

- Ouverture de la 96 ème session du Comité des droits de l'enfant : l'attention est attirée sur les conséquences de la crise de liquidité de l'ONU alors même que la situation des enfants pris dans les conflits est jugée accablante
(子どもの権利委員会の第96会期が開会:紛争にとらわれた子どもたちの状況が過酷と考えられるにもかかわらず生じている国連の流動性危機に注意が喚起される)
https://www.ungeneva.org/fr/news-media/meeting-summary/2024/05/committee-rights-child-opens-ninety-sixth-session

 5月6日、国連・子どもの権利委員会の第96会期がジュネーブで始まりました(~5月24日)。開会会合の様子は、フランス語版プレスリリースの見出しによくまとまっています。第96会期後に予定されていた会期前作業部会(来年1月の第98会期に向けたもの)が国連の財政事情により中止となったことは以前の投稿でお知らせしたとおりですが、現段階では、第97会期(2024年8月26日~9月13日)を予定どおり開催できるかどうかも確定していないとのことです。

 また、国連人権理事会第55会期で採択され、「子どもの権利の主流化」についても取り上げた「子どもの権利」に関する決議をめぐって各国間で争いがあったことも、ユニセフ代表などから報告されました。同決議について紹介したnoteの記事に追記しておいたので、ご参照ください。

 開会会合のアーカイブ動画は↓から視聴できます。(後略)
https://webtv.un.org/en/asset/k1t/k1tr1az2xk

 続いて、第1週の報告書審査に関するプレスリリース(英語版・フランス語版)の見出しを日本語訳とともに掲載しておきます。

ナミビア

- Experts of the Committee on the Rights of the Child Commends Namibia's Children's Parliament, Ask about Measures to Address "Baby Dumping" and Online Sexual Abuse of Children
(子どもの権利委員会の専門家、ナミビアの子ども議会を称賛するとともに、「赤ちゃん遺棄」やオンラインの子どもの性的虐待に対処するための措置について質問)
https://www.ohchr.org/en/news/2024/05/experts-committee-rights-child-commends-namibias-childrens-parliament-ask-about

- Examen de la Namibie au Comité des droits de l'enfant : en dépit des progrès réalisés par le pays, des préoccupations subsistent s'agissant notamment de la définition de l'enfant, des violences faites aux enfants et du secteur de l'éducation
(子どもの権利委員会におけるナミビアの審査:同国が達成した進展にもかかわらず、とくに子どもの定義、子どもに対する暴力および教育部門に関して依然として懸念が残る)
https://www.ungeneva.org/fr/news-media/meeting-summary/2024/05/experts-committee-rights-child-commends-namibias-childrens

 ナミビアの子ども議会は、国民議会が教育省およびジェンダー平等・子ども福祉省と連携して2007年から開催しているものです。全14州から選ばれた子どもの代表が参加し、子どもの権利やウェルビーイングに関する問題について話し合います。毎年開かれているわけではないようですが、そこで出された意見は関係省庁に伝達され、対応が検討されるとのことです。政府代表の説明によれば、議会の子ども常設タスクフォースなどのさまざまな調整委員会や州レベルのプラットフォームにも子どもたちが参加しています。

 なお、ナミビアに関する第1回(1994年)第2回(2012年)総括所見は日本語訳済みですので、関心のある方はご参照ください。

グアテマラ

- In Dialogue with Guatemala, Experts of the Committee on the Rights of the Child Commend the New Government's Achievements, Raise Issues Concerning the 2017 Guatemala City Youth Shelter Fire and Recruitment of Children by Gangs
(子どもの権利委員会の専門家、グアテマラとの対話で新政権の達成を称賛するとともに、グアテマラ市のユースシェルターで2017年に起きた火事や、ギャングによる子どもの加入勧誘に関わる問題を提起)
https://www.ohchr.org/en/news/2024/05/examen-du-guatemala-devant-le-comite-des-droits-de-lenfant-des-preoccupations

- Examen du Guatemala devant le Comité des droits de l'enfant : des préoccupations persistent s'agissant des violences faites aux enfants, de la malnutrition et du travail des enfants, ou encore de leur recrutement dans des gangs
(子どもの権利委員会におけるグアテマラの審査:子どもに対する暴力、栄養不良、児童労働、ギャングへの子どもの加入勧誘について懸念が根強く残る)
https://www.ungeneva.org/fr/news-media/meeting-summary/2024/05/examen-du-guatemala-devant-le-comite-des-droits-de-lenfant-des

ジョージア

- Experts of the Committee on the Rights of the Child Welcome Georgia's Child Rights Code, Ask about Measures Addressing Sexual Violence against Children and Child Marriage
(子どもの権利委員会の専門家、ジョージアの子どもの権利法を歓迎するとともに、子どもに対する性暴力や児童婚に対処するための措置について質問)
https://www.ohchr.org/en/news/2024/05/experts-committee-rights-child-welcome-georgias-child-rights-code-ask-about-measures

- Examen du rapport de la Géorgie devant le Comité des droits de l'enfant : bien que des réels progrès aient accomplis par le pays, des préoccupations subsistent concernant le niveau élevé de violence envers les enfants
(子どもの権利委員会におけるジョージアの報告書審査:同国によって真の進展が達成されているものの、子どもに対する高い水準の暴力に関する懸念が依然として残る)
https://www.ungeneva.org/fr/news-media/meeting-summary/2024/05/experts-committee-rights-child-welcome-georgias-child-rights

 ジョージアの子どもの権利法については2019年9月20日付のFacebookポストで簡単に紹介しているので、採録しておきます(なお、投稿後、ジョージアは58番目の体罰全面禁止国に認定されています)。

 ジョージア(旧表記グルジア)で、子どもの権利基本法としての性格を持つ「子どもの権利に関する法律」(Code on the Rights of the Child)が可決成立しました(9月20日)。

★ Agenda.GE: Georgian parliament adopts Child Rights' Code, UNICEF calls the achievement 'groundbreaking'
https://agenda.ge/en/news/2019/2533

 ユニセフの技術的支援を得ながらジョージア議会の人権・市民的統合委員会が法案を作成し、今年2月に議会に提出していたものです。ユニセフ・ジョージアが法案提出時に行なった説明(後掲記事参照)によると、同法の概要は次のとおりです。

・あらゆる状況におけるあらゆる形態の暴力から子どもを保護する。
・子どもの権利を支え、保護するための統合的システムを創設する。
・家族支援プログラムを提供する。
・すべての子どもが権利を行使できる平等な可能性を生み出す。
・職種横断的アプローチを確立する。
・子どもの発達のためのよりよい可能性を生み出す。
・子どもを支援するすべての分野の専門職の専門性を確保する。

★ Agenda.GE: Code on the Rights of the Child drafted for higher protection of Georgian children
https://agenda.ge/en/news/2019/345

 自己に関わるすべての事柄に関する意思決定への子ども参加を促進・確保するための保障措置も拡大されているとのことです。また、具体的な条文はいまのところ(英語では)見当たりませんが、 Global Initiative to End All Corporal Punishment of Children の国別報告(2019年4月)にも
「子どもに対するすべての体罰を禁止する子どもの権利法案が現在議論されている最中である」
 とあることから、57番目の体罰全面禁止国として認められる可能性は高いと思われます(追記/先に南アフリカが57番目の体罰全面禁止国として認められました)。

 9月17日には国連・子どもの権利委員会がジョージアの報告書審査(2つの選択議定書の実施状況に関するもの)を行ないましたが、そこでも政府代表が同法に言及していました(プレスリリース参照)。
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=25019&LangID=E

 ユニセフ・ジョージアのプレスリリースも参照。

・The Draft Code on the Rights of the Child presented to the public in Georgia
https://www.unicef.org/georgia/press-releases/draft-code-rights-child-presented-public-georgia

・UNICEF welcomes the adoption of the historic Code on the Rights of the Child in Georgia
https://www.unicef.org/georgia/press-releases/unicef-welcomes-adoption-historic-code-rights-child-georgia

マリ

- Experts of the Committee on the Rights of the Child Welcome Mali's Measures to Tackle Poverty, Ask about Efforts to Promote School Safety and Prevent the Use of Children in Armed Conflict
(子どもの権利委員会の専門家、マリの貧困対策を歓迎するとともに、学校安全の促進や武力紛争における子どもの使用の防止のための努力について質問)
https://www.ohchr.org/en/news/2024/05/experts-committee-rights-child-welcome-malis-measures-tackle-poverty-ask-about-efforts

- Examen du Mali au Comité des droits de l'enfant : les questions d'éducation et de santé, de justice pour mineurs, de travail des enfants, d'enrôlement d'enfants dans des groupes armés et d'enregistrement des naissances sont au cœur du dialogue
(子どもの権利委員会におけるマリの審査:教育・保健、少年司法、児童労働、武装集団への子どもの加入勧誘および出生登録の問題が対話の中心に)
https://www.ungeneva.org/fr/news-media/meeting-summary/2024/05/examen-du-mali-au-comite-des-droits-de-lenfant-les-questions

パナマ

- Experts of the Committee on the Rights of the Child Praise Panama's Child Protection Laws, Ask about Measures to Prevent Online Grooming of Children and Protect Migrant Children in the Darien Gap
(子どもの権利委員会の専門家、パナマの子ども保護法を称賛するとともに、オンラインの子どものグルーミングの防止およびダリエン地峡の子どもの移住者の保護のための措置について質問)
https://www.ungeneva.org/en/news-media/meeting-summary/2024/05/le-comite-des-droits-de-lenfant-examine-le-rapport-presente-par

- Le Comité des droits de l'enfant examine le rapport présenté par le Panama au titre du Protocole facultatif sur la vente d'enfants, la prostitution des enfants et la pornographie mettant en scène des enfants
(子どもの権利委員会、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書に基づいてパナマが提出した報告書を検討)
https://www.ungeneva.org/fr/news-media/meeting-summary/2024/05/le-comite-des-droits-de-lenfant-examine-le-rapport-presente-par

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平野裕二
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