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ウェールズ(英国)の子どもコミッショナー、子どものニューロダイバーシティ(神経多様性)に対するアプローチを変革する必要性を強調

 4月2日(日)は「世界自閉症啓発デー」でした。

 国連広報センターのツイートにもあるように、最近は「神経多様性/ニューロダイバーシティ」の考え方も広がりつつあります。

 そのような状況のなか、ウェールズ(英国)の子どもコミッショナーが、神経発達症群のある子どもとその家族の支援のあり方に関する報告書を発表しました(3月22日)。

 シンボル入りのイージーリード版も作成されています。

『ニューロダイバーシティに対する「どの扉からも入れる」アプローチ:さまざまな経験の本』(A No Wrong Door Approach to Neurodiversity: a book of experiences)と題するこの報告書では、ニューロダイバーシティ/ニューロダイバージェンスなどの用語について次のように説明されています(p.3)。

ニューロダイバーシティ(neurodiversity)について話すときに私たちが認識しているのは、誰もが異なる考え方・感じ方をしていること、そして私たちの脳はおたがいに異なる働き方をしていることです。

ニューロダイバージェンス(neurodivergence)というのは、「典型的」と考えられているやり方とは異なる形で脳が働くことを意味します。その原因は、神経発達症群と呼んでもいいかもしれないものかもしれませんし、学習障害かもしれませんし、後天性脳損傷のような身体的違いかもしれません。

神経発達症群(neurodevelopmental conditions)は、脳の発達のあり方で説明することのできる、一群の状態です。これには多くの異なる状態が含まれますが、いくつかの例としては、自閉症スペクトラム障害、ディスレクシア(読字障害)、協調運動障害、注意欠陥・多動性障害、トゥレット症候群およびチックなどが挙げられます。

 子どもコミッショナーによれば、このような多様性を有する子ども・若者は、長期間待たなければアセスメントを受けることができず、その間はほとんどまたはまったく支援を受けられないでいます。このような子ども・若者を支援するためのやり方として子どもコミッショナーが提唱する「どの扉からも入れる」(No Wrong Door)アプローチとは、「子ども・若者が援助をどこで求めても受けることができるようにする――つまり、『ここじゃありません』(you've knocked on the 'wrong door')と言われて必要な援助が受けられないことがないようにする」ものだと説明されています。日本でいう「ワンストップ」支援に近い概念だと言えるかもしれません。

 報告書の発表ページに掲載されている「キーメッセージ」は次の3点です(太字は原文ママ)。

● ウェールズ政府は、ニューロダイバージェントな子どもに対する、診断主導(diagnosis-led)ではなく真にニーズ主導(needs-led)のアプローチを目指さなければならない。すべての子どもについて、正式な診断を受けているかどうかにかかわらず、そのニーズが満たされるべきである。
● 家族が支援を求めようとすると、こちらではない、あるいは利用可能な支援はないと言われることが多い。家族があらゆるアクセスポイントで待たなければならないというのは、子どもが適切な支援を得られないまま成長していくことを意味する。ウェールズには、ニューロダイバーシティに対する「どの扉からも入れる」アプローチが必要である
● 家族は、子ども/若者が適切なアセスメントと必要な支援を確実に得られるようにするため、諸サービス機関が協働することを望んでいる。

 なお、ウェールズ政府は2022年7月に「神経発達症群大臣諮問グループ」(Neurodevelopmental Conditions Ministerial Advisory Group)の設置を発表しています。報告書には主として同グループに宛てた勧告も掲載されており(p.24以下)、上記の3項目はいずれもそこに含まれていますが、このほか「支援的な学校環境」についても触れられていますので、その部分だけ訳しておきます。

5.支援的な学校環境
 家族からは、ニューロダイバージェントな子どもを可能なかぎりよりよい形で支援する学校環境を望む声が聞かれた。
 家族は、学校がすぐに家族を「さぼり癖の持ち主」(non-attenders)と見なしたり、より理解のある学校環境から利益を得られるであろう子どもに拙速な懲戒・停退学措置をとったりすることがあると感じていた。出席・停退学に関する指針を改訂するというウェールズ政府の計画は歓迎される。改訂の際には、ニューロダイバージェントな子ども・若者の支援に関する、学校向けの明確な指針が含まれなければならない。

 日本の生徒指導提要(2022年12月改訂版)でも、
「発達障害のある児童生徒と同様に適応上の困難さを抱えている児童生徒は決して少なくありませんので、診断の有無により対応を考えるのではなく、児童生徒が抱える困難さから対応を考えることが大切です」(p.270)
 などと指摘されており、「診断主導」ではなく「ニーズ主導」の対応の必要性が意識されていますが、ニューロダイバーシティの考え方も踏まえた学校・教育のあり方や子どもたちへの支援方法について、さらに考えていく必要があるでしょう。

 この点につき、“叱る依存”がとまらない(紀伊国屋書店・2022年)でも話題の村中直人さんにインタビューした、ハフポスト日本版〈「ニューロダイバーシティ元年」を経て2023年は方向性が決まる年。第一人者、村中直人さんに聞く〉なども参照。「ニューロダイバーシティ」と「ニューロユニバーサリティ」の対比に関する説明など、わかりやすくまとめられています。

 なお、村中さんは上記インタビューで
〈「インクルージョン」は、多数派の外側にいる少数派の人たちを、内側に入れて一緒に活動しようという文脈で使われることの多いワードです。これは、多数派の中にすでに存在している多様性を見落としてしまう危険性があると感じます〉
 と述べていますが、こうした理解は、少なくとも教育分野では一般的ではないと思います(こうした指摘はむしろ「統合」に関して行なわれてきたことです)。ユネスコ(国連教育科学文化機関)や国連・障害者権利委員会の見解を参照。


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平野裕二
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