見出し画像

スコットランド(英国)で体罰禁止法が施行される――子どもたちに暴力からの平等な保護を

 親・保護者等による子どもへの体罰を全面的に禁止する法律が、11月7日、スコットランド(英国)で施行されました。法律の内容は先日の投稿で紹介したとおりです。

 BBCの記事が日本語で公開されています。英国の状況が概観できます。

 なお、〈16歳未満の子どもへの体罰が違法となるのは、同国〔英国〕で初めて〉と書かれていますが、すでに王室属領ジャージー代官管轄区で同様の法改正が行なわれ2020年4月24日から施行されています(このことはBBCも2019年12月10日付の記事で報じていました)。英国を構成する4つの主要法域(イングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランド)のなかでは初めてです(ウェールズで2022年から施行される体罰禁止法についてはFacebookへの以前の投稿を参照)。

 スコットランドでは刑法改正(親などによる体罰を暴行罪の適用対象としない旨の規定の廃止)によって体罰禁止が行なわれたということもあり、法改正に反対する人々からは、親が犯罪者扱いされることになるというプロパガンダも行なわれてきました。この点については、スコットランド子ども・若者コミッショナーのブルース・アダムソンさんが、次のように説明しています(太字は引用者)。

 はっきりさせておきましょう――この法律は親を犯罪者するためのものではありません。子どもたちを守るためのものなのです。
(中略)
 みなさんが目にしたかもしれない主張にもかかわらず、すでに同様の法律を導入した国々の警察は、子どもを叩いた親がいたらすっ飛んでいって逮捕したりはしていません。
 ソーシャルワーク機関も裁判所も、手をあげたために起訴されたママやパパへの対応で圧倒されたりはしていません。
 実際に起こっているのは、暴力に対する態度が徐々に、しかし持続的に変わりつつあるということであり、ポジティブな子育ての支援に焦点が当てられつつあるということなのです。
(The Scottish Sun: PROUD DAY Scotland becomes first part of UK to ban smacking kids as new law starts today, 7 Nov 2020;見出し画像はこの記事のFacebook用サムネイルです)

 アダムソンさんは、このように説明したうえで、同様に刑法改正によって体罰禁止を達成したニュージーランド(2007年)の例を紹介しています。そこでは具体的な数字は挙げられていませんが、ちょうど読んだばかりのエリザベス・T・ガースホフ&シャウナ・J・リー編子どもへの体罰を根絶するために――臨床家・実務者のためのガイダンス(溝口史剛訳、明石書店・2020年〔原著2019年〕)に次のような記述がありました(文献注などは省略;太字は引用者)。

いくつかの国では体罰禁止の法制化に際し、警察への通報や児童相談所への通告が急増してしまい、これらの機関に過重な負担がかかってしまうのではないかという懸念が持たれた。ニュージーランドでは、体罰禁止の法制化に伴う影響を評価するため、法施行後5年間の、同法に基づく警察への通報件数が、モニタリングされた。この期間に行われた警察通報の大半(74%)は、損傷を伴う程度の体罰であった。「平手打ち(smacking)」の通報件数は5年間で増加したものの、起訴されたケースの割合は減少していた。5年間で平手打ち行為により起訴された件数は8件あったものの、それらのいずれもが複数回の行為を受けてのものか、損傷を伴うレベルの行為を受けた事例であった。これらの結果を受け、ニュージーランド警察は、「体罰禁止の法律が施行されたことで、過度の負担が発生したとは判断されない」と結論づけている。スウェーデンでも、法律の制定後に警察への通報は増加したものの、起訴率は一定であったとの報告がなされている。ニュージーランドでは、体罰禁止が法制化されて以降、児童相談所への通告件数は増加したが、虐待と実証された事例の件数は、2001年から2009年までに明らかな変化は確認されなかったと報告されている。これらの調査結果を総合すると、体罰禁止の法制化は子どもに対する暴力についての一般市民の認識を高め、通告する意思を高めることが出来るが、取り立てて過剰な逮捕や一時保護に巻き込まれる家庭が増えるわけではないことが示唆される。……ドイツは2000年に体罰を法的に禁止したが、その4年後に行われた調査で、家庭支援を行う機関の職員の84%が親にその法律についての説明を行っており、68%の職員が法律について話をすることで自分たちがより仕事がしやすくなったと回答した、と報告されている。
(エリザベス・T・ガースホフ&ジョーン・E・デュラント「15 体罰の法的禁止」、p.226)

 この点については国連・子どもの権利委員会も、一般的意見8号(体罰その他の残虐なまたは品位を傷つける形態の罰から保護される子どもの権利、2006年)で次のように指摘しているところです(太字は引用者)。

40.家庭におけるものも含む暴行から子どもとおとなが平等に保護されなければならないことが原則であるといっても、親による子どもの体罰が明るみに出た場合に、すべての事案で親が訴追されなければならないというわけではない。些事原則――法律は些細な事柄には関与しない――により、おとな同士の軽微な暴行が裁判所に持ち出されるのはきわめて例外的な場合のみである。同じことが、子どもに対する軽微な暴行についても当てはまることになろう。国は、通報および付託のための効果的な機構を発展させなければならない。子どもに対する暴力の通報はすべて適切に調査され、かつ相当の被害からの子どもの保護は確保されなければならないものの、懲罰的ではなく支援的かつ教育的な介入を通じ、親が暴力的または他の残虐なもしくは品位を傷つける罰を用いないようにすることが目指されるべきである
41.子どもが依存的状態に置かれており、かつ家族関係には特有の親密さがあることを踏まえれば、親を訴追するという決定、または他の方法で家族に公式に介入するという決定は、細心の注意を払って行なわれるべきである。親の訴追は、ほとんどの場合、子どもの最善の利益とはならない可能性が高い。委員会の見解では、訴追その他の公式な介入(たとえば子どもを分離することまたは加害者を分離すること)は、それが子どもを相当の被害から保護するために必要であり、かつ影響を受ける子どもの最善の利益にかなうという両方の条件が満たされると思われる場合にのみ、進められるべきである。影響を受ける子どもの意見が、その年齢および成熟度にしたがって、正当に重視されなければならない。

 スコットランドの改正法では体罰禁止に関する啓発についても定められており、先日の投稿でも紹介したように子どもたち向けの啓発資料も作成されています。今後の取り組みを通じて社会の意識がどのように変わっていくのか、要注目です。

 なお、今月(11月)は日本でも「児童虐待防止推進月間」で、厚生労働省のサイトに特設ページが設けられています。福岡市営地下鉄「天神」駅ではホームドアに体罰禁止の啓発広告が出ていたので、写真を載せておきます(あと2バージョンほどあったようです)。児童虐待防止推進月間にあたって行なう〈「体罰等によらない子育て」&「189いちはやく」啓発キャンペーン〉PDF)の一環で掲出されたものです。

画像1

画像2


いいなと思ったら応援しよう!

平野裕二
noteやホームページでの翻訳は、ほぼすべてボランティアでやっています。有用だと感じていただけたら、お気持ちで結構ですのでサポートしていただけると、嬉しく思います。