
ネット社会と「ポジティブな子育て」:欧州評議会のガイド
デジタル環境と子どもの権利に関する先日の投稿の続きです。
先日の投稿では欧州評議会「デジタル環境における子どものエンパワーメント、保護および支援に関する政策ガイダンス」(2018年11月)について紹介しましたが、欧州評議会は2020年8月、「デジタル時代の子育て:さまざまなシナリオ別のポジティブな子育て戦略」(Parenting in the Digital Age: Positive parenting strategies for different scenarios)と題するガイドも発表しています(執筆:Dr Elizabeth Milovidov, JD)。
このガイドの目的は、表題にもあるように、デジタル化が進む時代に応じた「ポジティブな子育て」(positive parenting)のあり方を提示することです。「ポジティブな子育て」については次のように説明されています(p.13)。
ポジティブな子育てとは、国連・子どもの権利条約――親のニーズと資源も考慮している条約――に掲げられた子どもの最善の利益と諸権利を尊重する親の行動をいう。ポジティブな子育ては、子どもを独立した個人として育み、エンパワーし、導き、かつ承認するものである。ポジティブな子育ては、子どもがその可能性を最大限に発達させていくことを援助するために必要な境界線を設定する。
ポジティブな子育ては、国連・子どもの権利条約の4つの一般原則として位置づけられている諸権利(差別の禁止に対する権利/子どもの最善の利益/生命・発達に対する権利/参加権)ならびに保護およびケアに対する権利を含む子どもの権利の尊重を前提として、以下のような原則に基づいて行なわれるものであるとされます(pp.13-14)。
● 愛情あるケア:愛、暖かさおよび安心・安全に対する子どものニーズに対応する。
● 体系と指針:子どもに対し、安心感、予測可能なルーティンおよび必要な境界線を提供する。
● 承認:子どもの声に耳を傾け、子ども自身を人間として尊重する。
● エンパワーメント:子どもの有能感(a sense of competence)と自己統制感(personal control)を増進させる。
● 非暴力的養育:あらゆる体罰または心理的に品位をおとしめる罰を排除する。
これをデジタル環境にも当てはめるのが「ポジティブなデジタル子育て」(positive digital parenting)という考え方です。とくに次のような要素が必要とされます(p.15)。とりわけ、筆頭に挙げられている「コミュニケーション」はポジティブなデジタル子育ての基本(cornerstone)と位置づけられています(p.17;太字は平野)。
● インターネットの利用、リスクおよび利点に関する、子どもとの開かれたコミュニケーション。
● 子どものインターネット活動に対する恒常的関心と関与。
● 子どものデジタル世界における名誉とデジタルアイデンティティの積極的保護。
● デジタル時代に訪れうる機会について子どもとともに学ぶこと。
● 子どもたちに指針を示し、インターネットがもたらしうる危険から子どもを保護すること。
以上のような原則と要素を踏まえたうえで、子どもとデジタル環境との関連で生じる問題にどのように対応していくべきかのヒントが、▼オンラインでのシェア行為とデータ保護/プライバシー、▼ソーシャルメディア、▼タブレットとスマートフォン、▼オンラインビデオゲーム、▼スクリーンタイムとの関連で提起されています。
まとめとして親に推奨されているのは以下のような対応です(p.29;太字は平野)。
● 暖かく、子どものオンライン活動について支援的な姿勢を保つ。
● 子どもとともに良質な時間を過ごし、子どもがオンラインで何をしているかについて学ぶ。
● 子どもの生活経験と行動について、また子どもがそのような行動をオンラインでどのように行なっているかについて、理解しようと努める。
● 子どもが守るよう期待されるオンラインのルールについて説明する。
● オンラインでの望ましい振舞い方や、オンライン活動(たとえばスポーツや自然)への関与をほめる。
● オンラインでの望ましくない振舞いに対しては、説明と、非暴力的かつ品位をおとしめない罰(スクリーンタイムを減らす、生じた被害の後始末をさせるなど)によって対応する。すべてのデバイスへのアクセスを禁止するといった厳しすぎる罰は、非生産的である可能性があるので避けるべきである。
このような子育てを行なっていくためには親の側にも時間的・金銭的・精神的その他の余裕が必要ですが、そのための支援も含めて、ネット社会における子育てのあり方を考えていくことが求められます。
いいなと思ったら応援しよう!
