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ウェールズ(英国)で体罰全面禁止法が施行される
ウェールズ(英国)で2020年1月28日に可決された体罰全面禁止法が、3月21日に施行されました。
法律の内容と、法律の周知のためにウェールズ政府が行なっている取り組みについては、昨年10月の記事〈ウェールズ(英国)、体罰全面禁止法の施行に向けて啓発の取り組みを強化〉をご参照ください。
ウェールズ政府が設けている特設ページ(資料編)には、上記の記事の投稿後も、子どもに関わる各種専門家向けのファクトシートをはじめ、多数の資料が追加されています。
子ども・家族局(Children and Families Division)の副局長名で発出された通知(3月10日付、PDF)でこの法律の趣旨が要領よく説明されているので、抜粋しておきます。
この法律の全般的目的は、国連・子どもの権利条約(UNCRC)に対するウェールズ政府の長年のコミットメントにのっとって体罰を禁止することにより、子どもおよびその権利を守ることです。3月21日より、ウェールズではすべてのタイプの体罰が違法になります。親または親責任を持って行為する者は今後、子どもに対する暴行および殴打の抗弁として合理的処罰の抗弁を利用することはできません。
(中略)
今回の法改正は、ウェールズの子どもたちが大人と同様に暴行から保護されるようにするものであり、ウェールズへの訪問者に対しても適用されます。この法改正は、子どもが適切な振舞いを学べるように境界を定め、支援と指導を提供することによって子どものしつけを行なう親の能力に影響を及ぼすものではありません。また、この法律は、子どもを危害から安全に保つために、または着替えや衛生・清潔の保持といった日常的活動を援助するために身体的介入を行なう親の能力に干渉するものでもありません。親・養育者は、子どもを育み、守るために多くの身体的介入を頻繁に行ないます。これは、一定の苦痛、不快感または恥辱感を引き起こすための力の使用とはまったく異なるものです。
(中略)
目指されているのは――法改正、統合的関与、そして親向けの意識啓発キャンペーンと支援の複合効果を通じて――子どもに対する体罰の使用および容認度をさらに低減させていくことです。
3月21日に公表されたブリーフィングノート(PDF)でも、法改正により何が変わり、何が変わらないかについて説明されています。
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法改正によって変わったこととして挙げられているのは次の5項目です(4番目を除き要旨)。
● 「合理的処罰」の抗弁が廃止された。
● 子どもが暴行からの法的保護を大人と同様に享受するようになった。
● これまで学校や保育現場のような規制を受けていなかった場所でも「合理的処罰」の抗弁を利用できなくすることにより、法律上の抜け穴をなくした。
● 「明確さがもたらされ、子ども、親、専門家および公衆にとって法律がわかりやすいものになりました。これによって、これまで存在してきた、どのようなレベルの体罰であれば容認されうるのかをめぐる混乱の可能性がなくなり、家族を支援する専門家がよりよく子どもを保護できるようになるでしょう。ウェールズではいかなるレベルの体罰も違法であるという、明確で曖昧さの残る余地のないアドバイスを、専門家が親・養育者にできるようにもなります」。
● 子どもの権利を守る一助となり、ウェールズでは子どもの体罰は容認されないという明確なサインを送ることになる。
同時に、次のような法律ではないことも説明されています。
● 新しい罪名をつくる――合理的処罰の抗弁が廃止されただけです。
● 親による子どものしつけをやめさせる――しつけと体罰には大きな違いがあります。親は、規律を維持し、好ましくない振舞いに対処する手段として、体罰に代わる方法を用いることができるのです。
● 親が子育てしにくくなるような干渉を行なう――親はもちろん、子どもを危害から安全に保つために、または着替えや衛生・清潔の保持といった日常的活動を援助するために、身体的介入を行なうことができます。
End Violence Against Children のサイトに、法改正の経緯や今後の取り組み予定をめぐるウェールズ政府関係者との質疑応答も掲載されていますが、これについてはまた機会を見て紹介したいと思います。今後、ウェールズ政府は体罰禁止に関する意識啓発と親の支援にさらに力を入れていく計画で、(昨年10月の記事でも書いたように)3年後および5年後には法改正の効果に関する検証が行なわれる予定なので、引き続き注目していきます。
【追記】(5月2日)
Gigazine〈ウェールズで子どもへの体罰が違法に、保護者が子どもをたたいてるのを見たら警察か福祉局に通報してと政府〉という記事が出ていました。間違ってはいませんが、力点の置き方が少々偏っているようにも思われます。
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