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フランスにおける児童虐待(子どもへの暴力)対策
フランスは昨年(2019年)7月、民法第371-1条に「親の権威は、いかなる身体的または心理的暴力も用いることなく行使される」という規定(第3項)を追加し、世界で56番目の体罰全面禁止国となりました(体罰の全面禁止をめぐる国際動向については筆者のサイトを参照)。
同年11月20日には、子どもの保護担当副大臣が『私は暴力を終わらせたい。あなたは?』(Je veux en finir avec la violence. Et vous ?)と題する行動計画(2020~2022年)を発表し、「あらゆる場所で、あらゆる時に、1人ひとりの子どもを保護する」ことを目的とする22の措置を掲げました。フランス政府のリリースでは、とくに次の8つの措置が目玉として紹介されています。
1)課外活動とアソシアシオン(民間団体)を防止の強化の中心に位置づける。
2)ダイヤル119(子どもの危険な状況を通報するためのヘルプライン)へのすべてのコールに応答できるようにする。
3)子どもと接する専門家の組織的モニタリングを行なう(性犯罪・暴力犯罪の犯歴確認)。
4)子どもに性的魅力を感じる人々がその欲求を行動に移さないようにするための専用ダイヤルを設け、必要に応じて適切なアセスメントおよびケアに付託する。
5)危険な状況にある子どもを受け入れ、話を聴くための専門的施設を2022年までに全土に設置する。
6)施設における不当な取扱いおよび暴力との闘いを強化する。
7)ペドフィリア犯罪に対する制裁を強化する(児童ポルノ画像の閲覧・所持に対する罰則強化および性犯罪・暴力犯罪者リストへの自動的登録)。
8)子どもがポルノにさらされる状況と闘う。
22の措置の詳細は次のとおりです*。各分野のタイトルに子どもの立場からの呼びかけが採用されているのも興味深い点です。
【「目を開いて、話しかけて」:意識啓発・研修・広報】
1.アソシアシオン(民間団体)に働きかけ、課外時間の防止活動を充実させるために投資を行なう。
2.学校における性暴力の防止を強化する。
3.親を対象として、子どもが生まれる前から防止のためのメッセージを届ける。
【「話を聴いて、行動して」:沈黙を打破し、発見・通報を奨励する】
4.子どもの危険な状況を通報するためのヘルプライン(119)を強化し、対応がとられない通報をゼロにすることを目指す。
5.専門家のネットワーキングを向上させ、気になる情報の収集体制を強化する。
6.危険な状況にある子どもを受け入れ、話を聴くための専門的医療司法施設を2022年までに全土に設置する。
7.暴力を発見・確認し、被害を受けた未成年者をケアするための付託先小児医療チームを指定する。
8.現場の専門家間の協力を強化するための合同研修を開催する。
【「どこに行っても、守って」:日常生活における子どもの保護を向上させるための行動】
9.児童ポルノ画像の常習的な閲覧、取得または所持行為を理由として有罪判決を受けた者に対する抑止策を強化する。
10.子どもと日常的に接しながら活動を行なう専門家の犯罪歴について組織的確認が行なわれることを保障する。
11.施設における不当な取扱いおよび暴力との闘いを強化する。
12.子どもがポルノにさらされる状況と闘う。
13.スポーツ界における性暴力と闘う。
【「助け出して」:被害を受けた子どもへの支援を向上させる方法】
14.被害を受けた子ども1人ひとりに対し、そのニーズのアセスメントおよび一連の高度ケアを保障する。
15.2020年以降、心理的トラウマの治療を専門とする施設を新たに5か所に設置する。
16.2020年中に、地方被害者援助委員会を「子どもに対する暴力との闘い」のための組織として統一する。
【「起こらないようにして」:行動化の防止および再犯回避のための措置】
17.子どもに性的魅力を感じる人々がその欲求を行動に移さないようにするための相談・指導を目的とする専用ダイヤルを試験的に開設する。設け、必要に応じて適切なアセスメントおよびケアに付託する。
18.再犯防止措置を評価するための調査研究を発展させる。
【「いつも注意してて」:調査研究の発展】
19.子ども時代の暴力に関するデータ収集を強化する。
20.家族間暴力の結果として生じた0~6歳の子どもの死亡の発見体制を強化する。
21.予期しない乳児死亡の監視機関を支援する。
22.未成年者買春の新たな形態について理解する。
日本における対応を考えていくうえでも参考になる点が多々あると思います。なお、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下での対応については、たとえば次のような記事があります。
-FRaU(現代メディア):3月末に6歳男児が死亡…「コロナ禍の虐待」フランスの実態 「隣人に救われたジャーナリスト」が立ち上がった(下野 真緒)
-NHK(Web特集):コロナで高まる児童虐待リスク~子どもたちをどう救う
次の取り組みもたいへん興味深いものなので、あわせて紹介しておきます。別の報道によれば、9月以降、ビデオゲーム制作者、児童虐待専門の裁判官・警察官、子どもの保護担当副大臣とともにワーキンググループを設置し、このような取り組みの拡大と恒常化について検討していくそうです。
* このまとめは Le Journal des Femmes: Que contient le plan de lutte contre les violences faites aux enfants ? によります。筆者が若干補足した箇所もあります。
** この記事は、以前筆者のFacebookにアップした投稿を編集したものです。
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