子ども時代に出合う本 #06 子どもの発達に合わせて
子どもの発達に合わせて
絵本と一口にいっても、さまざまなグレードがあるということは、子どもと本に関わっている人にとっては常識でも、一般にはあまり知られてないんじゃないかなと思います。
絵本は、幼稚なもの、子ども向けの本・・・程度の認識で、どれを選んでも同じじゃないかという声も時々聞きます。
子どもの本を選ぶって、実は結構難しいと思っています。子どもの誕生から青年期までの発達・成長の道筋を知り、ベースとして脳の発達、言語や認知の発達、心の発達について理解しておく必要があるからです。
でも、すべての人が子どもの発達について学ぶわけではないので、いきなり親になって戸惑ってしまう。そんな場合は専門的な知識を持っている人に相談してほしいなって思います。
じゃあ、図書館へいって、とにかく誰かそこで働いている人をつかまえて聞けば教えてもらえるか?
もし、答えてもらえる図書館だったらラッキー。そこをこれからも利用できます。
司書資格の履修科目の中に、必須科目として児童サービス論が入っていて子どもの発達についてもざっと触れますが、詳細を学ぶことはないため余程関心をもって学んでいる人でないと、答えられないものなのです。
どこの図書館にも児童書に詳しい担当者がいるのが望ましいですね。ただ、その知識はいわゆるハウツーではないし一朝一夕には身につかないため、地道に経験を積むしかなく、私自身もまだまだ勉強が足りないなあと思うことが多くあります。子どもの本の世界は奥深く、知れば知るほど、深遠で、一筋縄ではいかないのです。
もちろん、そういう知見を持っている機関や人が選書したリストを参考にするという手もあります。
たとえば東京子ども図書館の児童図書館基本蔵書目録は信頼を置くことができます。
児童図書館基本蔵書目録1『絵本の庭へ』東京子ども図書館刊 2012
児童図書館基本蔵書目録2『物語の森へ』東京子ども図書館刊 2017
まずは、ここに選書されている本を、とにかく手あたり次第読んでみるとよいと思います。そうすると、どういう基準で選ばれているのかがなんとなく感覚でわかってきます。
え?そんなにたくさん?って思う方には、東京子ども図書館のこちらの冊子がお勧めです。
『子どもと本をつなぐあなたへ——新・この一冊から』「新・この一冊から」をつくる会編 東京子ども図書館刊 2008年
ここに紹介されている41冊を、この冊子とともに読んでいくと、どんな本を子どもたちに手渡せばよいか、一定の基準について理解できると思います。
また、そうした選書の基準を言語化したのが、05で紹介したリリアン・H.スミスの『児童文学論』といった基本的な参考書なのです。図書館の児童担当としては必須の参考書です。児童担当になったらぜひ読んでおくことをお勧めします。
図書館の児童サービスの極意
児童サービスに極意なんてあるの?って思われるかもしれません。それはノウハウではなく、姿勢というか、サービスの本質は何かということにあります。
それはきちんと子どものことが見えているか?子どもの姿を理解しているかということです。サービスの対象である子どもの理解が出来ていないのに、よいサービスができるはずがありません。
その「子ども」と一口にいっても、年齢によって違う、年齢が低ければ低いほど月齢でもその成長発達は違うし、また同じ月齢でもひとりひとり違っていて、誰一人同じではないのです。
そして、生育環境によっても、第一子なのか、うえに兄姉がいるかでも違う。
そういう子どもたちの姿を客観的に理解しようとする姿勢といえばいいでしょうか。そこがわかっていないと、どんなサービスが求められているか、明確に理解することはできないのです。
たとえばお話会やブックトークの準備にしろ、展示にしろ、その部分が蔑ろになってしまうと、ボタンの掛け違いをしてしまう可能性があります。
「子どもの姿」を理解する視点を持てるかどうかが、とても大事なのです。
なので、私が図書館に関わる仕事をしていた時は、まず最初に子どもの発達について概略ですがお伝えしていました。その学びがベースにあって、お話会での選書や、学校でのブックトークの選書を含めて、どんな子どもたちにどんな本を手渡すかが、見えてくると思うのです。
私自身は、大学や大学院で、発達心理学や、児童文学論や絵本論などの科目を別々に学びました。それぞれ密接に関連しているのに、全体像をうまく掴んで理解していたかというと、自信がありませんでした。
1989年から始めた文庫活動(最初はプレイルームと言う形でスタート)の中で実践を繰り返しながら、その理解を少しずつ積み重ねてきたと思っています。
ところが、「子どもと読書」について発達心理学や絵本論、児童文学論だけでなく教育哲学や深層心理学の観点から総合的に学ぶことができる講座があったのです。
それが小樽の絵本・児童文学研究センターの基礎講座でした。
絵本・児童文学研究センターでの学び
私には、1987年に第一子が生まれてから、1997年に第四子が生まれるまで、男女女男と4人の子どもがいます。
それぞれの子育てに絵本との思い出がありますが、同じ親のもとに生まれていてもひとりひとり好きになった本は違っていて、読書体験もみんな違います。
子どもたちが大好きだった絵本、何度も何度も「もう一回読んで」と持ってきた絵本、そして自分で読めるようになって読書をする力がついていく過程において、なぜあの作品が子どもの心をとらえたのだろう?ということをなかなかうまく言語化できなかったのですが、この講座を受講して、すべてが繋がっていきました。
基礎講座は2年半にわたる学びでした。始めた直後に母の介護が始まり、なかなかレポートを提出できなかったのですが、それでも終わってみれば、レポート大賞をいただくことができました。
ブログから引用すると・・・
「ここの学びは、私が大学、大学院で学んできたことと重なるのですが、哲学、文化人類学、歴史学、発達心理学、臨床心理学、深層心理学を体系的に学びながら、それを子どもの読書に結び付け、しかも俯瞰して考えることが出来たことが収穫でした。
子どもの心の発達の理論が、こまぎれではなく点が線に、線が面になって、立ち上がって明確になり、子どもの発達段階のどんな時期に、どのような本に出合うべきかを、自信を持って語れるようになりました。」
子どもに本を手渡す仕事をしようとしている方に、あるいは今、図書館の司書としてどんな本を手渡せばよいか迷っている人に、この講座を自信をもってお勧めします。
我が子の成長過程で出合った本についてのエピソードを綴っていこうと思いながらも、今回もまた寄り道してしまいました。
ただ、我が子達の本との出合いについて綴るとき、どうしても発達心理学や深層心理学の観点が出てくるので、その前に絵本・児童文学研究センターのことを記しておきたかったのでした。
(続く)