自分が「大事にしたいライフスタイル」と重なった場所が、その人にとって「一番の移住先」になる(岐阜県郡上市明宝地区)。
みなさまこんにちは!
地球のしごと大學受講生インタビューチームです!
「地域に興味はあるが踏み出せていない」「何から手をつければいいか分からない」というモヤモヤした思いに答えるべく、延べ500名超の卒業生の中から、卒業後のリアルな姿のインタビューを定期的にご紹介していきます!
自分ごととして考えるきっかけとなるよう、同じ目線での思いや体験をたくさんご紹介していきます!
記念すべき第一回は、東京から島根県出雲市へ家族で移住したという「青木慎二さん」でした。
そして第二回目となる今回は・・・
教養学部3期卒業生の「鷲見菜月さん(すみなつき)」にお話を伺いました!
大学進学を機に地元岐阜県から奈良県へ出て、卒業後Uターンしたという鷲見さん。生まれた土地へ戻られてからも、地域づくりについて学びを深め、地元を支える活動を続けられています。
一度外に出てから、現在の活動に至るまで、どのような経緯や心境の変化があったのでしょうか。
【プロフィール】
鷲見菜月(すみなつき)さん
2016年 地球のしごと大學教養学部(第3期)受講
地元郡上市へのUターン
Q.まずは一度地元を出て、また戻ってくるまでの経緯を教えていただけますか?
生まれは今も住んでいる岐阜県郡上市の明宝地区というところです。
人口1,600人、600世帯ほどの地域になります。
小中は明宝で過ごした後、岐南にある女子高へ進学し、大学進学を機に一度奈良県へ出て、まちづくりと観光について学びました。
よくあることかと思いますが、就職活動の際は、地元に帰るか関西に残るかで迷いました・・・。
結論、一度岐阜県内の「森林文化アカデミー」という専門学校に通うことにしました。それを機に岐阜へ戻ってきた形です。
明宝地区の風景。民家と深緑の調和が美しい。
Q.なぜ地元岐阜に戻ってこようと思ったのですか?
就職活動に際して自己分析をしてみた時、昔から山と動物が好きだったことを思い出し、それに関連した仕事に就けないかと考えました。
そこで、郡上の山仕事について調べ始めると、自分が地元の林業について、何も知らないことに気付かされたんです。
山が身近にある生活をしている人でも、山とのかかわりは薄く、知る機会もない。山村地域に暮らす人たちが山と関わらない状態がつづいていくのはこの先まずいな、という想いが湧いてきました。
約90%が森林の地域なのに、誰もその資源を活かせなくなってしまう…….。
そこでもっと林業について学びたいと思い、森林文化アカデミーへの入学を決めました。
Q.現在所属されている「ななしんぼ」とのご縁はいつ生まれたのですか?
実は大学生の頃からインターン生として関わっています。
人口減少や住民間の交流機会の減少などの地域課題をよく耳にしていたので、インターン先はそういった課題の解決に向けた活動ができるところにしたいと考えていました。
そんな活動してるところ、地元にはないだろうな……となんとなく調べてみたら、「ななしんぼ」があったんです(笑)。
大学卒業後は、自分が忙しくなってしまい、一時期関わる頻度は減ってしまいましたが、休日元気な時は「ななしんぼ」主催のワークショップに参加したり、「月刊めいほう」という地域広報誌の記事を書いたりして、関係は継続していました。
ななしんぼの事務所外観。ハンドメイド感のある温かい佇まい。
Q.専門学校卒業後は、そのまま「ななしんぼ」へ?
専門学校を出てからは、地域の林業に貢献したい思いがあったので、郡上市内の木材屋さんに就職しました。体力仕事でしたが、楽しい職場でした。
しかし、体調を崩したことがきっかけで、力仕事が続けられなくなり、やむなく仕事を変えることにしました。
「ななしんぼ」から声をかけていただき、アルバイトとして働き始めました。そこで担当した業務が、自分のやりたかったことに近いと感じたこともあり、そのままスタッフとして働かせてもらうようになりました。
Q.NPO一本でやっていくことに対して、不安や迷いはありませんでしたか?
正直、収入面など不安はありました。でも、いずれ自立したいという思いもあったので、副業で収入を支えながらもやっていこうと考えました。
現在担当している役割は自分のライフワークだと思えるくらい、興味関心のある仕事なので、むしろ勉強させていただいているくらいの気持ちで取り組んでいます。
それに、以前の会社では、業務の内容的に地域の方と関わる機会がほとんどなかったんです。でも「ななしんぼ」では、地域の行事に参加したり、地域の様々な方とも出会いがあります。
自分にとっては、働く価値があると思っています。
「ななしんぼ」の地域活動
Q.「ななしんぼ」では具体的にどのような活動をされていますか?
地域住民の「やりたい」を応援することで、地域に人が楽しく住み続けられるような取組をしています。
ななしんぼにはコミュニティカフェとものづくり工房(シェア工房)があります。
コミュニティカフェでは「ワンデイシェフ」という取り組みをしていて、一般の方のチャレンジショップとして一日だけお店を開くが可能ですし、シェア工房では、ものづくり初心者の方でもものづくりにチャレンジできるような環境を作っています。
地域に住むお年寄りや年配の人たちは、身近にある素材を活かして生活に必要な道具を自分たちの手で作ってきました。
若い世代にも、暮らしを自分たちで作り上げていく楽しさや、自己実現の方法を模索できるような場所になるといいと思っています。
ななしんぼの事務所に併設されたものづくり工房とコミュニティカフェ。
明宝地区住民の交流拠点となっている。
Q.地元の方とのつながりはどのように作っていったのでしょうか。
もともと地元の人間といっても、地元の人に最初から親しい関係ができているわけではないんです。
大学卒業後に地元に帰ってきてからは、地域の集まりや行事に参加したり積極的にコミュニケーションをとるようにしていました。
「頑張ってるな、こいつは」と思ってもらえるよう、自分の活動を周囲に発信することが大切かもしれません。また、自分が分からないことは何でも聞いてみて、助けてもらうことも大切だと思います。
人って、正体不明のモノやコトに対して不安を感じると思うんですけど、田舎の人は特に、何をしているか分からない人に対して警戒心が強いと思います。
なので、「何をしているのかわからなくて怖い」という印象を持たれないように、できるだけ丁寧に情報発信することを意識しています。
Q.鷲見さん個人では、地域でどのような動きをされていますか?
ななしんぼはコミュニティカフェカフェ(シェアキッチン)の運営やものづくり工房(シェア工房)の運営を行い、起業チャレンジの支援をおこなったり人と人をつなげるさまざまなワークショップを行っています。
また、空き家情報の収集や情報提供、地域情報誌の発行などの業務も行っていますが、私は主に、地域情報誌の制作とカフェ運営、地域の活動支援(林業グループの支援)を担当をしています。
その他にも、「奥美濃よもやま話を読む」という地域の昔の暮らしを聞き書きした冊子を読む活動をしていて、会長を務めています。
聞き書きを読むことで、地域で起こった楽しい話や悲しい話、いろいろな思い出に触れながら、地域のこと、歴史のこと、自然のこと、暮らしのことなどを学んだり、考えたりしています。
会のなかで、お年寄りから昔の暮らしや道具にまつわるいろいろな思い出話が聞くことができるのも楽しみの一つです。
いつも新しい発見があります。いろんな人が大切にしていた暮らしを伝えてつないでいきたいと思っています。
鷲見さんが、地域の方々のものづくりの現場に取材した際の一枚。
こちらは神社でお賽銭を投げる場所に敷く、菰(こも)を作っているところ。昔ながらの道具を使い、手作業で仕上げていく。
地域に関わりながら通った「地球のしごと大學」
Q.地球のしごと大學を知ったきっかけを教えていただけますか?
郡上市の移住相談員をしている方からの薦めでした。
そのころは大学生で、ソーシャルビジネスやコミュニティビジネスを学んでいて「持続可能性」というキーワードに関心があり、「里山資本主義」の藻谷さんや、「半農半X」の塩見さんの講座に興味がありました。
直接講義を聴ける貴重な機会だと思い、受講を決めました。
Q.もともと地域活動をしていた鷲見さんから見て、地球のしごと大學での学びはどうでしたか?
地域に長く住んでいると、どうしても自分の地域を俯瞰的に見ることが難しくなってしまいます。
私自身Uターンをしているので、外からの視点は持っているほうでしたが、地球のしごと大學で都市部の価値観や、日本各地の地域の事例や取り組みについて学べたのは大きな財産になっています。
同時期の受講生は都市部在住の参加者が多かったので、受講したての頃はときに意見や主張価値観が違いとても衝撃を受けたのを覚えています。
しかし、フィールドワークを重ねていくうちに、地域側の視点をきちんと翻訳し、地域外の方に伝えられるようになりました。
講座に参加しなければ、地域をきちんと客観視することや、そこから生まれる自分自身の内面の変化にも気づけなかったかもしれません。
鷲見さんの教養学部受講時の想い出。四万十の自伐型林業団体へのフィールドワーク。参加者みんなでご飯を食べ、不思議な一体感があったそう。
Q.具体的に、どのような内面の変化がありましたか?
以前は、地域の課題解決には誰かが犠牲になって大変な役をひきうけなければならないものと考えていましたが、講義を聴いていく中で、地域に関わる方当事者の自己実現を通して、課題を解決することが可能なのだと気が付きました。
この地域で楽しく暮らすにはそうしたらいいか、自分はどのような暮らしがしたいか。そんなことを考えて仲間と一緒により良い暮らしのために活動していくことが、課題解決につながっていくんだと思います。
課題解決の方法を考える前に、個人がやりたいことを実現できるかどうか、という目線が大切ですね。講座と通じて、移住者を受け入れる側としての心構えも学ぶことができたので、地域と外部の橋渡しをする役目としても、郡上で貢献できるイメージが湧きました。
生まれも育ちも違う方と、同じ場で講義を受け、同じ出来事を共有する。
そして、自分の思考の発信と、他者の意見の吸収を繰り返す中で、新たな発見をしていくという、とても上質な学びの時間を体験できたなと思います。
地域視点で見た、移住先を決める上で大切なこと。
今後移住を検討されている方へのメッセージをお願いします。
これも教養学部を受けて気づいたことなのですが、その地域で大切にしている文化と、自分が生きる上で大事にしたいライフスタイルが重なったところが、その人にとって一番の移住先になるのだと思います。
気になる地域がある方は、まずその地域で行われているオープンな活動や、イベント、ワークショップに参加することをおすすめします。
現地で暮らす人と顔なじみになれたり、移住者ネットワークと繋がるきっかけができたりします。その中で、先輩移住者からの有益なアドバイスも聞けるかもしれません。もちろん、役場の移住相談窓口も活用してみるのもいいと思います。
まだ移住先が決まっていない方は、移住受け入れに積極的な地域にアクセスしてみて、とにかくそこに住んでいる方と関わりを持つことから始めるといいかと思います。
地域で働くことで、自分の役割を発見していく。
最後に、鷲見(すみ)さん自身の今後の目標について教えてください!
私自身NPOで働く中で、自分にとっての役割を探している最中です。
ありがたいことに、地域に居れば居るほど周りの人から信頼や期待をしてもらえるので、できる限り応えられるよう、自分の軸はこれだというものを数年内に見つけて、そこに向かって取り組んでいきたいです邁進できるようにしていきたいです。
また、NPOに関わっていただける方も増やしていきたいです。「ななしんぼ」ができてから10年、新しい風も必要かなと思います。
これからの人生、どんなライフイベントが起こるか分からないので、その時はその時かな・・・と思うこともあります(笑)。
ただ、将来これがあるかもしれないから、今これはやらない、という選択は嫌なので、目の前のことを頑張ってやっていきます!
【編集後記】
今回のインタビューでは、Uターンして地元で活動する道を選んだ若い女性の、等身大のお話を伺うことができました。
物事を深刻に考え過ぎず、小さくても今感じたことをコツコツやっていくという気概が垣間見えて、インタビューチーム一同、一歩前に進む力をいただいたような気持ちになりました!
緊急事態宣言下のため、前回に引き続きオンラインでのインタビューとなりましたが、また地方との往来ができるような状況になりましたら、郡上市・明宝地区の空気に直に触れてみたいと思います。
末尾になりましたが、お忙しい中現地でのインタビューができないか模索いただき、その後オンラインに切り替えてのインタビュー、写真提供までご対応いただいた鷲見(すみ)さん、ありがとうございました!
(インタビュー・編集)
教養学部受講生(第6期) 町田剛
教養学部受講生(第5期) 藤﨑翔太郎
広島県出身。地球のしごと大學教養学部第5期及び循環農業学部第3期卒業。密かに「地球のしごと大学シネマ部」の名前を借りて、映画のイベントも数回開催。地方でローカルなスナックに行くことかが愉しみ。瀬戸内海が好き。
(サポート)NPO地球のしごと大學事務局 石井祐輔
▼わたしのこれからの「生きる」と「しごと」受講生インタビューマガジン
▼地球のしごと大學 理事長「高浜大介」がコラムをはじめました!
地球のしごと大學という市民学校が、何を目的にどういう経緯で作られたのか、創設者本人が胸の内を執筆しています。
サポートいただきありがとうございます!いただいたサポートは学校の運営のために充てさせていただきます!