オンナ友だち④

佳恵との再会以来、ワタシは肩の荷が降りて楽になったような心地がした。気のせいか職場の若い社員の表情も落ち着いたように見えた。ワタシが話しかける度にビクビクしていた入社2年目の由美子や圭太たちの仕草の変わりように、ワタシは自分の我の強さを自覚させられた。

数年前に退職した同期の楓が送別会の席で放った一言が思い出された。「凛ってホント、圧強めだからねえ。」、当時はたいして気にもしなかったが、今になって楓の言葉の意味を深く噛みしめるようになった。そう言えば分かれた旦那も去り際にそんなことを言っていた。「疲れるんだよ。お前ってホント頑固がんこ融通ゆうずうが利かないからな。」

そういえば半年前に売れ残った?30代後半の医者連中との飲み会ってのに誘われた時だ。自称精神科医のチャラそうなヤツと話してた時、そいつが突然言ってきた。「結構圧強めですね。こだわり強いっすか?」ワタシはその時、ビールグラスでそいつの頭を一発殴ってやろうかと思い、年の功ですんでで聞き流すことにした。これらの出来事を思い出すと、点と点が繋がって線になる。そんな気がした。

もと旦那の友人ってのに精神科医がいる。数年前に職場の若者のメンタルケアとか言う件で一度連絡させて頂いたことがあった。さっきのヤツとは見た目も何もかも違う誠実そうな方で、残念ながら既婚だ。メールの履歴を見直して、何とか要件を取りつくろってお会いできませんか?と連絡してみた。???と書きたそうな文面の返事だったが、正直にご相談したいことがあるのですが、受診はちょっと…とお伝えしたところ、クリニックそばの店で仕事終わりに時間を作ってくれた。

挨拶も早々に、ワタシは自分のを先生にお話しした。
「ワタシって、やっぱりおかしいんですよね?」
ワタシの目を見ながら、先生は優しい口調で話し出した。
「凛さん、おかしいって言い方へのお返事は正直難しいと思います。でも生きにくいとか、何か困ってらっしゃるんだったら、お力になれるかもしれません。」

先生の言葉に導かれるように、ワタシは自分の過去を洗いざらい話した。個人情報とか言ってる場合じゃない。最後に佳恵との再会の件も話した。ワタシには自分の幸せが見えなくなったと、先生には正直な胸の内を明かした。先生はじっと話を聞いてくれた。それから一息ついて、静かに話し始めた。

「凛さん、これから少し耳障みみざわりの良くないことを言いますね。気を悪くさせたらごめんなさい。ここ最近、発達障害とか自閉症スペクトラムっていう言い方が広まってきてるのはご存じですか?」
「ええ、何となくですけど、耳にしたことはあります。」
「正直なところ、気づきのない方には言っても何も入らないので口にはしません。でも今回の凛さんのように、生きにくいとか、人生を見つめなおす気になられている今なら、きっと心に届くと思います。」
「先生、その発達とか、自閉ってどんな病気なんですか?」
ワタシは普段なら開こうとも思わない扉に手をかけている、そんな心地がしていた。


(イラスト ふうちゃんさん)


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