ちくわ食え

2マナ2000 特殊能力なし ヒューマノイド

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エイブラ跳ね躍ね

1. 天才 夕陽の照った多摩川の土手に、ブヨブヨの尻をついて、一人の陰気な中年男が遠くのビル群を見るともなしに眺めながら放心状態になり果てていた。 この男、朕建一(ちん けんいち)という。 朕建一は、今日という日まで、常々こう思っていた。 「あぁ、おれホンマに、ごっつい天才やわ」 朝起きてから寝るまでのあいだ、常にその実感が体の内側を爽やかに駆けめぐり、ぽわぽわと湧きあがってくる多幸感によって心はあたたかく暖められた。何をしていても嬉しく、何もしなくてもまた楽しい。

    • 八十八夜まで

      令和4年4月某日、風が気持ちいいい。 とてつもなく良好な昼やな、と布団に寝ころぶ籠沼理事長は深く息を吸いこみ、吐いて、開け広げのガラス戸から流れこんでくる薫風を一身に浴びていた。 うす暗い畳の間で、干からびた蛙のように四肢を投げ出した籠沼はごろんと仰向けになり、風はその身体の上をすべり流れて、ちん毛がゆれる。 ベチ、と硬いような音の屁が出てからすぐ布団に当たって霧散した。それでこの男はカッと目を見開いていきなり詠むのである。 「群青の彼方、薫る風、畳の間、ちん毛靡く、立夏の

      • 一つところにとどまらず

        つい数日前までの空気中にあった透きとおるような隙間がなくなっていて、今ではどうも、落ち着きのない急かされているような感じと、むしろのんべんだらりとした、白昼夢にいくらか騙されているみたいな感覚とが同時に身体の内外にあふれているけど、これは春だからに決まっている。 寒さが次第に衰えてゆき、前の日と温度にそれほど大差がなくともいつか、どこかでぷっつりと冬は閉じる。そのかわり当たり前のような態度で春がはなからダラダラと、目に見えている空の下の全てを含んで寝転んでいる。その次の日く

        • 供犠

          【1】 本州梅雨入り直後で曇り空の昼間に2人の芸能人が結婚したのだが、その2人というのが人気女優の荒柿ウイ(あらかきうい)と、ミュージシャン兼俳優の保守ノ鯨(ほしゅのげい)という組み合わせで、第一報が発せられるや否や日本中に激震がはしったのは察するに難くなく、なぜなら2人は数年前に高視聴率を記録した大ヒットドラマ『生きるは恥、かつ役に立たない』の作中で結婚した主人公とヒロインであり、だから日本の国民、人民、民草、非国民、平民、新平民、国内住民の悉くが件の速報をまさに「生き恥

        エイブラ跳ね躍ね

          東京(なんだその質問はっ)そして「また会う日まで」

          「  青春アミーゴなの。私は私の人生を生きるの。絶対誰にも邪魔なんかさせないから。私を止めるなんてできないの。もう決めたのよ。 とかなんや言うてる人って年取ったらどないすんねやろ。絶対後悔するやんか。早いうちにまともな大人になったほうがええでって誰か教えてあげぇや。ちょっと見てられへんわ。 とか言ってる人って、私落ち着いてて見識と教養とがあって知的だし、なんなら瑞々しい感性も失ってないよだから若者の想いが理解できるんだ、なんて思ってそうで怖いよね。 って言って次から次へと色

          東京(なんだその質問はっ)そして「また会う日まで」

          どっちの方がヤバいんやろか?~映画館での不誠実な鑑賞~

           映画を映画館で観たことがほとんどない。まず大阪に出てくるまで地元にまともな映画館が無かったというのが大きな理由としてある。どんな条件を満たせば「まともな映画館」であるかは今もって正直わからんけど、当時の自分にとってのまともな映画館は行くのに電車で1時間もかかる場所にしかなかった。だから映画はもっぱらレンタル屋に出回ったものを家で見るのが常であり、それこそが映画鑑賞の唯一のスタイルとして己の身についてしまった。なので結局大阪に下宿し始めてからも映画を鑑賞するのはレンタル屋から

          どっちの方がヤバいんやろか?~映画館での不誠実な鑑賞~

          「似合わん客」

           ずいぶん前に、といって去年のことだけど、大学近くの喫茶店で友人とだらだら遊び、最後に晩飯でも食おうか、との運びと相成って、相成ったからには店を選んで中に入った。  その飯屋というのが学生の頃によく部活の打ち上げかなんかで利用した、まぁ若者向けのアメリカンダイナーで、それが久しぶりだったもんで自分は「ひぃぇ懐かし」かなんか言って席に着いた。  相変わらず姿かたち様々のネオンサインがぴかぴかしていて、壁に所せましと飾られたアンティークなブリキ看板にその人工光がいちいち反射し

          「似合わん客」

          大人になってからうんこを漏らすと脳が覚醒するという話を聞いて、うんこを漏らしたくなったけど(2/2)

          ※前回の記事 今回は「なぜいまだに私はうんこを漏らせずにいるのか?」をなるべく短めに書いて終わらせたいけど長くなりそう。 1. その後  前回の冒頭で登場したカラオケ屋の店長とはその後、再びうんこ漏らしのスピリチュアルな話をすることはなかった。なにしろ脳の覚醒によって触れられる"世界"がどんな姿かたち色合いをしているか、なんて事はそもそもが言説不可能であって。それをわかるには自分がうんこを漏らして覚醒を体験するほかないのだ。仏教と同じである。  時は経って、いつしか店

          大人になってからうんこを漏らすと脳が覚醒するという話を聞いて、うんこを漏らしたくなったけど(2/2)

          大人になってからうんこを漏らすと脳が覚醒するという話を聞いて、うんこを漏らしたくなったけど (1/2)

          1.  ことのはじまり 「うんこはマジで1回漏らしといたほうがええで」 というのは以前バイトをしていたカラオケ屋の店長に言われた箴言で、もう4年くらい前のことなのに時々思い出す。思い出しては「ああっ、おれはまだうんこを漏らせないでいる…」とおのれの無能さに直面して残念な思いを夜な夜な噛みしめるのである。  当時働いていたカラオケ屋は学生街にあって、内装外装ともにボロく、腐敗した瘴気がまとわりついているような古い個人経営店だった。たまに訪れる客のほとんどが大学生で、基本的

          大人になってからうんこを漏らすと脳が覚醒するという話を聞いて、うんこを漏らしたくなったけど (1/2)