固定時間外手当
Q 差額支払合意は必要か?
A 最高裁の立場は必要とまでは判示していない。最高裁判所第一小法廷平成21年(受)第1186号平成24年03月08日判決テックジャパン事件桜井補足意見では必要としている。
→使用者側としては、差額が生じた場合に支払う旨の規定を賃金規程に設けておくべし。
就業規則例
(固定割増賃金手当)
第●条 従業員には、前条の時間外勤務割増賃金、法定休日勤務割増賃金、深夜勤務割増賃金の支払いに充てるものとして毎月定額の固定割増手当を支給することがある。
2. 時間外勤務に対する固定割増手当を支給する場合は、●時間分とする。
3. 休日勤務に対する固定割増手当を支給する場合は、●時間分とする。
4. 時間外勤務及び休日勤務が、第2項及び第3項の時間を超えた場合においては、当該超過時間数分については別途割増賃金を支給する。
5. 第2項及び第3項の手当ては、法定割増賃金計算時の基準内賃金には含まない。
Q 固定時間外手当対象時間の明示は必要か?
A 不要。裁判所は下記のように判示している。
使用者が労働者に対して労基法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるためには,
① 通常の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができること(明確区分性があること)が必要であり,
かつ,
② 使用者が特定の手当の支払いをもって労基法37条に定める割増賃金を支払ったと主張している場合においては,当該手当が時間外労働に対する対価として支払われたものであること(対価性があること)を要する。当該手当が支給された趣旨については,労働契約に係る契約書等の記載内容のほか諸般の事情を考慮して判断すべきであり,当該手当の名称や算定方法,賃金体系全体における当該手当の位置付けに留意して検討しなければならない
(最高裁平成3年(オ)第63号同6年6月13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁,最高裁同21年(受)第1186号同24年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事240号121頁,最高裁同27年(受)第1998号同29年2月28日第三小法廷判決・裁判集民事255号1頁,最高裁同29年(受)第842号同30年7月19日第一小法廷判決・裁判集民事259号77頁参照。)。
★手当支給の趣旨について
平成28年9月30日京都地方裁判所判決では、賃金規程には固定残業代が規程されていたものの、入社時の雇用契約書には、「月給250,000円残業含む」と総額が記載されているのみであり、入社時に固定残業代の額が説明されていなかったことを理由に、時間外労働に対する対価としての手当てではないと判断した。
→「固定時間外手当制が制度として有効に成立しているか」と、「当該労働者との関係で固定時間外手当制を適用できるか」は別で考える必要がある。
★求人広告での表記には注意が必要。
平成29年3月31日の職業安定法の改正(平成30年1月1日施行)にあたって、労働者を募集する際には、(a)固定残業代の計算方法(固定残業時間および金額)、(b)基本給の額、(c)固定残業時間を超えたときには割増賃金を追加で支払うことを明示すべきとされている。
Q 人ごとに金額、対象時間が異なる固定時間外手当の導入の可否
A 判例の基準からすれば上記①②を満たしていれば固定時間外手当制度自体が無効になることはないと考えられる。
したがって、契約書で固定時間外手当の金額と対象時間について明示していれば問題ない。
ただ、注意する必要があるのは、対象時間が同じで時間単価も同じ労働者に関して、固定時間外手当の金額異なる場合、時間外労働割増賃金に対する支払だけの趣旨ではない側面が出てきてしまうため、固定時間外手当と認められない可能性があること。
★なお、同一労働同一賃金原則は、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すもの。
他方で、正規雇用労働者間での待遇差についても不合理な待遇差別が許されないかについての最高裁判断は無いようだ。