オーダーメイドしたら日本じゃ絶対あり得ない机ができた
■マラウイではオーダーメイドが普通
マラウイの青年海外協力隊員は、自分の任地で木工職人(carpenter)を探し、オーダーメイドで家具を作るのが慣例となっている。ベッドや机や棚などだ。既製品の家具店はあるにはあるのだが、首都の一部にしかない。値段はけたが1つか2つ違う。大体その地域に一人は木工職人がいるので、そこに依頼するのが普通だ。
オーダーメイドだから、家具の簡単なイラストと寸法を書いて渡せばオッケー。品質にばらつきはあるものの、既製品より格安で、自分好みの家具ができるのだから、マラウイではオーダーメイドがおすすめだ。
自分の住んでいる地域には木工職人が何人もいたので、どこに注文しようかと、作っている家具のできばえを見たり、見積もりを取ったりしていた。
徒歩20分のちょっとした空き地で、見事な曲線のテーブルをつくる木工職人を見つけた。おしゃれに仕上げてくれそうだったし、見積もりも他より安かったので、この職人にお願いすることにした。注文したのは仕事机、いす、長めのいす(ベンチ)、本棚など。どれも1つ2000円前後だ。
■ふさがれた机
仕事机は、ノートパソコンがしまえるように、学校の机でよくある収納スペース付き。イラストを見せながら、説明した。
「こんな机を作ってほしいんだけど。ノートパソコンや書類とかを入れられる棚を下につけてほしいんだ」
「わかった。このイラストの通りにすればいいんだね」と、数日後にまた来るように言われた。同時にオーダーしたうちの、どれか1つは出来上がっているはずだという。
指定された完成予定日に取りに行くと、「もう少しでできる」とのこと。マラウイあるあるだ。何度目かの「完成予定日」に、まずは本棚が完成していた。おしゃれな曲線のあるデザインも寸法も、文句なしのできばえだ。
本棚の次はいよいよ机。作業場に完成間近の机が置いてあった。この調子なら机も期待できそうだ。
数日後。机の完成予定日に訪ねると、予定通り完成していた。見た目は想像以上だ。ちゃんと机になっている。
ぐるっと見回したその時だ。何か違和感があった。サイズ感はぴったりだし、表面仕上げもワックスでいい感じだし、棚は下についている。
「これ、どこから物を入れるんだろう」
違和感の正体はそれだった。収納スペースが開いていないのだ。つまり、天板の下に四方がふさがれている空間ができあがっている。
いや、まさかそんなはずはない。おしゃれに、どこかが開閉式になっているのかもしれない。べたべた触って確かめるが、どこにも取っ手や扉らしきものはない。収納スペースであるはずの部分が、正真正銘の閉鎖空間であることを確認してから、職人に問いただした。
「これじゃあ物を入れられないじゃないか」
「あー、言われてみれば確かに。どうしようか」
何か失敗したときに「ごめんなさい」から始まる日本人と、反省するそぶりをあまり見せないマラウイ人。そもそも「失敗した」と認識しているのかどうかもあやしい。
注文の時にも「この四角いスペースは何のため?」と聞かれ、「ノートパソコンをしまうためだよ」というやり取りをした覚えがある。もっと言えば、イラストにもそれが分かるように書いてあったはずだ。
でも、きっと大事なのは、終わったことを責めたてて反省させることじゃない。そこから、どう「使える机」を完成させるかだろう。そう考えて結局、「この側面の板だけ外せばいいんじゃない?」ということで話をおさめた。
数日後、再度、机を引き取りに行った。手直しを加えられ、少し傷がついた収納スペース付きの「普通の机」がそこにあった。残念ながら閉鎖空間付きの机の写真はない。あの時、ショックのあまり、写真に残すことに考えが及ばなかったのが悔やまれる。もう2度と出会うことがないであろう机。
帰り道、見知らぬ女の子2人組が運ぶのを手伝ってくれた。やはりマラウイには優しい人が多い。
■座面のスリットがあきすぎた椅子
椅子は机用のものと、横長のベンチのような椅子の2種類をオーダーしていた。最初の値段交渉の時に、「なるべく安くしてほしい」と頼んだら、「材料費が高いんだ」と言われたので、「座る部分をスリット状にすれば板の面積が減るのでは?」と私から提案した。座面にスリットがある椅子は、日本の公園によくあるベンチのイメージだ。職人も納得して、オーダーを受けてくれた。
机完成からさらに数日後、椅子2種類が完成した。椅子の用途は座るだけだから、机のように失敗のしようがない。そう甘く考えていた。
見た目はカフェとかに置いてありそうで、これまたいい感じだ。これでオーダーしていた家具が全てそろった。机用の椅子と、長椅子の2つがあったので、2回に分けて運んだ。椅子を頭にのせて、意気揚々と家まで帰った。
2種類の椅子を家に運び終えてすぐ、一息つこうと座ってみた。
「・・・痛い」
お尻にかかる負荷が想像以上で、数分で耐えられなくなる。一息つけない。材料費をけちったばっかりに、座面のスリットの間隔が開きすぎたのだ。今回は私の提案が失敗の原因だ。
「椅子のスリットの間隔がある一定幅を超えると、お尻にかかる負荷が急激に増える」ということを、身をもって学べたことは、大きな収穫だった。今後、同じことで失敗することは、きっとない。
これらの家具には、それからマラウイを離れるまでの約1年半お世話になった。知り合いのマラウイ人に譲り渡す時も、机の天板の部分には、手直しした時にできた傷と、くぎを抜いた跡が刻まれたままだった。
これからも、どこかで机の傷を見るたびに、スリットのある椅子に座るたびに、マラウイで作ったオーダーメイド家具のことを懐かしく思い出すのだろう。
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♪マラウイで学生たちと作った『かけ算ソング』→ https://youtu.be/sxxCKp_58WE
英語と現地のチェワ語で歌っています。よろしければぜひ、ご覧ください♪
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