見出し画像

第70回全日本吹奏楽コンクール中学の部 感想

なんとかチケットを確保して、名古屋国際会議場で行われた全国大会の中学の部を現地鑑賞したので、遅ればせながら備忘録を兼ねて感想を記しておく。流石に全国大会ともなるとどの団体も素晴らしく、粗さがあったとしても狙いが見えて、まったく気の抜けない、充実した1日となった。

<前半の部>(1階12列やや下手側)

1西関東 埼玉県越谷市立大相模中学校 銀賞
課:Ⅱ 自:ル・シャン・ドゥ・ラムール・エ・ドゥ・ラ・プリエール(愛と祈りの歌) (作曲:松下 倫士)
 課題曲、自由曲ともに安定感があり、基準になる演奏。こういうところが1団体目に来てくれると、会場の響きを確かめたり、自分がいる席でどうやって聴けばいいか、チューニングできる。しかし隣の男の人の鼻が詰まっていて、息を吸うたびに小さく「チーン」って音が鳴るのが気になってしまった。結局これは6団体目まで続いた。

2中国 島根県出雲市立大社中学校 銅賞
課:Ⅱ 自:歌劇「マノン・レスコー」より (作曲:G.プッチーニ 編:宍倉 晃)
 このあと2日間にわたって何回もこの課題曲のファンファーレを聴くことになるのだが、みんなちょっと恐る恐る入ってるような感じがして、実は上手に鳴らすのがとても難しいのかもしれない。それでもゆったりとしたテンポ感の作りには工夫が見え、好感を持った。
 自由曲は金管に少し弱さがある分、木管アンサンブルに強みを持ってやってきた感じ。この曲好きなんだけど、グルーブ感を出すのが難しいのである。

3東北 宮城県仙台市立向陽台中学校 金賞
課:Ⅰ 自:ドラゴンの年 (2017年版) (作曲:P.スパーク)
 向陽台はここ何年かで完全に「向陽台の音」というのを確立したと思う。まさかこの課題曲をこんなに硬質に、前がかりに構築する団体があるとは思わなかった。低音がクリアで、非常に「かっこいい」一曲に。
 自由曲も雰囲気そのままに。一本調子に思われるかもしれないが、終始魅力のある音色でしっかり鳴らす、溌剌とした演奏で◎

4東海 長野県松本市立鎌田中学校 銀賞
課:Ⅳ 自:吹奏楽のための協奏曲 (作曲:高 昌帥)
 結局Ⅳで金賞を取る団体は、職場一般の部で1団体だけ。相当に難しいのだろう。ここの団体の特徴的なのは指揮者の振りで、1拍目にほんの少しの溜めを感じる。これがこの課題曲の推進力とぶつかってどうだったか。
 自由曲は難しいです。日曜日の高校の部でも2団体が演奏していたが、ほんとうに成立させるのが難しい曲。どんどんチャレンジしてほしい。

5東京 東京都羽村市立羽村第一中学校 銀賞
課:Ⅱ 自:交響的断章 (作曲:V.ネリベル)
 比較的少人数でも50人分鳴らそうとするタイプの「少人数」。ティンパニとオーボエの持ち替えは洛南でも見たことないかもしれない。しかもティンパニの場所で立奏。審査員の耳に届いていればいいが・・・。
 1年生もたくさんいる布陣で、一定の響きを作り出して、パワフルな演奏を実現する力が素晴らしい。ネリベルをこの人数で成立させているのは驚異的だった。

6東関東 千葉県松戸市立第四中学校 銀賞
課:Ⅱ 自:交響組曲「ピノキオ」 (作曲:F.フェラン)
 素軽さのある演奏で〇。抑揚というか、味付けがしっかりとしていて、それが危うさも併せ持っている。テンポ感がどうだったか。
 自由曲、フェランの中でも落ち着いた曲なんだけど、比較的上品に音作りがなされていて非常に心地よかった。こちらも抑揚の味付けはしっかり。

7九州 福岡県福岡県立門司学園中学校 銀賞
課:Ⅰ 自:蒼き三日月の夜 (作曲:樽屋 雅徳)
 少しスムースさに欠けたか。丁寧に作られており、不快感はない。自由曲は樽屋のため休憩(私怨)。

8中国 島根県出雲市立第一中学校 銅賞
課:Ⅰ 自:歌劇「トゥーランドット」より (作曲:G.プッチーニ 編:後藤 洋) 
 結構な独自解釈なⅠでびっくり。おなじ「f」の中にも差をつけており、飽きさせない工夫が見える。その分音色や音程にブレが出てしまうのはご愛敬。
 自由曲もクセ強のダイナミクス。最後2分間息切れ感が出てしまうのは、中学校がこの曲をやるときのお約束になってきたな。

9四国 愛媛県松山市立西中学校 銅賞
課:Ⅱ 自:巨人の肩にのって (作曲:P.グレイアム)
 シンバルの処理に苦戦したのは、この曲を採用したすべての学校に言えることだと思う。この学校はシンバルを2台用意して、なんとか邪魔にならないように工夫されていた。指導者の苦労がしのばれる。
 課題曲のテンポが速めだなと思ったら、自由曲の最初の4つ打ちがめちゃくちゃ速い。当然のごとく指は回っていないわけだが、何が狙いかって、中間部の超絶技巧パートを2つも入れ込んできた。ここをやりたかったんだろうな~~という思いが見えて、応援する気持ちで聴いた。

10北海道 北海道旭川市立永山南中学校 金賞
課:Ⅲ 自:二つの交響的断章 (作曲:V.ネリベル)
 今回、前半の個人的ダークホース枠がここ。ここが金賞を取ったと知った瞬間、ブルーレイ購入が決まりました。
 課題曲は比較的「鳴らす」タイプかと思わせておいて、抜くとこはしっかり抜くメリハリのある演奏。少し雑さはあるが、勢いと音色がマッチしており、これは一つの形。
 自由曲がびっくり、もともとこの曲は好きなんだが、中学生には荷が重いと思っていた。しかし、確かに細かいところが粗かったり、弱奏部が怪しかったりはするが、ともかく圧倒的な「ボリューム」と「ボリューム感」。そしてうねり。指揮者の力感あふれる指示に、生徒が一生懸命に応えている様子に、心打たれた!

11九州 福岡県福岡市立城南中学校 金賞
課:Ⅱ 自:クロスファイア ~ノーヴェンバー 22 (作曲:樽屋 雅徳)
 非常にそつのない演奏だが、もうこれが中学生が演奏できる課題曲Ⅱの最高峰だと思う。ファンファーレもよどみないし、何より音色がちゃんと溶けている。正攻法で「うまい」演奏。
 自由曲に関しても、中間部のゆったりとしたところで少し乱れたくらいで、終始上品な音色で、チームとして音を作っている感じが見えてとても良かった。特に木管アンサンブルは素晴らしかった。

12関西 大阪府大阪市立鯰江中学校 金賞
課:Ⅱ 自:交響詩「ローマの祭」より I.チルチェンセス IV.主顕祭 (作曲:O.レスピーギ 編:森田 一浩)
 関西大会で聴いてから楽しみにしていた団体。やっぱり音程は荒いが、こちらは力感のある演奏。力強い。
 自由曲の1音目は南先生の「ウッッッ!」からスタート。その後も先生の唸り声が響きながら、それを上回るパワー全開のチルチェンセス。一方で、コンクールではカットされがちな1楽章の後半部が、存外に良い響きで驚いた。そこからの流れがとてもよく、さすが、この曲の鳴らし方をわかっている先生だなと感じた。終盤までダレることなく、かっこよく強い、そして楽しい演奏をやり遂げた。

13関西 兵庫県加古川市立中部中学校 金賞
課:Ⅲ 自:キリストの復活 ~ゲツセマネの祈り~(作曲:樽屋 雅徳)
 クセ強、上品、クセ強、ときて、上品パート。結局ここまでの4団体が連続で金賞を取るわけだが、どこもカラーがよく出ていてとてもいい演奏会だった。自由曲は樽屋のため休憩(私怨2)。

14北陸 石川県津幡町立津幡南中学校 銅賞
課:Ⅳ 自:交響詩「スパルタクス」 (作曲:J.ヴァン=デル=ロースト)
ごめんなさい、就寝してました。

15東北 山形県山形市立第六中学校 銀賞
課:Ⅰ 自:ドラゴンの年 (2017年版) (作曲:P.スパーク)
 やわらかい音の作りで、山形の民謡を山形の人間が演奏するエモみを感じた。しかし音の立ちが物足りなく感じてしまったのは、ここまで演奏してきたクセ強団体のせいかもしれない。
 本日2団体目のドラゴンの年は非常に教育的で、こっちもすこしおとなしく感じた。

<後半の部>(2階8列真ん中 審査員の少し後ろ)

1西関東 埼玉県朝霞市立朝霞第一中学校 銀賞

課:Ⅰ 自:楽劇「サロメ」より 7つのヴェールの踊り(作曲:R.シュトラウス 編:小野寺 真)
 この課題曲を演奏する団体には、中間のミニマル感を意識するところとしないところがある。ここは非常に強く意識しており、数学的な組み立てが上手。響きも良いが、リズム感がどうだったか。
 シンプルに上手で品のある演奏。中学で教育が見えると好きになってしまう。音程、音色のツメのところが惜しかった。

2東海 長野県長野市立裾花中学校 銅賞
課:Ⅰ 自:秘儀IV 〈行進〉(作曲:西村 朗)
 様々な民謡が組み合わさっている曲だが、その小編ごとの出来に差があるような感じ。バチっとはまったところがすごくいい反面、タンギングが少し甘いため、モッサリしてしまうところもある。
 そういった技術的なところが、難解な自由曲ではハッキリでてしまった。しかし何度聞いてもこの曲で行進はできない。

3四国 愛媛県四国中央市立三島東中学校 銅賞
課:Ⅱ 自:吹奏楽のためのエッセイII (作曲:福島 弘和)
 本日2回目のスヤスヤタイム。

4中国 山口県山口市立小郡中学校 銅賞
課:Ⅲ 自:信長 ~ルネサンスの光芒 (作曲:鈴木 英史)
 ゆったり優しい課題曲で、重くなるかならないかギリギリのところでいったりきたり。スネアと管のバランスが好みの分かれるところ。
 この団体が演奏すると聞いて予習してきたが、やっぱり難しい曲。技術も表現力も必要な割に、聴き映えという点ではコンクールで評価されにくいのかもしれない。

5東関東 千葉県習志野市立第四中学校 銀賞
課:Ⅱ 自:バレエ音楽「青銅の騎士」より (作曲:R.グリエール 編:石津谷 治法)
 響きがとても良い、まだまだ練習を重ねればどんどん良くなっていくタイプの音の作り方をしている。正攻法だがまだ少し発展途上。トリオのリズム体が少し危うかったが、あそこもとても難しい。
 自由曲は非常にいいまとまり。石津谷先生の編曲がいいのか???

6東関東 千葉県柏市立酒井根中学校 金賞
課:Ⅰ 自:リベラシオン(作曲:天野 正道)
 前半にエネルギー全開の怪演をいくつか聞いたせいか耳がおかしくなっていたところを、一気に浄化してくれたのが酒井根。流石。
 1人1人の力量はそれほどでもないのかもしれないが、とにかくサウンドのまとまりが良くてびっくり。中学生にして、もてる力の8割で調整して丁寧に音を作っているところに感心した。少なくとも僕はこういう演奏に参加したことがない。

7東京 東京都小平市立小平第三中学校 金賞
課:Ⅰ 自:ミューファイブ・ミッション (作曲:松下 倫士)
 前団体が非常に大人な演奏だったことから、強弱に少し強引さがあるところが気になってしまうのだが、中学生のうまい演奏ってこんなかんじだったよなと思いなおす。力強くかっこいい演奏。
 自由曲も強弱の味付けが好みではないが、流れているところは非常にスムーズで、全体の響きとしてもとても上手。

8関西 奈良県生駒市立生駒中学校 金賞
課:Ⅲ 自:吹奏楽のための風景詩「陽が昇るとき」より (作曲:高 昌帥)
 関西大会の時にあった粗さを「強み」として伸ばしてくるとは思わなかった。2日間聴いたが圧倒的にうるさいⅢ。スケール感という枠を飛び越えて鳴らしまくる4分間。これで成立させられているのは、なんと音程が合っているからだと思う。
 自由曲でも和音の作りが丁寧。一方で金管の鳴りがとてもよく、メリハリがついている。メリハリといっても、f~ffffの間でついているのだ。160kmのストレートと145kmのチェンジアップ、という感じ。終始会場を圧倒していった。

9東海 静岡県浜松市立湖東中学校 銅賞
課:Ⅲ 自:時の跳ね馬-吹奏楽のための (作曲:中橋 愛生)
 直前に、良くも悪くも規格外の演奏をされてしまって、印象に残らなかった。自由曲も中橋イズムを表出させるのは難しく、ちょっと中学生には家賃の高い曲かもしれない。失礼ながら、数年前の片倉高校の馬場先生の馬場ダンスを思い出してしまった。

10北陸 富山県南砺市立福野中学校 銀賞
課:Ⅱ 自:歌劇「トゥーランドット」より (作曲:G.プッチーニ 編:渡辺 秀之)
 ファンファーレがやはり難しい。シンバルの選択もこれでよかったのだろうか、擦るような鳴らし方で邪魔にならないようにする工夫が面白い。
 自由曲はとても良い。少人数で全国大会によく来る中山五月台中学校の先生である渡辺先生の編曲なのだが、これがバンドのスケール感にマッチしていてしっくり来た。統率感がありながら多幸感のある演奏。最後まで集中力が途切れずに、素晴らしい1曲になっていた。

11西関東 埼玉県さいたま市立土屋中学校 銀賞
課:Ⅳ 自:歌劇「ばらの騎士」より (作曲:R.シュトラウス 編:杉本 幸一)
 平場の並びを完全に直線にする隊形に驚き。客席から見ると二等辺三角形があるような形。まあ僕も舞踏組曲の時には、なんか客席と並行にならんでいた気がするが・・・。
 薔薇の騎士、あんまり人気がないけどすごくいい曲ですよね。終始楽しげでニコニコできる演奏。音程がもういっちょほしい感じだった。

12東北 岩手県北上市立上野中学校 金賞
課:Ⅰ 自:ドラゴンの年 (2017年版) (作曲:P.スパーク)
 東北の団体はすべてこの課題曲・自由曲の組み合わせだったのだが、もっとも中庸だったのがこの団体。そして完成度もとても高かった。特に課題曲で、弱奏部をおもいっきり絞って神経質に作ったのは勇気のいる選択だったと思うし、しっかり成立させたのが素晴らしい。根拠のある演奏で、素軽さもあった。個人的にはとても好きなⅠ。
 自由曲も非常に体系的。教育的と狂気的のバランスもよく、あまりネガティブな印象を持つところがなかった。確実に金賞だと思った。

13九州 鹿児島県鹿児島市立武岡中学校 銀賞
課:Ⅱ 自:ドラゴンの年 (2017年版) (作曲:P.スパーク)
 前団体が、非の打ちどころを見つけにくい団体だった分、少人数でニッチに喜ばせる団体はかわいそうだった。しかし30人そこそこでまったく同じ曲をやる、というのはなかなか観られない代物で、別曲にはなっているんだけれど、善し悪しでは語れない、それぞれの物語が見えて感動した。

14北海道 北海道北斗市立上磯中学校 金賞
課:Ⅰ 自:「交響曲第3番」より I、III、IV (作曲:J.バーンズ)
 この課題曲において、楽器ごとのユニゾンをここまで突き詰めてきたのは中高合わせてもこの団体だけだったと思う。城南が音を溶かしていたのに対し、上磯は完全に「ひとつ」になっている。これはある種狂気的な仕業で、練習過程を思うともう言葉が出なかった。各パーツが整理されたから、今まで全く聞こえていなかったパートが聴こえてきて、この曲はこんな曲だったのだなと、この時間になって気づくことができた。
 自由曲は、フルで演奏しないと全く聞き映えがしないことでおなじみなんだが、それを差し引いても技術と完成度が素晴らしい。自分でハンデ背負ってしっかり勝ち切る横綱相撲を見せつけられた。

15九州 熊本県天草市立本渡中学校 銀賞
課:Ⅱ 自:「交響曲第1番」より 第4楽章 (作曲:S.ラフマニノフ 編:穴山 和義)
 模範的な金賞、少人数の叡智、そして圧倒的実力、このあとに演奏するトリというのは、本当にきつい。全くそつがなく、落ち着いた演奏だったのだが、いかんせんもう印が残っていなかった、ということなのだろう。お疲れさまでした。

中学生には「音を出す」こと、「音を鳴らす」こと、そして「音を響かせる」こと。これらの違いを分かるようになってほしいなと思った。これがすなわち賞の色であって、それが分かったとしても「響かせる」ところまではなかなかいかないわけだ。
あらゆる地道な作業を経て、面倒くさいことを全部つぶした後に、いままで自分が聴いたこともなかった、身体的な幸福が得られる音が鳴り響く。そういう体験を、一人でも多くの子どもたちに、実感してほしいものである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?