GLOBIS知見録　編集部の乱読帳 8月

GLOBIS知見録のテキスト編集チームの３人（若手ホープとの不確かな噂もある小栗、老眼疑いがある中年男性の長田、大学院で修行中の吉峰）が手に取った本をご紹介する新企画。ビジネス書のほか、文学や評論など、ジャンルフリーで挙げていきます。

多忙な中でもインプットに励むビジネスパーソンのみなさんと読書の喜びを分かち合いたい、そんな想いで始めることとしました。さて今回、メンバーがおすすめする作品は何でしょうか。

今回の３冊

◆小栗が気になった本
「夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わる」　レジー著

こんにちは。夏なので夏フェスの本をご紹介します。
……といっても、夏といえばフェス！となること、そもそも不思議に思いませんか？　夏フェスは野外音楽イベントの「夏ver.」というよりも、サマーレジャーのひとつとしての色が濃くなってきたからなのだと思います。

本書はそんな夏フェスが「コア層のための、音楽を浴びる場」から「みんなのための、楽しく夏らしさを味わう場」に変わるまでをビジネス観点で追った本です。わたし自身、音楽好きとして時折フェスに足を運ぶ中で、出演者の変化や「映え」スポットが年々陣地を広げる様などに興味を覚えていました。同じような方が本書を手に取ると、これもわたし同様ページを捲る度に頷いてしまうのではないでしょうか。

著者は音楽誌やブログで執筆活動をしつつ、普段は戦略コンサルタントとして活躍されている方。そんな著者の目線で触れられている、需要側が供給側を刺激し提供価値がブラッシュアップされていく流れや、プラットフォーム化する中でステイクホルダーに与えてきた影響などは「世の中を騒がすムーブメント」としてのフェスに興味はあっても、音楽には興味が……というビジネスパーソンの方にも参考になりそうです。

数年前の本（2017年刊行）ではありますが、本書を踏まえてコロナ禍で苦難にぶつかる音楽ビジネスの未来を考えてみるのもいいかもしれません。

◆長田が気になった作品
「うなぎや」　佐伯 一麦著　（文芸春秋「文学界８月号」）

初回でビジネス書ではなく文学作品を取り上げることに少し勇気が要りましたが、ビジネスと全く無縁の作品というわけではありません。著者の佐伯氏は電気工時代にアスベストの被害を受け、喘息の持病を抱えながら作品を執筆し、現在は仙台文学館の館長を務めている方です。

本作はアスベスト被害をテーマとする「連作『アスベストス』その四」となっています。どこにでもあるうなぎやの、心安らぐシーンから始まりますが、やがてその情景が読者の心を揺さぶるようになります。報道現場で働く記者には経済部に所属する人間と、市民の視点に立脚して事件や不祥事を取材する社会部に所属する人間がいます。この作品の視点は社会部的です。

企業がすべてのステークホルダーと良好な関係を構築できればそれに越したことはないのですが、現実的にはそうはいきません。ひとつの問題で、長きにわたり批判を受ける企業は数多く存在します。企業側にももちろん、言い分はあります。

アスベスト原因の一部疾患に対しては、治療効果の可能性のある医薬品の開発が進んでいるとも報じられています。産業界の「影」の部分にピリオドを打つには、産業の力がやはり必要なのだろう、と個人的には思っています。伝える仕事に長年携わってきた自分にとって、考えさせられる作品でした。

◆吉峰が気になった本
「起業のファイナンス」　磯崎 哲也著

この夏、５人で起業することになりました――といっても架空での話です。JBCCというビジネスケースコンペティションに大学院の仲間と挑戦するのですが、今年は「大学発のベンチャー」の立場で、短期～長期ビジョンを提出するのが課題です。

我々が携わる架空のベンチャーは、あと数カ月で資金がショートしてしまいます。その間に足元の資金繰りに対処し、算盤をはじきつつも”夢”のある将来ビジョンで心を揺さぶり、投資をしてもらわないといけません。

ですが、何をどう書いたら投資家に響くのでしょうか。そんなときに勧められたのが本書です。事業計画書のポイントや事業価値の計算の仕方などが語り掛けるようにわかりやすく書かれており、一冊で起業のファイナンスの基礎がおさえられる優れものです。

でも惹かれるのは、本筋以外の話。経済合理性以外で投資をしようとする人に要注意（可愛いさ余って憎さ100倍に豹変する⁉）、ストックオプションの課税と非課税の違いで将来もめるから要注意など、著者のアドバイスから起業周りのリアルなドラマが想像できます。起業のリアルに興味がある方は手に取ってみてはいかがでしょうか。

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いかがでしたでしょうか。みなさんも読書を楽しんでください！
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