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偶然とかロックとか過去とか[ひとり呑み記録]

なんとなく焼き鳥が食べたくて、なんとなく吉祥寺に行きたくて、電車に乗った。

マップアプリで「焼き鳥」と検索してみるといくつかヒットした。近くの良さげなお店に行ってみる。お店の前には張り紙が。
「おひとり様でも大歓迎」
とのこと。

もう長くソロ活を楽しんでいるけれど、まだひとり呑みはハードルが高い。カフェや定食屋さんはもう全然躊躇せず行けるけど、居酒屋はまだ2回目だ。
だからこういう一言はとても嬉しい。ぐっとハードルが低くなる。

その続きには「特に女性の方には優しくします」との文字も。
普段女だから優しくされたり力がないと見られたりされるのは嫌なので、「女っぽい」服装を避けたりしているくせに、こういう時だけ自分が「女性」であることを嬉々として思うのだから都合がいいよなぁ自分と思う。

張り紙を見ていたら笑顔のお兄さんが出てきた。
予約してないんですがひとり大丈夫ですか?と聞く。
もちろぉおん!と言われてお店に入る。

鳥を焼いていたお兄さんたちの威勢のいい「いらっしゃいませえ!」の声が私を迎える。私は笑顔でこんにちは、と言う。

カウンターの席に案内され、着ていたコート掛けますか、座席の下にバッグ掛けるフックありますからね、などテキパキと案内してくれる。歓迎されている、と感じる。接客におけるホスピタリティを見事に体現している店だ。

タブレットで注文できるのは食べログの画像で確認済み。最高。
時代はソロ活にどんどん優しくなっている。
タブレット方式とQRを読み込んでスマホでオーダーする方式がかなり多くのお店で取り入れられている。
一人でも誰かと一緒でも、店員さんに向かってすみません、と言うのはいまだに苦手だ。
これらシステムは、お客さんにとっても店員さんにとっても手間を省く素晴らしいシステムだと思う。開発してくれた人、ありがとう。

魅力的なメニューが並ぶ。
食べたかったタレのもも焼き鳥とぼんじりを注文。お酒は果実ゴロゴロのもも果実酒を。

お兄さんがやってきて、私の顔を覗き込んで冗談っぽく笑って言う。
「ロックでほんとに大丈夫ですか??」

私はロックが好きだ。薄めない、濃いやつが好きなのだ。カシスオレンジを頼んだりする可愛いお酒の飲み方ができたらモテるんだろうなぁなんて思う一方で、そういうのに真っ向から反逆を起こしている自分が好きだったりする。

大丈夫です、と笑って言う。強いので、と付け加える。

おっけいです!とお兄さんは笑ってグラスなみなみまで注いでくれた。持ち上げると危うく溢れそうになる。

まさにゴロゴロ、細かい桃の果肉が詰まっている。
ももをぎゅっと絞ったくらいに濃厚で、アルコール度数も高めっぽい。

「水飲んでくださいね、結構果実酒くるので」と言って一緒に用意してくれた、こちらも並々に注がれた水をありがたく頂戴する。美味しい。

焼き鳥に時間がかかるそうなので、つまみにモツ煮を注文する。こっちまでなみなみ!もうお茶碗から溢れている。上に載ったゆで卵とネギがよい。

お兄さんが仕事帰りですか〜など話しかけてくれる。そう、私は誰かと喋りたくてカウンターの店に来たのだ。ひとり呑みの醍醐味は、店員さんとのその場限りの交流だ。誰かと一緒だったらその人とおもに話すけど、ひとりだと話しかけてもらえる率が高い。

出身を聞かれて、滋賀県です、と答えると、お兄さんの顔が固まった。

なんと一緒だった。

市は違ったけれど、滋賀出身の人と会ったの久しぶりですわ!とお兄さんは嬉しそうに色々話してくれた。すると隣の席からすみません、と遠慮がちに一言。

「僕も滋賀です、」

お兄さんと私の「え!!」と言う声が重なる。この広い大都会東京で、小さな焼き鳥の店に滋賀出身の3人が集まったのだ。

年はそれぞれ10歳ずつくらい離れていて、滋賀のスーパー平和堂や、そこのポイントカードの名前「ホップカード」が出たところで「懐かしいぃ〜」とみんなでハモる。

可愛らしいカップルの二人組だった。隣のお兄さんの彼女さんは広島だと言う。広島はあれもこれもあるけど滋賀は何もないねぇ〜と滋賀県勢は笑う。

モツ煮は濃厚で美味しかった。まさに「煮込まれた」味。家では作れない。それをちょこちょこ食べていると待望の焼き鳥がやってきた。

パリッとしたお肉に甘辛いタレがうますぎる。塩の方もうますぎて思わず顔が上を向く。何かに向かって拝みたくなる。

お兄さんに出身高校を聞かれた。
答えるとめっちゃ賢いじゃないですか、と言われる。ああ、そうだったなと思い出す。
高校聞かれたの何年ぶりだろうか、と考える。

昔の話ですから、と答える。
本当に昔の話だ。数年前まではその高校と自分は一体のように感じていた。自分のアイデンティティの中にその高校にいるということが大部分を占めていたのだ。
だけどもう、本当に遠い昔のように感じる。履歴書の上では出身高校はそこなのだけれど、もはや自分の一部ではなくなっていることを感じた。

学歴と自分の価値を一体にしていた過去を振り返る。そんな時期もあったなぁなんて思い出す。そう、それは「過去」であり、私にとって「思い出す」ものとなった。

滋賀出身の隣のお兄さんたちカップルの話を聞いていた。付き合って長く同棲しているようだ。ひとまわり年上の二人だったけど、彼女さんはとても可愛らしい方できっと平和な世界を築いているのだろうと何も知らない私は想像した。彼女さんも同じももの果実酒を飲んでいたでもロックじゃなかった。
密かに私は勝った、と思う。
何と勝負しているのかは分からない。

楽しい夜だった。
ひとり呑みをしていると、なぜかああ自分このまま一人で全然大丈夫だと思えてくる。だから好きだ。自分を取り戻した気分になる。また明日から、頑張ろうなんて思えたりする。

日本酒があまり馴染みのない私に、お勉強です、と言って小さなお猪口に日本酒を少し注いでくれたり、帰り際にお口直しの串刺しフルーツをくれたり、飴をくれたり、、ホスピタリティあふれる素敵なお店に出会った。また来ようと思う。

ぎゅうぎゅうの京王線に乗って家に帰った。
コンビニでチョコレートナッツの棒アイスを買って家まで歩くのが私の定番だ。
秋になって冷たくなった夜風が頬を撫でる。知覚過敏に悩まされながらアイスをかじる。夜の闇が全てから私を隠してくれる。

コンビニから家までが近くて、アイスを食べ終わる前に家に着いてしまうのが惜しい。
こういう時だけコンビニなんて遠い方がいいんだ、なんて思うのだから都合がいい。

そんなこんなで今日も無事に帰ってきた。
窓を開けると冷たい風が入ってくる。梅酒を注いで窓辺でこの文章を書いている。もちろん、ロックで。

以前ソロ活仲間でもある友人が、「躊躇なくお金がかけられる趣味が欲しい」と言っていたのを思い出す。自分はこれかもな、と思う。

いい1日だった。ソロ活はやっぱ私の幸せだった。

また明日。

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