あの匂い


日の陰ったかと思うとたちまち雲が集まりきて、さあと風が吹いて、さて夕立ちが来そうだな。土用の虫干し言うくらい今はそれだけ日差しが強くて何を洗って干してもすぐ乾くから今日は朝より冬物の毛布やらを干していた。それを急いでしまっていると、ごごごと空が鳴り、そら来た、腕に抱える毛布がぽかぽかと完全に乾いているのを感じると夕立を出し抜いた気持ちであった。しまい終えると、こちらは夕立を待ちつ空を見あげる。しかし、意外と来ない。爽やかな風がぴたりと止み、生ぬるいようなのに変わり、夕立後のような蒸し暑しさが先にきているようだ。それで空を見ている。雷鳴におじけて静かにしていたヒバリやらカッコウがまた鳴き始めている。また雷鳴轟くと、静かに雨粒が軒をぽつぽつ叩き始めた。鳥や蝉はいつの間にか鳴き止んでいた。次第に雨粒大きくなり、雨垂れが軒から流れ落ちている。暫く今度は涼しい風が網戸を抜けて入ってきて、しまった洗濯物を揺らしている。油断していると雨まで入ってくるかしら。日中焼かれたアスファルトに雨が当たり、蒸されて、ああ、あの匂いがする。急にポエティックになった女が言いがちな「雨の匂いがする」の本当の正体を明かして、それをぴしゃりと台無しにしたい、そんな心持ちで「アスファルトの蒸された匂いがする」と独りごちている。


いいなと思ったら応援しよう!