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バンドっぽいピアノトリオ(前編)

先日、自分の好きなピアノトリオの推し曲を集めたプレイリストを、初めて作ってみた。プレイリストの名前は、”Bandish piano trios”、つまり「バンドっぽいピアノトリオ」である。ジャズを聞き始めた大学生の頃から、ピアノトリオ(ピアノ、ベース、ドラムで構成される演奏形態)が大変に好きなのだが、残念ながら根がロック少年だったこともあり、どうしてもリフがいい音楽に弱い。また固定のメンバーで一緒にやっていることで形成される独特のバンドサウンドに弱い。結局のところ、人間はそう簡単には変われないのである。なので普段あまりジャズを聞かない、でも音楽は好きorバンドは好きと言う人には面白がってもらえるかもしれないという邪まな気持ちも相まって、そんな名前にしてみた。こちらがそのプレイリストである。(全20曲/約2時間)。

いざプレイリストを作ったら、いろいろと語りたくなってきたので、僭越ながらさらっと各曲を紹介しようと思う。20曲もあるので、記事は2つに分けることにして、まずは前半10曲を語ることにしたい。尚、文中にはAmazonのリンクを貼っているが、収録されているアルバムを紹介する以上の意図はないのであしからず。

ということで、前置きが長くなったが早速書いてみようと思う。是非プレイリストを聞きながら、読んでもらえたらとても嬉しい。

1. GOGO PENGUIN ”ONE PERCENT”

2009年に結成されたイギリス、マンチェスター出身のピアノトリオ。ゴーゴーペンギンというふざけたバンド名だが、楽曲はガチでかっこいい。この曲のイントロはプリペアードピアノで単音連打されているだけなのに、ぞわっとくるカッコよさ。後半の壊れたレコードのようなエグいキメも必聴。多分、踊れるピアノトリオといえば、必ず名前が出てくるバンドの一つだと思う。そして曲を聞いた後には、このバンド名が寧ろカッコよく感じてくるから不思議である。

2. E.S.T. ”From Gagarin’s Point of View ”

個人的に世界で最も好きなバンドの一つ。普通、ジャズのピアノトリオと言えば、リーダーの名前を冠したトリオ名にするのが通例で、このバンドも最初はEsbjorn Svensson Trio(エスビョールン・スベンソン・トリオ)というピアニストの名前を冠していたのだが、このアルバムから”E.S.T.”というユニット名に変更している。(頭文字を取っただけなのはご愛敬)。音楽は言うまでもなく素晴らしいのだけれど、そういうバンドらしい姿勢もすごく魅力的である。好きすぎて、このプレイリストに4曲も入れてしまったことを許して欲しい。決してネタ切れではない。

3. Espen Eriksn Trio "Subruban Folk Song"

ノルウェーで2007年に結成されたピアノトリオ。この曲は、ゲストにAndy Sheppardという英国のベテランサックス吹きを迎えた4人組で演奏されている。「3曲目にしてもうサックス入っているじゃねーか」と突っ込まれると何も言い返せないのだが、決してネタ切れではない。最初の30秒くらいに印象的なリフが繰り返されるのだが、それがとんでもなく切なくて美しい。「エモい」とはこういう曲のことだと思う。

4. Marc Perrenoud Trio  ”Color Nine”

スイス生まれのピアニスト、Marc Perrenoudがリーダーを務めるピアニスト。美メロなフレーズが多めで、テクニックもピカいち。メンバーも長いこと一緒にやっているので、バンドとしての盛り上げ方が共有されているように感じる。曲によっては激しく盛り上がりすぎて、ややしつこく感じる時もあるのだけれど、この曲は3拍子の浮遊感も相まって非常に良い調子。

5. Vijay Iyer Trio "Human Nature"

インド系アメリカ人のピアニストのVijjay Iyer(ヴィジェイアイヤー)がリーダーを務めるトリオ。この曲はオリジナルではなく、Michael Jacksonのカバーなのだけれど、完全にカバーの粋を超えている。複雑な変拍子をトリッキーに重ねて楽器が噛み合うので浮遊感とスリルが凄い。それでいて、原曲のメロディアスな部分もしっかり咀嚼されていて、3人の相性もすごく良いので、最高に気持ち良くトリップできる。ちなみに、Vijayは大学で物理学専攻していたくせに、リズムで博士論文書いてたり、ハーバードで音楽教授やっていたりと、アカデミック方面でも結構いい意味でヤバイ人。

6. Lars Jansson Trio "Latour"

北欧系ジャズというニッチなジャンルの中では、必ず名前が出てくるスウェーデンのピアニスト、ラーシュ・ヤンソンが率いるバンド。ドラムが実は息子という親子バンド。そりゃ相性良いわな。親父パワー(?)で、ピアノがぐいぐいとリードしていったり、順番にソロを回したりとジャズのフォーマットに割と忠実なのだけれど、曲がキャッチーかつかっこいいので古臭い印象は全くない。特にこの曲は、インストなのに軽やかに歌っているようでとても耳に残る。

7. The Bad Plus Joshua Redman ”As This Moment Slips Away”

バッド・プラスというバンドが、Joshua Redman(ジョシュア・レッドマン)というサックス吹きをゲストに迎えたコラボアルバム。比較的ローなテンションで始まるこの曲は、そのローテンションを低く保ったまま、リズムのズレ感が生み出すスリルのみで攻め続けるというやばい構成になっていて、最高に中毒性が高い曲。もし気に入った方は、バンドとしても最高に尖っていてるので、是非他の曲も聞いてみてほしい。

ちなみにE.S.T.も、このBad Plusもピアニストがスキンヘッドである。帰納法的には、「スキンヘッドのバンドは最高」という説は有力だと思っているのだが、あまり同意を得られていない。尚、残念ながら、3年ほど前にピアニストが脱退してまったのだが、後任もスキンヘッドのピアニストという、もはやわざとやっているとしか思えない人選なのが面白い。

8. Rémi Panossian Trio ”Water Pig”

フランス人の若手ピアニスト、レミ・パノシアンが率いるバンド。PVを見るとなかなか凝っていて、ジャズバンドというよりもインディーロックバンドのような印象があるけれど、曲もかなりロック色が強い。アレンジの引き出しも多彩なのだけれど、何よりも好きなのは曲の要所要所で強引にハードめな8ビートをぶっ込んでくること。この曲もご多分にもれずそんな構成になっていて、ワンパターンのくせにかっこいいという悔しさ。ロック好きな人にはとても耳馴染みが良いはず。自分たちの「勝ちパターン」を知っているというのは、良いバンドの条件の一つだなぁと改めて思う次第。

9. Esbjörn Svensson Trio ”Seven Days Of Falling”

本プレイリスト2度目の登場、E.S.T.(※2曲目を参照のこと)。
とてもゆったりとしたテンポで曲も少し長めなのに全く飽きないのは、超美メロなピアノ、ウッドベースにうっすらとかかるエフェクト、同じパターンの繰り返しなのに有機的なドラム、そして説得力のあるベースのリフと美味しいポイントがたくさんあるからだと思う。この曲は楽譜的にはそこまで難易度も高くないこともあって、自分のバンドでも死ぬほどカバーしたけれど、なかなかニュアンスが出なくて凹んだことを鮮明に覚えている。テクニックだけではなく、絶妙なインタープレイ(掛け合い)の呼吸がそこにあるからこそ、E.S.T.は「バンド」なのだと思う。

10. Alfredo Rodriguez "Bloom"

ジャケットからすでにヤバイやつ感漂っている。キューバの天才若手ピアニストAlfredo Rodriguezが率いるトリオ。キューバ出身のピアニストはピアノを打楽器のようにパーカッシブに弾くプレイヤーが多いのだけれど、彼もその一人。ただし、敢えてこのプレイリストに入れたのは、決して天才だからではなく、バンドとしての完成度が素晴らしいからである。ドラムはキューバ出身のMichael Olivera(マイケル・オリヴェイラ)、ベースはブラジル出身のMunir Hossn(ムニル・ホッスン)。この二人との相性がもう抜群に良い。この曲は少し物悲しいけれど、口ずさみたくなるようなメロディセンス、そしてそのメロディを生かす曲の展開も気持ち良い裏切りが多く、一目惚れならぬ一聴惚れしてしまった。

ちなみに、音楽好きにはお馴染みのNPR(米国の公共ラジオ)の人気コンテンツ、Tiny Desk Concertにも出演しており、そこでも3人の演奏を観ることができる。わずか3曲で20分弱だが、捨て曲なしで最高に楽しくなれるので、落ち込んだときには特にお勧めである。(2曲目にBloomも演っている)

残りの10曲は後半に続きます。こちらからどうぞ。

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