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空想企画室①スーパーマーケット

こんな商品・サービスがあったら面白いんじゃないか。こんな世の中に、もうすぐなるんじゃなかろうか。そんな空想をもとに綴るショートストーリーです。

市川良介さん78歳、通称リョウさん。5年前に奥さんを癌で亡くし、神奈川県のとある田舎町で一人暮らし。二人の息子はとっくに独立して関西地方に住んでいる。盆と暮れに孫と会えるのが最大の楽しみである。

そんなリョウさんの日常の楽しみが地元のスーパーに買い物に行くことである。今日も足取り軽く、いつものスーパーへ。入り口付近に掲げられている買い物コンシェルジュの一覧パネルを見上げて微笑む。

リョウさんのお目当ては、買い物コンシェルジュあすかさん。もう1年前からおなじみ。予約で埋まっていてどんなに待とうとも、必ずあすかさんを指名する。

「こんにちは!」満面の笑みで出迎えてくれたあすかさん。リョウさんも相好を崩してご満悦である。

「今日は、何をお求めになりますか?」
「なんだか、カレーが食べてたくてね。あと、酒のつまみとか色々ね」
「承知しました。では、こちらへどうぞ」

なんて感じで、二人は寄り添いながら買い物を始める。
まずは、カレーの材料。じゃがいも、玉ねぎ、人参などの野菜類をみて回る。ほとんどが有機野菜で、タブレットでディスプレイに記載のコードをかざすと生産者の顔が浮かび上がり、生産にかける思いや栽培の様子が映し出される。

「ここの農家さんの野菜は安全で本当に美味しいんですよ」とあすかさん。
「じゃあ、これにしようかね」あすかさんのおすすめに素直に従うリョウさんである。精肉コーナーでも、それぞれの肉の飼育状況や生産過程を動画で確認することができる。

「こちらのメーカーのカレールーは少し刺激が強いかもしれませんね。最後にこの豆乳を入れると味がまろやかで栄養面もGoodですよ。お酒のおつまみは魚系がいいですね。こちらの干物は塩分が少なくておすすめです」

あすかさんのタブレットには、リョウさんの買い物履歴はもちろん、週2回通っているデイサービスでの食事データ、医療機関からは健康診断のデータが共有されている。あすかさんは、そうしたデータを考慮しながら決め細かなアドバイスができるのだ。

リョウさんは、買い物しながら貴重な健康アドバイスやおすすめ商品をセレクトしてもらえる。何より、自分の健康を気にかけてくれる人がいるということがうれしい。そして、孫の話などたわいない会話に笑顔で付き合ってくれるのも、あすかさんを指名する大きな動機だ。

買い物コンシェルジュは、指名が入るとインセンティブをもらえる仕組みになっているので、あすかさんのように顧客を何十人も抱えている人気コンシェルジュは収入面でも恵まれている。何より面と向かって感謝されること。高齢者に健康面や生きがいの一旦を担っていることを実感できるので、モチベーションも高い。

買い物を終えた二人は、出口で別れを告げる。会計はセンサーによる商品のバーコードスキャンと顔認証で終えている。購入した商品は、後ほど配送されるのでリョウさんは手ぶら。次の予約を入れて帰路についた。家に帰ると、ほどなくしてスーパーから商品が届く。中には、あすかさんから心のこもった手紙と直筆のカレーレシピが入っていた。胸を熱くするリョウさんであった。

テクノロジーが人の仕事を奪うと不安視する声が聞かれる。しかし、テクノロジーが様々な現場に定着することで、人間のやるべきことが明確になって良いのではないかと思う。接客業において、人間のやるべき業務は本文にあるようなホスピタリティである。人を思う気持ちが強い人ほど、人間味のある「おもてなし力」を発揮できる場面が増えるんじゃないか。思いのあるいい人が活躍できる時代が来ていると思う。


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