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カバンの心理学

奥さんのカバンは中身がいっぱいで、いつもパンパンだ。財布に手帳にスマホ、それに鍵や本、仕事の書類までは分かるにしても、おやつ、傘、絆創膏、腹痛の薬、耳かき、編み物、爪楊枝、その他いつ使うのだろうかというモノまで入っている。それでいつも「重い、重い」と言っている。

一度、僕が奥さんのカバンの中身をミニマル化してあげたことがあった。でも直ぐに奥さんのカバンはパンパンになってしまった。

その話をお世話になっているカバン屋の社長さんに話すと、「それは当たり前だ」と言う。社長さんが言うには「カバンというのは生命維持装置」なのだそうだ。

家の中はシェルターだ。快適に暮らしていけるように何でも揃っていて守られている。それが一歩外に出ると安全とは限らない。何かあったときに、急場をしのぐように準備したモノを入れる袋がカバンなのだと。つまり「生命維持装置」を持ち歩いているのだ。それは昔、ヒトがまだ狩猟時代だった頃からの名残だという。その時代は怪我をして薬草がなかったことが命取りになったのだ。だから薬草を袋に入れて持ち歩いた。今でも軍隊のカバンの準備は万全だろうと社長さんは話す。

カバンの中に、用心してモノをパンパンに入れる人は準備や段取りが良いのだと。だから奥さんの事を段取りの良い女性だと言ってくれていた。こういうのをカバンの心理学というのだそう。これは社長さんがカバン屋を長年していて気がついたそうだ。「まず、外れることは無いよ」と言う。

例えば、「独身の若い男は、まずカバンを持たない。ジーンズの後ろのポケットに長財布を突っ込んでるだけだ」と。それは「まだ身が軽くてあっちこっちにガールフレンドがいて、ガールフレンドの元には生命維持装置が揃っているから自分は持ち歩かなくてよいから」だそうだ。両手が空いた手ぶらが自由で好きなのだ。

それが、男が相手を一人に決めて、その彼女に連れられて店に来ると、まず男は「自分用のショルダーバッグを買わされて、自由が終わる。」のだそうだ。ショルダーバッグの中身は財布、スマホ、鍵ぐらいだろう。まだ「生命維持装置」ではない。しかし、最終的に男が大きめのトートバッグやレザーバッグを持つ頃には、「そろそろ結婚が近づいてきたのだとわかる」のだそうだ。

ショルダーバッグでは容量不足になったのだ。ハンカチも持つだろうし、仕事の資料も持ち歩くようになるだろう。手帳の一つでも持ってスケジュール管理ができるようになってくる頃だ。仕事も出来るようになってきて将来を考えだすだろう。男も守る人ができるとトートバッグで「生命維持装置」を持ち歩くようになるのだ。

しかし、いきなり大きなカバンを男に持たせてはダメだそうで、女はあせらずに段階的に男のカバンを大きくしていくのがコツだそうだ。いきなり大きなカバンをもたせようとすると男は逃げる。「これは法則だ」と話してくれた。



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